※※※


「Lの20、Lの20……あ、あった。深浦、ここ」

「――ありがと」


 話題作な上に映画館へ着いたのが上映開始時間ぎりぎりだったのだが、座席は横山がすでにネット予約していたため楽に座ることができた。

 深浦を中央側の席へ促し、その隣に昭久が腰をおろす。


「ほんとに飲み物だとかいらなかったのか?」

「うん。大丈夫」


 昭久が尋ねると、座席に座った深浦がにこりと笑った。

 デートだからとか関係なく、横山の選んだ映画はもともと深浦が見たかったものだったらしく、彼の笑顔から本当に嬉しそうなのがわかる。


「…………」

「新田くん、どうかした?」

「――――何でもない」


 どこに行けばいいのか、何をすればいいのか、デート内容はすでに横山によって決められているし、映画のチケットまですでに用意されている。

 面倒なことなど何もない。なのに、昭久以外の男が考えたデートプランで嬉しそうにしている深浦の顔を見ていると、何故だか昭久は面白くない気分になった。


「えっと……やっぱり僕、何か買ってこようかな。新田くんも何かいる?」

「いい。いらない」

「え……でも」

「深浦。そろそろ映画、始まる」

「…………うん」


 開始時刻になり客席の照明が徐々に落とされる。

 辺りが暗くなるにつれて、スクリーンに映された映像が明るく昭久の目に飛び込んでくる。


 深浦は何も悪くない。くだらない理由で機嫌を悪くした昭久が悪い。

 そんなことわかりきっている。なのに、つい深浦に対して愛想のない口調になってしまった。

 どうにもバツが悪くて、昭久はこっそりと深浦の様子を窺った。


 (深浦)


 暗いなか、スクリーンの明かりで照らされた深浦の表情が少し悲しそうに見えて、昭久は思わず肘掛けに乗せられていた深浦の手の上に自分の手をふわりと被せた。

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