外伝 ブルセラ子4阿鼻叫喚


 わっちはブルセラ子4なのじゃセラ。

 ご主人である兄者あにじゃのために、街の少女の所望する名もなき思い出の花を取りに行くクエストのリーダーを任されたのじゃセラー。


「途端にモンスターの気配がなくなりましたわね」


 わっちに気軽に絡むのはフェアリーの紗羽さわなのじゃセラー。


 レアリティゼロでいわば使い捨ての牧場要員のわっちと違い、レアリティ持ち――といってもたった1なのじゃセラが――のフェアリーは、最大レベルが30で、紗羽はもうすでにレベル18と、この付近においてはバランスブレイカー的なレベルとなってるのじゃセラ。

 まあ、フェアリーは攻撃力も防御力も伸びにくい種族だから回復、回避専用の使い勝手の悪いモンスターなのじゃセラが。


「感じるのじゃセラ?」


「確かに、今までの地域とは異なる、なにか肌寒いような気配がしますわね」


「これが、魔素の影響なのじゃセラ」


 兄じゃ曰く、セーフティエリア外ということなのじゃセラ。

 セーフティエリアとは、わっちたちモンスターが主に生息している地域のじゃセラ。

 比較的安全らしいのじゃセラ。

 その外は魔物が跋扈する危険な世界なのじゃセラ。その一番の理由が濃い魔素にあるのじゃセラ。


 のじゃセラのじゃセラうるさいと思うかもしれないのじゃセラが、これがあっちのアイデンティティーなのじゃセラから、うざかったら読み飛ばしたらいいのじゃセラ。


「とにかく! 前回は、強力な魔物に強襲されて逃げ帰ることになったのじゃセラが、今回は前回と比べて5倍近い、レベルも加味すればそれ以上の戦力を投入してるのじゃセラ。

 失敗は許されないのじゃセラ。

 わっちだけでもミッションを達成して、兄者のところにお目当てのお花を持ち帰るのじゃセラ」


「「「「頑張るのじゃセラ~!!」」」」


 瀬良せらやセイラや青蘭といったブルセラ子軍団が鬨をあげる。


「お姉さまのご命令とあれば、しぶしぶ従うしかありませんわね」


 フェアリーの紗羽もなんとか聞き入れてくれるようだった。


「「「ラミー!!」」」

「「「「「ウガー!!!!」」」」」


 ラミアとマッドゴーレム達も。


 ありがたいことに、グリスラ子先輩が、配下(しもべ)にわっちの言うことを聞くように言い聞かせてくれていたのじゃセラ。


 それがあってなんとかわっちがリーダーをできているのじゃセラ。


「目的地は前回の探索で判明してるのじゃセラ。

 今回はそこに辿り着き花を摘んで、一人でも、できたらわっちであるべきなのじゃセラが。

 街に戻って花を届けるのが任務なのじゃセラ!!」


「ブルースライムがのそのそ進むより、あたくしがぴゅーんと飛んで帰ったほうが安全かつ合理的だと思いますけども」


「紗羽は、重い荷物持てないのじゃセラが」


「うっ」


 そういうわけで、わっちたちはセーフティエリアから、危険地帯――デンジャーゾーン――へと踏み込んだのじゃセラ。


「前はどんな魔物にやられたんですの?」


「い、犬なのじゃセラ……」


「犬? あの可愛い犬ですか? 犬畜生ですか? 大きな銀狼とかではなく?」


「い、犬も怖いのじゃセラ!! 元は野犬だったのじゃセラが、魔素に適応して魔物化してるのじゃセラ。しかもそれが、集団で襲ってくるのじゃセラ。

 素早い動きに、噛みつき、何故か前足の爪も鋭いのじゃセラ」


「笑止ですわね」


 紗羽が華で笑ったのじゃセラ。


「一度襲われてしまえばいいのじゃセラ。こないだは、花を見つけた時に出くわしたから逃げるだけでよかったのじゃセラが、それでもわっち以外が全滅という憂き目にあったのじゃセラよ!!」


