「それなら横山は、例えば……どんな子が理想なわけ?」

「ふむ。そうだな……まあ、美人にこしたことはないけど、どちらかと言えば可愛らしい感じだな。それとおとなしめな子がいい。喋り過ぎるのはちょっとなあ…………例えば」


 そう言うと、横山がおもむろに後ろを振り返った。


「――――並ぶとちょうどいい感じの身長差……よく見ると案外可愛らしい。しかも控えめ」


 横山が深浦の顔を覗き込む。

 昭久はなぜかモヤッとしたものを感じて、気づくと低い声が出ていた。


「おい、横山」


 だが、横山は昭久のことなど気にも留めず、しげしげと深浦の顔を至近距離で見つめている。


「いいかもしれない……いや、これはいい。我ながら素晴らしいことを思いついた」

「横山?」

「深浦くん、君、女の子になってみないか?」

「――――え?」

「そして昭久に口説かれてみてくれ」


 横山は深浦の両肩へ力強く手を乗せた。


「俺には女の子とどうやってお近づきになるかの参考になるし、深浦くんも女の子の気持ちがわかる。一石二鳥だと思わないか?」

「いやまて、なにが一石二鳥だ! 俺が深浦を口説いて何のメリットがあるんだ? 俺の意思は!? ちょ、深浦! お前もそこで頷くなって!」

「そうと決まれば善は急げだ。深浦くん、洋服の好みとかあるかな?」

「僕は露出が少なめな方が……」

「おい! 好みってなんだよ、深浦の好みを聞いてどうする気だ!」

「そうか……確かに。昭久はどんなのが好きなんだ?」

「えっ? 俺は適度に露出がある方がいいけど」

「なるほど。だけどそれは深浦くんに似合いそうにないな」

「深浦に似合うって……違うだろ! 横山、ちょっと冷静になれ。深浦もおかしいと思わないのか? って、なんでそこで赤くなってるんだよ!」


 結局、昭久の意思はまるっと無視された形で横山の計画は決定事項となり、その場で横山が深浦の女性ものの服やメイク関連のものまでネット注文してしまった。


「じゃあ、今日のミーティングはこの辺で。また来週!」

「…………」

「僕もバイトの時間だから」


 学食の片隅にひとり取り残された昭久。

 わけがわからないうちに横山の思いつきに巻き込まれ、昭久はその場でただ呆然とするしかなかった。

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