第20話 オーククイーン
ボス、オーククイーンとの戦闘が始まりました
「にゃー!!」
「せい!」
「エキュア!!」
「ぷるぷる!!」
「ブー!!」
「にゃー!!」
「せい!」
「様子をみますわ!」
「ぷるぷる!!」
「ブーーーーーー!!!!」
時間はかかったが、特に特殊な厭味ったらしい攻撃をしてくるわけでもなく。
雑魚に比べると多少は攻撃力が高いものの。
雑魚に比べると圧倒的にHPが多いものの。
この時点ではなかなか仲間に出来ていないはずであるワーキャットのタマの回避と、フェアリ子の回復魔法と。
俺やグリスラ子の地道な攻撃によって。
難なくオーククイーンを倒すことができた。
「やりましたわ。それでもってオーククイーンも先ほどのオークも仲間になったり素材にできたりしないんですわね。勝手に経験値玉になりましたわ」
フェアリ子の状況説明を軽く聞き流しながら俺は床に転がる経験値玉を拾った。
それで俺のレベルはひとつ上がって、7になった。
レベル7
体力:21(19→21)
魔力:15(11→15)
筋力:12
敏捷:20(18→20)
知力:10
精神:10
器用さ:14(11→14)
そして、残るオークたちは一目散に逃げ出して。
「追わなくていいんにゃ?」
「ああ、あえて倒すこともない」
残されたじじいたちから感謝の言葉をかけられて、
「いやまあ、ついでだから。
家族が心配しているぞ、さっさとうちに帰れ」
と追い返し。
「ピクプル……」
と戸惑いながら、びくびく部屋の奥で震える囚われのピンクスライムたちを解放してやった。ピンクスライムはグリーンスライムと色違いの全裸にピンクの粘液を纏った幼女(に見えてしまう18歳以上)だ。
「これで元通りですわね。
あとは、せっかく逃がしてあげたばっかりですけれど」
「ピンクスライムにゃ?」
「そうだな。少しだけ倒してピンクスライムゼリーを持ち帰ることにしよう。
それで橋の工事に着工してくれるはずだ」
「それにしてもおかしな感じだったぷる。
オークは洞窟に住むこともあるぷるけど、人間をさらってピンクスライムまで飼うようなことをしてぷる……」
「それに……。ケルベロスですわね。
どうしてあんなモンスターが、オークの支配下にあったのか……。
本来でしたら、ケルベロスはオークなんかに
確かにいろいろと疑問は残るが、それはゲームをプレイしただけの俺には説明できないことだった。
ちゃんと裏設定があるのかも知れないし、製作者が適当に考えたご都合イベントで整合性のとれるような説明はそもそも存在していないのかもしれない。
「せっかく来たのにゃし、洞窟の中を探検するかにゃ?」
タマが尋ねてくる。
少しばかり悩ましい問題だ。
この
ストーリーを進めるだけなら、入り口付近でオークリーダーを倒して、今いるオーククイーンの間でオーククイーンを討伐するだけで他に用はない。
が、ケルベロスの関係上、しばらくはこの洞窟には入れなくなるのだ。
入れないといっても入り口に居るじじいが邪魔してどいてくれないからで、ゲームではないこの世界ではどういう扱いになるのかは未知数だが。
ゲームでは確か一定レベルになるまでは、じじいが「ここは危険じゃ。お主らにはまだ早い」とかいって追い返してくるのだ。「骨付き肉でケルベロスの気を引いてその隙に洞窟内に入ることができるじゃろう」とか言ってたことなんてきれいさっぱり忘れて。
まあ、その台詞を俺は聞き逃したのだが。
実はこの洞窟には下にも階層が広がっていてそこそこ強い武器や防具が置かれているはずだ。
だが、下の階層に行くとかなりの強敵――今の俺達では到底敵わない――が出現する。
逆に言うと、それらを倒せるレベルではないと、そこそこ強い武器や防具は手に入らないということだ。
だいたいその基準が門番を務めているケルベロスを倒せるかどうかなのである。
というわけで。
「用は済んだ。いろいろあって疲れているだろうし、さっさと次の街に進むためにもサラサさんにピンクスライムゼリーを届けたいからな。
今日はこれで引き上げよう」
ということになったのである。
「ケルベロスの気配はしないか?」
「匂いはしないにゃ……」
「大丈夫ぷる?」
「ドアにちょっと隙間作るからフェアリ子見てきてくれないか?」
「いやですわ! わたくしだけ!」
「一応、匂いはしないから大丈夫だと思うにゃけど……」
俺達はびくびくしながら、洞窟の扉の前で佇んでいた。
行きはよいよいというか勢いで突破したが、あの時遭遇したケルベロスは遠くに追い払ったわけでもなく、ましてや倒したわけでもない。
その辺に居ると考えるのが妥当である。
ゲームでは、その辺うやむやで、普通に歩いて出たらなんの問題も無かったのだが、いざ現実的に考えるとやはり警戒は必要でそこそこの恐怖を伴うのである。
「じゃあ、せーので開けるぞ」
