命短し恋せよ乙女19
「くあ。うみゅみゅ」
結果良ければ全て良し。
言ってしまえば慣用句だが、ジルの独断は肯定派にとって追い風だった。
一時の行方不明で、否定派を暴走させ、
「実は死んでいませんでした」
は、銀英伝が言う様に、
「己の正しさを疑わない人間に弁解のしようのない恥をかかせてやりたかった」
に相当する。
「夏でやんすねぇ」
「夏じゃのう」
「夏ですねぇ」
照ノ、玉藻、アルトは花火に興じながら、夜の真駒家の庭で安息避暑をしていた。
季候も良く、夏の匂いを届ける潮風は風情を伴い、それを見渡せる縁側は趣きに満ち満ちていた。
「むー」
「ぐー」
クリスとアリスは不機嫌そうだ。
ジルとエリスは、スイカジュースを飲んでいる。
決着は付いている。
既にクリスとアリスは封じた。
主に実力行使的な意味で。
だが、それとは別に協会は動くらしい。
嬉しがる者。納得する者。ウザがる者から何も考えていない者まで、十人十色で悲喜こもごも。
「南無三」
天の星に祈る照ノ。
自分自身が星神ではあるも、そこに人格が加えられ捏造の記憶をインプットされ、神格化の象徴……天然魔術と相成っているのは皮肉にも過ぎる。
「しかし夜空の綺麗なことで」
線香花火をしながら照ノ。
「都会では見られないよね」
エリスはどこか自慢げだ。
たしかにこの土地の(間接的な)所有者だ。
実家自慢も避暑の内。
「結局どうするんですか?」
半眼でクリスが照ノに尋ねる。
「否定派の刺客を殲滅して、背後の政治家を破滅」
「エリスの事です!」
「御流様に聞いてくれやんせ」
たしかに照ノの管轄ではなかろう。
「人身御供にするんですか!」
「だから御流様に聞きやせ」
取り繕わない。
「見殺しにするんですか!」
「負けてまであーだこーだと文句をつけやすな」
「ぐ」
それを言われると痛かった。
「エリスちゃんはソレで良いの!」
「そもそも何故クリスちゃんが怒っているのかもわからないんだけど」
エリスは自然体で述べた。
殊更、自分の不幸を嘆く事もしない。
「死ぬんですよ?」
「だね」
――だから何か?
表情と声質で、そう答えた。
「やっぱり御流様を滅ぼすしか」
「その後、玉藻に滅ぼされやすよ」
「覚悟は出来ています」
「シスターマリアの魂まで賭けて? 勝手すぎやせん?」
「マリアは関係ないでしょう!」
「そういう嫌がらせのプロフェッショナルでやすから。玉藻は」
「嫌な事言うの」
「事実でやしょ?」
「まぁ……じゃの」
否定はしない様だ。
基本的に嫌がらせで無聊を慰めているところはある。
現状、玉藻を突き動かしている観念は、「面白そうだから」に尽きた。
――それはそれでどうなのか? との疑問とツッコミも存在しないではないも、あえて此処で質す命知らずはいない。
照ノの場合は、八百万信仰に殉じる形。
アルトは、
「照ノ兄様」
と照ノにベタ惚れの腐男子だった。
「わお」
とジル。
黄金の月夜の下、顔を赤らめる。
腐っていた。
「ところで御流様討伐隊の捕捉はー?」
負けた側のアリスが問う。
「やっておるよ。式神を放っている」
「同じく」
玉藻、照ノはサラリと述べた。
「私はどう身を振れば?」
エリスが首を傾げる。
「ジルのムーンレッドに避難しやせ」
カツンと照ノが忠告する。
「全てが終わったら、御流様の祭りが来やす」
そこで今後百年の真駒家の繁栄を願って人身御供となる。
「了解したよ」
「本当に! わかって! いるのですか!?」
「過不足無く」
これを素で言う。
たしかにその胆力は瞠目に値した。
クリスの憤激こそ非建設的だろう。
「で、後は時間だけと」
「そう相成りますね」
「照ノ兄様」
「へぇへ」
「一緒に寝ましょう」
「構いませんよ」
「えへへ」
「アルト公は愛らしいでやすな」
照ノの声も艶っぽかった。
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