22. コスプレの前の剃毛




 夏休みの終わりが近づいてきていた。

 インドア派の真弦はことごとくアウトドア派の光矢のデートの誘いを断り続けて引きこもり続けて漫画を描いていた。真弦を海やプールにデートに誘おうものなら奴はスク水しか持ってないからとても恥ずかしい思いをするのは間違いないだろうし、山にデートに誘えば普段鍛えていないから熱中症ですぐにばてて倒れるであろう。

 デートの誘いを諦めた光矢は室内で筋トレしている。彼の日課としてはこればかりである。可哀想だけど、友達が外遊びに付き合ってくれているから別に寂しくは無さそうだ。


 二人は同棲してまだ年数も経ってないのにぐだぐだとぬるいカップルなのは間違いない。というか、彼氏彼女の関係でもないしカップルと呼んでいいのかもよく分からないセックスだけは真面目にやる二人である。ルームメイトかセフレ意外になんて形容したらいいのだろうか。


 明日はコスプレのイベントがあるのか、真弦は急ピッチでミシンを動かしていた。

 特撮の映像をエンドレスで流しながらコスプレの衣装を全力で縫っている。


「真弦~、明日どこ行くんだよ?」


「若草市営体育館。イベントでオタクがうじゃうじゃ集まるからカタギはキツイぞ」


 真弦は淡々とした口調でコスプレ衣装を縫いながら答えた。料理はからっきしだが、裁縫は意外な事に繊細で上手だ。

  白と黒のチェックのスカートに紫をポイントにしたブラウスの地味な印象の衣装が出来上がった。



 早速着てみる。


 魔法とは呼べない奇妙奇天烈な恰好をしたムチムチでぱつんぱつんの魔女が佇んでいた。



「すげえ地味だな。そして無理してる感ありまくりだな。既に魔法少女とかそういう年齢じゃねえよ」


 真弦の体型にあえて合わせているが、肉体が成熟して大人過ぎて最早『少女』とは呼べない。


 それは大きくなり過ぎた魔法少女と呼んだらいいのか?

 このコスプレの原作は『魔女っ娘マジョ☆リカ』というらしい。あえてタイトルにいる主人公のリカちゃんでは無く、露出が少なく地味な印象が拭えないホノカちゃんというキャラクターにしたのはセクシーな肉体で目立ちたくない真弦の変に卑屈な性格から来ているのだろう。

 原作のホノカちゃんは主役のリカちゃん含めつるぺたの幼女である。その衣装を着込んだ真弦はかなり無理があると傍目からは見えた。


「なんつーかその、つるぺたと真逆な体型のお前には似合わないと思うんだが……」


 光矢は嘘が付けない性格なのではっきりと真弦に申した。


「何だと? ちゃんとパンチラしても良いようにホノカみたく黒タイツも穿いて行くんだぞ? 髪だってホノカみたくツインテールに結ってだな」


 似合わないと言われた真弦は悔しくて最後までコスプレしてやろうと髪の毛を高い位置でツインテールに結った。眼鏡を外してカラーコンタクトを装着する。


「ぶはははははは! 似合わねえwwwクソ似合わねえwwwwww」


「この野郎、草を5つも生やすな! 私は真面目にやってるんだぞ」


 光矢に爆笑された真弦は泣きそうな表情で改めて姿見を覗き込んだ。

 妙にボインボインしている魔法少女のなりそこないが鏡の向こうで佇んでいた。


「わぁーっ! こんな胸と尻邪魔なだけだー!」


 自棄になった真弦が魔法少女のコスプレの上からサラシを巻き始めたが、無駄な行為であるのは確かだ。


「俺にはその魅力的な乳と尻は必要だぜ」


「お前は私の体目当てで付き合ってるからそう言えるんだよ! こんなんじゃマキさんコスの美羽と釣り合わん。どうしたら良いんだ?」


「……体が目当てとかそういう事言われると傷つくなぁー。ところで、炎天下の下でその暑苦しい衣装着て行くのか? マキさんは露出高いからどうでも良いとして、明日のお前は汗だくになって死ぬんじゃないのか?」


