ツンデリッター再臨09
次の瞬間、
「…………」
世界が反転する。
昼は夜となり血の様に濡れた赤い月が空に現れた。
月明かりだけが茫洋と照らす常闇の中で、照ノはモデリングの変わっていない聖ゲオルギウス学園の校舎の屋上で安穏とタバコを吸っている。
キセルから紫煙を吸って、緩やかに吐く。
照ノにしてみれば驚くにも値しない。
こんなことは日常茶飯事だった。
「て~る~のっ!」
銀髪赤眼の喪服美少女が、常夜の中で照ノを出迎えた。
それから照ノに抱き付いてくる。
ジルベルト=アンジブースト。
吸血鬼である。
そしてアルカードの眷属であり、日光は死活問題となるため、常夜の結界に引き籠っている。
その結界が、この場所と云うわけだ。
常に赤い月が天に在る結界……名を『レッドムーン』と云う。
本来、第三真祖
何故か?
答えは簡単で、結界の外に出れば、長くても半日で死んでしまうからだ。
第三真祖アルカードと、その眷属は、日光に弱い。
であるため真祖および眷属に血を吸われてアルカードの眷属となったヴァンパイアは、常夜の結界たる帝国から外に出られない。
ジルはアルカード直血のセカンドヴァンパイア。
故に吸血鬼としては四の真祖の次に
それは同時に、闇や夜や死と云った負の想念と相性が高いことを意味する。
更に日光に弱いという特徴も受け継ぐ。
なので独自に作り上げた結界……先述したレッドムーンを展開することで、日光から身を守ることが出来るため、帝国を出ることができるのだった。
無論、これは良い事ばかりではない。
というか吸血鬼としての独り立ちは自殺行為に等しい。
何せ外界には敵が多く潜んでいるからだ。
この場合は教会や魔術結社がソレに当たる。
教会は、当然アンチ聖書の化け物を生かしておく理由が無い。
魔術結社の構成員は、吸血鬼を狩って、その名誉を結社に売ることで金銭を得られる。
第三真祖が狩られないのは、その強さとともに帝国の結界に千体を超える眷属を配置しているからだ。
あまりに膨大な数の吸血鬼の結界に侵入して喧嘩を売る人間は皮算用をする者を除いて他にいない。
つまり数の暴力。
が、独り立ちした吸血鬼にはそれが無い。
完全なる孤立。
魔術師(この場合は使徒も含む)は結界の認識には敏感だ。
故に独り立ちした吸血鬼はカモがネギを……というわけである。
現在ジルベルト……ジルが教会にお世話になっているのは神威装置に組み込まれているからだ。
そう珍しいことでもない。
ジルと同じアルカードの眷属……セカンドヴァンパイアのミナ=ハーカーも怪人連盟に組して人類のために動いている。
つまり吸血鬼でありながら、教会や世論を味方につけるのは、賢いやり方と云うわけだ。
閑話休題。
「ジル嬢でやんすか」
抱き付いてきた美少女の名を照ノは呼んだ。
「照ノ。照ノ」
「何でやしょ?」
「えちぃことしよ?」
「却下でやんす」
「いいじゃん。ここなら誰にも見つからないよ?」
「本気で言ってやすか?」
「違うの?」
「アリス嬢とトリス嬢がいやす」
「そうだけどぅ」
「それに何度も言ってやすが……」
コツンとキセルの先でジルの頭を叩く。
「神威装置に所属している威力使徒を抱くわけにはいきやせん」
「じゃあ倭人神職会に籍を置くよ?」
「すれば神威装置が遠慮する理由も無いでやすなぁ」
「うぅ。照ノが童貞だよぅ」
「失敬な。最近はご無沙汰でやすが昔は乱交にふけっていやしたよ?」
「そなの?」
「日本の古典作品はえちぃことで有名ですんで」
「でも天津甕星が誰かとまぐわったって話は聞かないよ」
「まぁ色々とあるんでやすよ……。この歳になるとしがらみやら人情やらで……」
二千歳を超えていると自称する照ノは遠い目をしながら紫煙をフーッと吐いた。
そこで漸く、
「師匠!」
「パパ!」
アリスとトリスが結界の一部を切り裂いて現れた。
ちなみにジルは照ノに引っ付いている。
というか抱き付いている。
ボッと威が増した。
アリスは疑似経絡を展開させて全身に魔術の脈動を発光させた。
トリスはもっと簡単だった。
背中から三対六枚の天使の翼を具現し、手に炎の剣を現具する。
降霊憑依の魔術だ。
「勘弁でやんす」
照ノは両手を挙げて降参。
「うう~。お邪魔虫……」
ジルは不満そうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます