第7話 妖艶なるサラサ
酒場で仕事をほっぽりだしているサラサさんという年増女の愚痴を聞くことになりました
「あたいの名前はね、サラサって言うのよ……」
ゲームの知識で知っていることではあったが、それを言いだしても仕方がないので黙って聞くことにした。
たしかこの後の自分語りはなかなか長かったようである。
ゲームの時は面倒だから――フルボイスという力の入れようだったが。声優さんには悪いと思いつつ。だけどその声優さんも幼女(っぽく見える18歳以上)モンスターと兼任だろうか別にいいかとも思いつつ――台詞を全部スキップして、攻略サイトの情報を元に進んだ記憶が残っている。
サラサさんはふうっと肩を落とすと、その豊満な胸が上下にたわむ。これもゲームのプレイヤー間では賛否両論――ほぼ否――あったのだ。
巨乳幼女などというノーリアリティを求めぬ、真の○リコンのためのゲームでそんな演出――差分アニメーション――は要らんだろうという心理だ。
とーもかく。
「仕事が嫌いってわけじゃないのよ。
あたいにしかできない仕事だっていうのもわかっているつもり。
だけど、やっぱり仕事だけじゃ息が詰まるじゃない?
だから、毎日仕事終わりにはリフレッシュのためのセルフマッサージをやってんだ」
正確には「やってんだ」ではなく「やってたんだ」だろう。
まあ、言葉尻を捕まえても仕方がないので黙って聞く。
「それで?」
と軽く相槌兼、続きの促しはするが。
ちなみに。
セルフマッサージとかなんとなくぼやけた表現を取っているが、サラサさんが自分でマッサージする箇所は、胸部――とか、特にその先端――と局部であり、それはマッサージという言葉で表すことも間違いではないが、いわゆるアレである。一人でのプレイ的な奴である。
俺は見ていないがゲームを進めていきつつ、サラサさんイベントを消化していくと、たまたまサラサさんがセルフマッサージをしている現場に遭遇してそれを覗き見るというイベントが発生するらしい。俺は見ていないが。
とにかく。
「それがあったから、毎日大変な仕事にも精が出るってわけなんだ」
これも正しくは「わけなんだ」ではなく、「わけだったんだ」だろう。
精を出して精を出す。ダブルミーニングだ。サラサさんは女性だから精的な液の表現は愛的なものに変えるべきだろうが。
「ほう……」
あまり興味はないが、一応興味を惹かれた
「そのセルフマッサージにはさ。ある特定のアイテムが必要なんだ。
近くの洞窟にすむ、ピンクスライムから手に入れられるピンクスライムゼリーって奴なんだけど。
普通に流通しているものじゃないから、あたいは腕っぷしもそこそこあるし、自分で取りに行ってたんだよ。
ここいらのモンスターぐらいなら問題なく倒せるし、洞窟の奥までいけばかなりやばいモンスターが出てくるから危険だけど、ピンクスライムは洞窟に入ってすぐ出てくるからね」
要はサラサさんは、ピンクスライムゼリーという名のローション的なアイテムを自力でゲットしては夜な夜なの一人マッサージに使用していたということなのだ。
「だけどね、ちょっと前のことなんだけど、洞窟に入った途端にあたいじゃあ歯が立たないモンスターに出くわしてね。
幸い軽い怪我で済んだけど、ピンクスライムを倒すこともできずに引き返す羽目になったんだ。
で、その時はたまたまかと思ってたら、何回行ってもピンクスライムに出会う前に強いモンスターと鉢合わせることになった。
ピンクスライムゼリーがないとマッサージの効果が半減してしまうんだよ。
そうなると仕事にも力が入らなくなってね」
めちゃくちゃどうでもいいし、筋が通っているか通ってないかで言えば別にマッサージ用のローションが無くなったぐらいで、仕事を放棄するなよとどちらかといえば筋違いの悩みである。
オリーブオイルを使うなり、別のぬるぬる液を探すなり、方法は幾らでもあるはずだし、そもそもぬるぬる液がないとマッサージができないとか、仕事をする気力が湧かないとか現実問題としておかしな話だ。
だからといって。
サラサさんに、じゃあ俺が満足させてやりますよとかいって解決する問題じゃない。
実際にゲームでは「じゃあ俺が満足させてあげますよ」「ピンクスライムの生息する洞窟はどこにあるんですか」「そうですか、それは大変ですね。じゃあ俺はこれで」という3つの選択肢があって、もちろん正解は2番で、でも展開が見たいとかネタで「じゃあ代りに俺がマッサージしてあげますよ。こう見えてマッサージには自信があるんです」を選ぶと、「何言ってんだい。あんたみたいな若造にあたいを満足させられるわけないだろう」と冷たくあしらわれるのだ。
試しに言ってみた。あくまで控えめに。
「サラサさんほどのマッサージの腕はないし、ピンクスライムゼリーがないと効果も半減かもしれないが、一度俺がマッサージを試してみようか?」
「何言ってんだい。あんたみたいな若造にあたいを満足させられるわけがないだろう」
想像通りの答えが返ってくる。
「すいません、冗談です」
と返して、話を本筋――ゲームシナリオ通り――に戻そうとした瞬間……、
「そうねえ。試してみるのもいいかもね。
あたいも……。
ひとりでマッサージっていうのがちょっとむなしく感じてきたところだったんだ……」
とか言い出した。
えっ?
「あたいの家に来てくれるかい?
わかってんだろ? マッサージ……。
あたいのマッサージが普通のマッサージじゃないってことぐらい」
といいながら、サラサさんは俺の腕を取り、自分の胸を押し付けてくる。
俺の右手は完全にサラサさんの胸の谷間に挟みこまれてしまった。
「いや……」
「やっぱり……、ひとりでマッサージしてるのが悪かったのかもしれない。
あんたよく見るとそこそこいい男だし。
ねえ、一晩試してみたいんだ。
付き合ってくれるかい」
サラサさんの顔が俺の顔の目の前に来て、アルコール交じりの吐息が俺の顔をくすぐる。
「マッサージ……、だけじゃなくってさ。
その後もいろいろ……。
あたいのリフレッシュに付き合っておくれよ……」
展開がゲームと違う。
そりゃあ、みんな決められた台詞だけを喋る
サラサさんの迫りっぷりは、完全に俺の思惑をぶち壊すものだ。
「あたいだけ楽しむんじゃなくってさ。
一晩だけ、一緒に楽しもうよ」
サラサさんの左手が俺の股間に導かれる。
そっとひと撫でされて、俺の体がびくんと反応してしまう。
酒場のマスターは見て見ぬふりだ。
他に客はいない。
とはいえ。
こんなところでおっぱじめるわけにはいかないだろうから、サラサさんの誘いに乗れば、彼女の家に行ってそこで何かをいたすことになるのだろう。
「ねえ、いいだろう?」
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