 室内は節電無視して冷房ガンガン効かせているから特に気にならなかったようだが……。


 ムッとしてる光矢はとりあえず冷房を切ってみた。おもむろにベランダの窓を開け、外の空気を取り込んだ。

 もわぁ……っと熱気が部屋に入り込んできて、たちまち室内の温度が上昇した。


「嫌ああああああああ! やめろ! 干乾びる!」


「天気予報によると、今日の最高気温は35℃だそうだ。明日は38℃の快晴だってよ」


「きゃあああああああああああああああ……」


 真弦は魔法少女の微妙なコスプレのまま打ちのめされ、まだ冷たい床に倒れ込んだが汗ばんできていた。既に脇汗びっしょりになってるぞ! 明日も着てったら脇に注目集める事間違いなしだぞ!


 光矢は窓を閉め、再び冷房をONにした。


「で、明日は今の格好で行くのか? 脇汗酷いぞ」


「冬に持ち越しか畜生ぉぉぉぉぉ……!」


 真弦は床に寝そべったままゴロンと仰向けになって魔法少女の衣装を脱ぎ捨て始めた。タイツは器用に足で脱ぎ、ブラウスとスカートをダラダラと脱いで色気の無い地味な下着姿になる。『CUTE BODY』って書いてある灰色のスポーツブラのロゴが凄く虚しいな。

 緩慢な動作で立ち上がると、ツインテールと下着姿のまま布が積んであるコーナーにしゃがみ込んだ。コラコラ、この部屋には吾輩を含めた男子がいるんですけどね、視線なんてお構いなしだよ。


「しょうがない、マキの次に露出の高いリカを作るか……。ピンクの布ピンクの布……と……無いわっ! あああ、ピンクのヅラも買いに行かないと……もう間に合わん! 短パンをペンキでピンク色にして……ブツブツ」


 自前の私服で何とかしようとする真弦は衣装ケースを引っ張り出していつものホットパンツを出した。まるっきりジーンズ素材ですね。原作の魔法少女リカちゃんのジャージ素材っぽい短パンの生地とはかけ離れていますね……。


 光矢は哀れな姿の真弦の肩に手を置いた。


「もう諦めろ。お前には魔法少女は向かない事は気付いているだろう?」


 ぶわ……! 真弦のカラーコンタクトをした目から涙が溢れた。

 光矢は何も言わずに真弦を抱きしめると、背中をポンポンと叩いた。


 魔女っ娘ホノカちゃんのコスプレを諦めた真弦だが、まだコスプレを諦めた訳では無かった。今回はサークルの売り子では無いので、コスプレでイベントを満喫したいのだ。

 万年床にふて寝した真弦は女の子らしく嗚咽を上げて嘆き悲しんでいた。

 その時、光矢から赤い忍者の服を差し出された。


「何だよ? コスプレHのクノイチじゃないか。傷心の私とセックスがしたいなんて鬼畜極まりないな。で、私の泣き顔で勃ったのかよ?」


「違げーよ! この安っぽい衣装改造して『熱血ファイターZ』の不死鳥マキが作れるんじゃないかと思ったんだよ」


 赤い忍者服を見た真弦がガバッと跳ね起きた。


「マキさんと不死鳥マキ! マキマキコンビで新鮮かも知れない!」


「ふんどしなら貸してやるぞ」


「俺のタワーって書いてある赤いふんどしなんかいらんわ! それにマキは純白の白ふんに決まっている!」


 そして、真弦は猛烈なスピードで忍者の服をアレンジして不死鳥マキの衣装を作り上げた。基本が既に出来上がっているから大体1時間強ってところか。ミシンの力を借りて夕方までには作り終えた。



 ふんどし姿の腋巫女さんが佇んでいる。

 青年向けのゲーム特有のエロさと奇抜さが混在したファッションが新鮮である。真弦は露出の恥ずかしさで120デニールの白タイツを下着にしていた。


「……どうかな? 似合う?」


「似合う似合う! あえて言うなら白いタイツはいらない!」


 光矢は興奮気味に前のめりになりながら真弦に親指を突き出した。


「さすがにふんどし直は恥ずかしいな……。我ながら追い詰められたテンションでやらかしちまった感が……」


「そこは公式に忠実にしろ! 生足で行け。真夏の炎天下でタイツ穿いてる馬鹿なんていねえよ」


「……そこまで言うなら仕方が無い」


 真弦はぐぬぬ……と言いながらタイツを脱いだ。


 姿見に映った真弦の姿は半裸に近い物だった。

 いつものコスプレ着衣Hしてる時のエロエロ真弦さんに限りなく近いよぉぉ?


