ヴァンパイアカプリッチオ04
先述したが、あまりにも相手が悪すぎる。
が、ソルが、ソレを知ることは無い。
故に、
「では痛めつけますわね」
簡素に、ソルは照ノに襲い掛かった。
既に血も供給されていて、全力全開だったが、
「アリス」
照ノは、焼酎をラッパ飲みしながら、弟子の名を呼んだ。
「あいあい」
アリスは、疑似経絡を展開させる。
夜故に淡い黄緑……まるで蛍の光のように控えめに輝く疑似経絡が、神勁を可能とする。
自己加速。
自身の加速に、神勁で正の掛け算を行ない、超常的な速度を手に入れると、照ノとソルの間に割って入り、ソルに回し蹴りをくらわせる。
強力と言っていい。
アリスの回し蹴りはソルの頭部……その側面を正確に捕え頭蓋を割って吹っ飛ばした。
しかしてソルも中々のモノ。
不老不死の吸血鬼らしく、即時再生して事なきを得ると、再度照ノに襲い掛かる。
それをアリスが防ぐ。
アリスが本気になれば『
「まずは話し合いを。殺し合うのは後でも出来る」
そんな照ノの信条を、アリスも正確に受け継いでいるのだ。
「アリス! 何で男なんかを庇いますの!」
「師匠の事が好きだから」
「男なんて結局女の体だけが目的の下衆ですわよ?」
「師匠は枯れてるから当てはまらないかなぁ」
「おい」
最後の言は照ノ。
「小生とて現役でやすよ?」
酒を呑みながら照ノは反抗する。
「でもアリスに手を出さないじゃないかな?」
「精進しやせ」
「むぅ」
セカンドヴァンパイアと戦いながら、気楽な応酬をする照ノとアリスだった。
「僕も照ノに抱かれたいな」
これはジル。
「制裁しますよ?」
クリスが脅す。
少なくともジルは、神威装置に所属しているため、主に操を捧げていている……ということになる。
そのため性行為は禁じ手だ。
が、照ノはくつくつと笑った。
「安心しやせツンデレイダー。このハーレムで最初に手を出すのはクリス嬢にしやすから!」
「不愉快です!」
仮想聖釘が投げられる。
その聖釘を、照ノは懐から取り出した扇子で弾く。
パンと開かれた扇子には「醜悪嫉妬」と文字が書かれていた。
「可愛いでやすなぁクリス嬢は」
「死ね!」
さらに仮想聖釘を投げるクリス。
払う照ノ。
「ツンデレも業が深いでやんすなぁ」
焼酎の一升瓶を空にして、その辺にポイ捨てすると、照ノはキセルをくわえた。
火皿に刻みタバコを詰めて、二次変換の炎で火を点ける。
ゆっくり紫煙を吸ってゆったり吐く。
煙は大気に撹拌されて消え失せる。
次々と投げられる仮想聖釘を弾きながら、照ノはタバコを楽しむ。
「ツンデリズム主義者としては小生の言葉を受け入れがたいのは道理でやんすが、あまりツンが多いのも考え物でやすよ? ツンが三割。デレが七割。それくらいがちょうどいいと小生は愚考する次第でやすが」
「死ね!」
「落ち着いてママ。ここでパパを攻撃すれば神威装置の立場が不利になります」
激昂するクリスを、トリスが宥めた。
「ぐぅ……!」
クリスは奥歯を噛みしめる。
「小生は何時でもクリス嬢を受け入れる覚悟でやんすから」
嫌味なく笑って紫煙を吐く照ノではあったが、その言葉の構成文字自体が嫌味だ。
「パパも煽らない」
トリスが照ノを睨む。
「愛娘がそういうのならそうしやしょ」
フーッと照ノは煙を吐いた。
「トリス嬢にとっては小生がパパでクリス嬢がママ……と」
「ですです」
「なれば小生とクリス嬢は夫婦でやすね」
「パパとママだからね」
「可愛いでやすなぁ」
「えへへ……」
「ツンデレママも業が深い……」
「トリスはあくまで私の娘です」
「義理でやんしょ?」
「書類上は正式な娘です。あなたはただ私の傍に居るからトリスにパパと慕われただけではないですか!」
「まぁ血の繋がりより深い縁もありやすし」
「やのつく人たちとか?」
「然りでやんす」
タバコを楽しみながら、くっくと笑う照ノ。
ちなみにそんな応酬の間にも、アリスとソルは戦い続けている。
とは言っても、ソルをアリスがあしらっているだけだが。
「アリス嬢。酒も飲み終わりやしたし交代でやんす」
キセルをくわえたまま、照ノは言った。
「まさかソルを殺すつもり?」
「ちと遊んでやるだけでやんす」
「師匠がそう言うのならそうなのだろうね」
そしてアリスは身を引いた。
ソルは邪魔者がいなくなったことで、本格的に照ノに襲い掛かった。
照ノはポツリと呪を紡ぐ。
「火鬼」
その二次変換は正しく行使された。
召喚の魔術。
将棋において周囲を焼き尽くす駒の名を「火鬼」と云う。
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