濡れ衣

 いつからか、この世界には『魔』という現象があちこちで見られるようになった。『魔』は姿はないが意志を持ち、人に取り憑いて体を乗っ取ってしまうのだ。


 駅前を歩いていた僕は、雑踏の中に知り合いの顔を見つけた。


「あの子は……!」


 去年まで同じクラスだった女の子だ。僕は思わず彼女に駆け寄る。

 しかし、僕に気づいた彼女は言った。


「またか……。よせ、近づくな! 私はお前の知っている人間ではない!」


「なん……だって……?」


 そういえば、たしかに雰囲気が違う。あいつはこんなに虚ろな目はしていなかった。


 そんな、まさか……。

 それじゃあ……。


「きみももう……。『魔』に成り代わって……そんな……」


「いいや、違う! よく見ろ私を!」


 彼女はきっぱりと言った。


「私はただのそっくりさんだ!」

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