「高いところを飛んでいれば問題ありませんもの」


「奴ら、狂犬ウィルスを仕込まれた唾液を飛ばしてくるのじゃセラ。

 当たったら、狂犬バッドステータスが発動して、体力が時間と共に減少していきつつ気が狂うのじゃセラ。終わりなのじゃセラ」


「うっ」


 そんなことを話しながら目的地――前に一度辿り着いたから場所はわかってるのじゃセラ――に向って歩いていると。


「前方に敵影発見!! 数、5~8程度。野犬の群れと思われます」


 斥候に出していた、フェアリー――確か羽子はねこという名前――からの報告が入った。


「おでましのようラミね」

「さっそく腕の見せ所ですか」

「ウガー!!」


「どうなさいます? 蹴散らしてから行くのです?

 被害は出るかと思いますけど」


 紗羽の問いにわっちの答えは決まってるのじゃセラ。


「あんなもん相手にしてたら命がいくらあっても足りないのじゃセラ。

 事前にチーム分けしたのじゃセラね!!

 うさぎさんチーム前へ!! 獰猛化野犬の攻撃を食い止めるのじゃセラ!!

 ひよこさんチームはうさぎさんチームの支援!!

 うさぎさんチームができるだけ長時間崩壊しないように、回復魔法で体力を保持するのじゃセラ!!

 残りはわっちと一緒に……、逃げるのじゃセラ!!」


 あまりにも、酷い作戦だとは思うのじゃセラ。


「それって、うさぎさんチームとひよこさんチームを捨石にするという……」


 紗羽が何かに感づいたように身を振るわせる。


「兄者から指示された作戦のじゃセラ。

 グリスラ子先輩の許可も取ってあるのじゃセラ」


「あの鬼畜……。いえ、グリスラ子姉さまは無理やり従わせられているだけですわね。

 真に鬼心なのはあの勇者……」


「そういうなセラ。目的のためには手段を択ばない男のじゃセラ。

 大義を為すにはああいう割り切りも必要なのじゃセラ」


「それって自分が比較的安全なチームに配属されたから言えることじゃありません?」


「紗羽も同じチームなのじゃセラから、文句言う筋合いはないのじゃセラ。

 それとも、チームを移籍したいんだったら、配置転換はしてやるのじゃセラが?

 あそこで獅子奮闘しているひよこさんチームに加わってみるのじゃセラか?」


「め、めめめ滅相もありませんわ!!」


「とにかく、ここはうさぎさん、ひよこさん、両チームに任せて先を急ぐのじゃセラ!!

 もたもたしてると野犬が追ってくるのじゃセラから!!」


 そう言い放つとわっちは、目的地へ向かい、残りのモンスター娘を引き連れて先を急いだのじゃセラ。


 横目でちらりとうさぎさんチームを見ると、既に噛み傷、ひっかき傷だらけで満身創痍の泥子達が目に入る。

 もはや動けない倒れ伏したものもいるのじゃセラ。


 泥子だけじゃないのじゃセラ。同じく前衛のラミ子達はもちろん。

 素早い野犬の動きに翻弄されて、セーフティエリアでは直接攻撃を受けないはずの、後衛に配置されているフェアリーや、わっちと同種族のブルースライムたちもちらほら攻撃を受けて戦闘不能に陥っているのが見えるのじゃセラ。


 兄者のためのとはいえ、仲間を犠牲にするのは心苦しいのじゃセラ。

 とはいえ命令なのじゃセラ。命令は絶対なのじゃセラ。


 うさぎさんチームとひよこさんチームが全滅しても、まだまだチームは沢山残ってるのじゃセラ。

 かもさんチーム、文鳥さんチーム、あらいぐまさんチーム、コモドオオトカゲさんチーム、ヒクイドリさんチーム。etc、etc。

 わっちのいる亀さんチームまでに沢山の壁があるのじゃセラ。


 前回の花採取で出会った野犬の群れは一群だけ。

 多分今、必死でうさぎさんチームのマッドゴーレム達が食い止めているのがそうなのじゃセラ。

 上手くいけば、もう5~6チームの犠牲を出すだけで無事に帰れるのじゃセラ。


 と、この時は味方の多さに安心して甘く考えていたのじゃセラ……。

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