命短し恋せよ乙女17


『エリスが御流様みながれさまへの生け贄!?』


 簡潔に述べてそんなところ。


 照ノは酒を飲んでいて……ついでに御前も彼と酌み交わしている……普通に日本の神性は酒に弱く呑兵衛だ。


 エリスとアルトは食後の茶。


 ジルは輸血パックにストローを刺して、何時もの如し。


 クリスとアリスは状況の深刻さに参っていた。


 それもそのはずで、神性の生け贄にスクールフレンドが供し能うなら文句の一つや二つは出ようというもの。


 気にする照ノでも無いし、玉藻御前でもなく、その辺りは完全に総スルーの有様だった。


「――で、やんすなぁ」


 特に重要視もせず照ノは答えた。


 本当に「何とも思っていない」と言外に宣言しており、エリスの今後より酒の一杯に心を傾けている状況。


「何故そんなに冷静なんです!」


 クリスがくってかかる。


「興奮すれば解決するんでやすか」


 酒を飲みながら、照ノは皮肉を一口。


 ジャキッと仮想聖釘を構えるクリス。


「わお」


 エリスが驚いた。


 二次変換もさることながら、質量を呼び寄せたのが画期的らしい。


「それでどうするのー?」


「否定派の派遣する戦力を討滅する」


 久方ぶりに、照ノが真面目に応答した。


 別段、力を込めて発した言葉ではない物の、ソレは不思議に空間……真駒の屋敷に伝播する。


「御流様を守るため……ですか」


「でやんすね」


「ではエリスは……」


「さてどうしやしょ」


「代わりに照ノを捧げるというのはどうでしょう?」


「ツンデリズム原理過激派は言う事が違いやすな」


 照ノが失笑した。


 クイと酒器を傾ける。


「無理ですよ」


 簡素に答えたのはエリス自身だった。


御流様みながれさまが欲しているのは竜の血ですから」


「竜の血……」


 呆然とクリス。


 それからアリスもか。


「それで」


 と照ノ。


「よっぽどの根拠があるんだろうとは言いやしたが」


 魔術の適性。


 神秘の理解。


 奇蹟の崇拝。


 たしかに竜の血族……亜人であれば納得もする。


「で、最終的にどうするんですか?」


 書類上は、


「真駒エリスは行方不明」


 と相成っている。


 否定派が御流様信仰を滅ぼす理由は出来たわけだ。


 同時に肯定派のカウンター的な政治工作も適う。


「クリス嬢はどうしたいでやすか?」


 そこはさすがに勘案に値するらしく、ちょっとだけ瞳を煌めかせて御機嫌伺いの照ノであり、なお自然神としての束縛でもある。


「御流様の討伐。真駒の呪われた血の浄化」


「威力使徒らしいでやんすね」


 皮肉にしては真摯な言葉だった。


 神威装置の教義については熟知している彼だ。


「アリス嬢は?」


「ばっくれるー」


「それも一案ですね」


 苦笑を閃かせる。


「お兄ちゃんはー?」


「さてどうでやしょ?」


 サラッと受け流す。


「ジルは余計な事をしやしたな」


「結果論だけど、手伝えて良かったよ」


「確かに」


 そこは否定能わず。


「エリスは身を捧げると?」


「そのつもりだよ?」


 サクリと彼女。


「人生に悔いはござんせん也?」


「元より承知していた事だし」


 陰気な空気は纏っていなかった。


「アルトと御前は……まぁ小生と同じでやすよね」


「照ノ兄様が全てです」


「ま、同じ魔導災害じゃしな」


「じゃあ」


 とはジル。


「敵って事で良いのかい?」


 赤眼が燗と光った。


「じゃろな」


 飲酒しながら平然と玉藻。


「ほうー」


 アリスが目を細めた。


「照ノと御前とアルトが肯定側」


 そして、


「私ことクリスとアリスとジルが否定側」


 クリスが言葉を受け継いだ。


「であれば白黒付けましょうか」


「結果が分かっているのに?」


 玉藻御前の声は嘲笑に近かった。


「どちらかが滅びるまでやるって言うなら、お付き合い存知やすが?」


 照ノも皮肉めいた声を出した。


「うわお」


 ジルが冷や汗をかく。


 その気が無いらしい。


 かくあらんが。


 そもそも政治的に力を持つジョーカーが照ノと玉藻御前だ。


 どう考えても勝ちの目は無い。


「僕は不参加で」


 滅ぼされては元も子もない。


「クリス嬢とアリス嬢は?」


「意地の一分」


「お兄ちゃん以外となら戦っても良いかなー」


「ではその通りに」


 妙な成り行きだが、そんな事に相成った。

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