「うわぁ、ふんどし直はかなりヤバイ気がする……これはひどい。ちょ! コラ、どこをチェックしてる?」


 光矢は床に寝転がって真弦の股間をローアングルから覗き込んでいた。


「当日のカメコが最も注目する場所だ。……うむ、はみ毛があるな」


「覗くな馬鹿ぁぁぁぁぁぁっ!」


 急に赤面した真弦が光矢の顔面に踵を落した。


「ぎゃあああああああああああ!」


 強烈な一撃を喰らった光矢は顔面を押さえてゴロゴロ転がりまわっている。真弦の変に恥ずかしがり屋な性格を知っている癖に哀れな男だな……。


「…………屈辱だ! お手入れしてくる」


 真弦は赤面したままバスルームに消えた。




 数分後。

 じょりじょりじょりじょり……。


「何で俺がお前のデリケートゾーンを処理してやらなきゃならんのよ?」


 鼻にティッシュを詰めた光矢がうつぶせの状態でM字開脚を続けている真弦の股間の無駄毛を処理していた。


「Iラインは自分では処理しにくいんだ。セフレの特権で剃らせてやっているのが分からないのか?」


「お前に乙女の恥は無いのか?」


「さっき風呂に捨ててきたわ! いいから剃れ!」


 要するに真弦は自分が見え辛い場所の無駄毛処理に失敗したのだ。人に頼んでまで毛を処理するコスプレド根性が目に染みるな……。


「ふんどしの上からだと剃りにくい! いっそふんどしキャストオフで頼む!」


「嫌だ! 毛を剃る前に穴に何か突っ込まれそうで困る!」


 こうしてしばらく二人はふんどしの布一枚で攻防戦を繰り広げる事になった。

 光矢のT字剃刀がどこまで攻められるか楽しみではあるな。


 次第に真弦の息が荒くなってきた。

 T字剃刀のちょこちょこした動きと石鹸のぬるぬるした泡に股間周辺を刺激されて変な気分になって来たみたいだ。じんわりと股間の布の中央部分が濡らしてもいないのに湿ってきている。


「ちょ……? お前何興奮してんだ?」


「……あはん……早く見える部分を剃って……!」


 真弦の眼鏡の奥の瞳は熱を含んで潤んでいた。これはもう剃毛プレイとして受け止めているのだろうか? エロいなー。


「ふんどし取っていいのか? 取るぞ」


「嫌ぁぁ……!」


 嫌と言っている割には真弦は簡単にふんどしを剥ぎ取らせてくれたようだ。光矢は真剣な表情で石鹸と愛液で濡れた布を床に置く。

 ぞりぞり……。布が無くなれば簡単と言いたげにT字剃刀が真弦の股間の毛を剃りあげる。


「……うわ……! そこの毛は剃らないでってば! やだぁ!」


 光矢に返事は無く、T字剃刀が恥丘にあった濃いめの陰毛を剃り落し始めていた。


「ああっ、パイパンなんて嫌っ! 恥ずかしい……」


「アメリカでは女は全剃りが当たり前だ。恥ずかしくなんてない。つか、変な液体でぬるぬるになってて剃り辛いんだから大人しくしてろ」


「はぁはぁ……く……屈辱だ……!」


 剃毛プレイに妙に興奮している真弦の股間の割れ目からは確かにぬるぬるの液体が漏れだしていた。いつもはSっ気が強いけど、被虐感でも濡れるからやっぱりMっ気もあるんだよな。

 セックスパートナーの光矢の手で真弦の股間は見事につるっつるの幼女マンコになった。毛が全く無くなって性器が丸出しになっている。


「……ところで、アンタのチンコはどうなってるんだ?」


 目を爛々と輝かせた真弦が光矢をひっくり返して既にもっこりさせていた股間をわし掴んだ。

 たちまち抵抗しない光矢の半ズボンとパンツが剥ぎ取られた。アッー!