俺は万一のための骨付き肉を握りしめながら、ドアに手をかける。
「せーの……」
一気にドアを開け放った。
「わん!!」
「きゃあぷる!!」
「出たにゃ!!」
「なんてことですわ!」
「うわあああ!!」
「これはこれは、驚かせてしまって申し訳ない。
なに、年寄りのちょっとしたいたずらだと思って許してくだされ」
ドアの外に居たのは、地獄の番犬ではなく。
俺にこの洞窟に入るためのヒントを与えてくれるはずだったじじいであった。
「まずはお礼を言わなければならんの。
まっこと感謝のしようもない……」
じじいはそもそも声が出なかった設定だったはずだが、時間の経過のためなのか。
その辺うやむやになって普通に喋れるようだった。
「なんのことぷるか?」
「いや、仲間たちがオークにつかまっておってな。
それをお主らが助けてくれたのじゃろう?」
「まあ、そういうことになりますわね」
「おじいちゃんは、あの人たちの知り合いにゃのか?」
「ああ、なんとか助けられないかとこの洞窟までやってきたものの。
一人では怖くってのう。
躊躇している間にお主らがあれを倒して仲間を解放してくれたというわけじゃ」
ちょっと待て……。こんな……。こんな展開……。ゲームでは無かったはずだ。
このじじいは、俺にヒントを与えるだけ与えて、オーククイーンを倒した後にはきれいさっぱり消えていたはずだ。もう一回洞窟に入ったら復活していたのだが、中のじじいとの繋がりなどは一切語ることはなかったはずだ。
俺の知らないシナリオがあったということなのだろうか。
いや、俺だけではない。
こんな展開は攻略サイトにも上がってなかったはずだ。
「全員に礼がしたいが、あいにくと今は持ち合わせがない。
…………」
とじじいは、俺以外の三人、グリスラ子とフェアリ子とタマを順に見渡した。
「そうじゃのう。お主がいいかのう」
と、じじいの視点がグリスラ子で止まる。
「わたしぷるか?」
「ああ、あんたが一番よう似合うと思うのじゃ。
よければこれを貰ってくれ」
と、小さな金色の石の付いたペンダントをグリスラ子に渡す。
「これを、わたしにぷる?」
とグリスラ子が俺を見つめてくる。
一旦受けとって、検分してみるも、よくわからない。
「まあ、貰って置け」
とグリスラ子に手渡した。
「おじいちゃん、ありがとうぷる!」
「ああ、こんなことでしか礼はできぬが、喜んでくれたのならなによりじゃ」
グリスラ子の胸元で金の石が煌めく。
サラサさんもそうだったし。
大筋はゲームとほとんど同じような感じになっている世界だとはいえ、やはりそれぞれがそれぞれの人生を歩んできた普通の人間なのであろう。
このペンダントの価値はわからないが、助けられたら感謝し、礼を言う。礼以上の価値が認められたら物品などで気持ちを表す。それは当たり前のことだ。
この世界のじじいはゲームでの単なるヒント係ではなく。
命を持った知的生命体なのである。
ということをいまさらながらに理解する。
さしあたってはゲームのクリアのため。
その裏に潜む目的はこの世界で俺のもっとも大切なあの
俺は……。この世界を救うべき運命を背負った俺は。
この世界でたったひとりモンスターを仲間にするという特別な能力を授けられた俺は。
それでも、いやそれだからこそ、この先も沢山の人々と関わって行かなければならないのだ。
普通に暮らす人々と、野良モンスターと。そして今回のような討伐対象のモンスターたちと。
ならば……。
シナリオ攻略のためと割り切るのではなく。
本当に人のために、この世界のためにと。
そういう考えで生きていくべきではないのだろうか?
いつか出会うことを望むあの
あの
揺らぐ。気持ちが。割り切った考えにためらいが混じり出す。
「お兄ちゃん? どうしたぷる?」
「いや……、な……。
なんでもない。少し考え事をしていただけだ」
「そうですの。なんだか思いつめた表情をしていたようですが……」
「相談ならのるにゃ」
「大丈夫だ。なんでもない。
それより、橋が治ったら、また次の街へと向かって旅立たないといけないからな。
モンスターも強くなる。
それまでにできるだけ力を付けておこう。もちろん休息や余暇も必要だ。
これからもよろしく頼むぞ、みんな」
「なんだかお兄様らしくありませんわね」
「そうか?」
「でも、そっちのお兄ちゃんもかっこいいぷる」
「どっちも好きにゃ!」
「まあ、その……なんだ。
とりあえず、街に戻って親方のサラサさんに会いに行こう。
俺達の旅は……」
「まだまだぷる」
「はじまったにゃ」
「ばかりですわ」
ゲーム世界にトリップした俺は……、モンスターハーレムどころか……。
頼れる仲間に出会えて……、最高に充実した生活を送ることができそうだ。
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