六 海の家、雨の日

 あくる日、男の子は、海の家でまた女の子に会った。

 

 砂浜は、朝から降りつづく細かい雨にうたれ、しゃらしゃらと、海岸にうちあげられた貝がらや魚や、砂のひとつぶひとつぶまでが、泣いているみたいだった。あるいは、はしゃいでいるみたいだった。

 

 海の方は、しろい煙を吐いているようで、遠くはぼやけて見えなかった。

 

 男の子と女の子は、少し離れた椅子にこしかけ、ずっと外を見ている。

 何十分も経ったかもしれないし、五分くらいなのかもしれない。

 ふたりとも、なにもしゃべらないままだった。

 女の子はまっすぐ海の方をながめ、男の子は空をながめていた。

 

 ふと、

「もう、九月だね」

 

「もうわたし、行かなきゃ……」

 

「いつ? どこへ、きみは、帰るの」

 

「もうすぐ。……どこへ行くかは、わかんない」

 

 話し声がやむと、海の家の中はしんと静けさを増し、外の雨は、もっと強く聴こえた。

 

「あの……これ、あげようと思うんだ」

 

「だれ? あたしに? ……これ、なに」

 

「……よくわかんないけど」

 

「これ……」

 

 もしかしたら、それがきみの……

 

「ぴんくの貝がらだね、これ」

 

 つばさ……

 

「きれい」

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