命短し恋せよ乙女13


 エリスの行方不明。


 一番焦っているのは真駒の当主だろう。


 あるいは、その背後の政治家か。


 その行く先は誰にも知られず、またご当地の土地開発に於ける税金の投入口について、開発側の意図も存在した。


「では小生はこれで」


 照ノはタバコを吸い終えると、座を立った。


「どちらじゃ?」


「愛は世界を救う」


 大真面目に照ノは答える。


「よくもまぁ懐く」


「ツンデレは小生の養分でやす由」


「じゃろうの」


「では失礼をば」


 照ノは、真駒の家を出て行った。


「ふむ」


 しばらく玉藻御前が酒を嗜んでいると、


「あー、御前だー」


 悠長な声が響いた。


 アリスだ。


 白い髪の美幼女。


 水着を着ており、その上にジャケットを羽織っている。


「おう。アリスじゃの」


「はいー。あなたのアリスですー」


 事情は知らないようだ。


 簡潔に、水着姿が「今日も遊び倒す」と明確に意思を象徴していた。


「他の人達はー?」


「仕事じゃ」


「遊びに行くのでは無くー?」


 この無邪気さよ。


 世間擦れした御前には、眩しく映る。


「アリスはエリスがいなくなったらどう思うんじゃ?」


「神様に祈るー」


「わらわは祝儀を包むくらいじゃから、ま、然程変わりゃせんの」


 グイと酒を飲む。


「何の話かなー?」


 首を傾げるアリスだった。


「何も変事は起こっておらんよ」


 少なくとも、御前にとっては……と注釈は後追いするものの。


「じゃあ今日も張り切って遊ぼうー!」


 ――羨ましい。


 御前の率直な感想だった。


 神勁しんけいの使い手。


 場合によっては最強の一角さえ担う、人類の祖。


 その様に造られ、産まれ、汚された存在だった。


「では遊ぼうかの」


「お兄ちゃんたちも呼びましょうー」


「無理じゃ」


 一升瓶を握って立ち上がる。


「仕事と言うたじゃろう」


「そっち方面ー?」


「じゃの」


「バカンスに来ておいてー?」


「そう言う事もあろうの」


 実は御前も、その範疇なのだが。


「魔導災害ー」


「と申して良いものか……」


 解釈の違い。


 意図の違い。


 利害の違い。


 あるいは政治の違いか。


「遊ぶならわらわが付き添うので許せ」


「うんー。そうするー」


 この何も考えていない感は、まことアリスの強壮たらしめる要素ではあった。


 肉体……あるいは精神にまで及ぶ。


「では水着に着替えるかの」


 久方の外出だ。


 殊に、政治的配慮の結果ではあったが、たしかにバカンスの意味では何かと気分も高揚する。


 水着に着替え、真駒の家のプライベートビーチへ。


「うー」


 アリスが怨めしそうに見やる。


 御前の胸元を。


「おっきいー……」


「ま、それなりにの」


「アリスはおっぱい無いからなー」


「構わん案件じゃろ」


「胸囲の格差社会~」


「威力使徒には言わないでやれ」


「クリスさんはペチャパイー」


「じゃの」


「でもお兄ちゃんはクリスさんが大好きー」


「アレの趣味もよう分からんが」


 実際問題、照ノのクリスへの気の許し方は、少し不可思議だ。


 神が人間をからかうのは……まぁ良しとしても、普通なら飽きて当然の付き合いでもある。


 殊に不幸も起こらないので御前は放置しているが、何か理解には程遠い。


「海だー!」


 アリスは完全に事情から取り残されていた。


 それを「悪」や「怠慢」や「無責任」と詰る者は、いなかった。


 場合によっては、一人で戦況をひっくり返す手腕の持ち主だ。


 それはアリスだけに言える事でも無かったとしても。


「使い魔の反応は今のところ無しか」


 古典ゆかしき管狐を、土地に巡らせ、探知結界を張っている玉藻御前であった。

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