 ぱちゅんぱちゅんとぬめった水音がパソコンで流しっぱなしの特撮映像のクソ真面目な会話音に紛れて聞こえている。


「あ、あ、あ、あ、あ……!」


 悦楽の表情を浮かべた真弦が光矢を組み伏せて逆レイプしていた。

 自分で快楽のスポットを当てられる騎乗位が最近の真弦のお気に入りである。彼女が腰を動かすたびに大きなおっぱいがプルンプルンと上下に揺れている。


「ううう……真弦もう勘弁して……」


「はん! あん! あん!」


「き……聞いてねえ……あっ」


 真弦の膣の締まりが良いようで、挿入して早くも光矢がイキそうになっている。


「ウフフ、イかせないよォ!」


 Sのスイッチが入った真弦は光矢から鞘を抜いた。粘性がある愛液がコンドーム越しの竿にドロッとこびりついた。


「フーッフーッ、生殺しは卑怯だ……」


 快楽の波が引いた光矢が呼吸を整えて起き上がる。ムスコはまだ元気です。


「……ハァハァ、今度は、バックから、ぁ攻めて」


 真弦が獣の様に四つん這いになって腰を高く上げておねだりする。パイパンになったマンコは口を開けて愛液を涎の様に垂れ流していた。

 しばらく獣の体勢で待ち続ける真弦に対し、光矢は姿見を手前に運んできた。そして低い位置で姿が確認できるようにセットしてから再び寝転んだ。


「真弦、来いよ」


「……ぁ……何?」


「俺に背を向けて跨れ。話はそれからだ」


「ちょ……! それって?」


 姿見を見た真弦が正気に戻りかける。

 パイパンになった股間は見事に割れ目の中までくっきり見えてしまっていた。


 それでも真弦はセックスを止めない。

 姿見に映る自分の姿を極端に恥ずかしがって被虐心を煽りながら自ら進んで光矢のそそり立つチンコに背面からパイパンマンコを挿入した。


「あああっ!」


「よーく見ろ、しっかり食い込んでるのがわかるだろ?」


 自分に背を向けて跨る真弦の後ろから姿見を覗き込んでニヤニヤしている。光矢は真弦のパイパン姿にご満悦の様子だ。真弦の両乳房を掴んで背面座位の状態でいるからとてもエロい!

 性器と性器の結合部がはっきりと姿見にぼかす事無く映されている。


「やああーん! 恥ずかしいぃ。あううーん……」


 真弦は自分の結合部に耐え切れなくて喘ぎながら眼鏡を外した。どうやら自ら視力を落してぼかす事にしたようだ。

 もみもみ、くりくり……執拗なまでの乳房への愛撫がしばらく続く。


「ああーん、らめぇ、わらしおかしくなっちゃうぅぅ……」


 そう言いながら既におかしくなっている真弦は目頭に涙を溜めながら自ら腰をくねらせて嬉しそうに上下に動いている。顔はアヘ顔というのだろうか、姿見の恥辱行為で既に何回か絶頂に達しているようだ。


「おりゃ、おりゃ、おりゃ!」


 光矢が下から激しく突き上げてやると、


「ア、ア、ヒィィィン!」


 真弦が悲鳴を上げて気を失いかけた。

 同時に剥き出しになった尿道口からプシュっと潮を噴いた。

 くったりと首を傾げたまま口の端から涎を垂れ流した真弦は白目になりそうになりながら涙を流した。


「アーッアーッ……!」


 動きを止めても快楽の波が次々と押しかけてきて真弦がビクビクと体を震わせている。

 その時、光矢が急に腰を激しく動かして真弦を突き上げて絶頂に達した。


「ああああああああああっ……!」


「ヒィーッ! アーン! ヒもちいイぃぃん!」


 真弦は叫び疲れて擦れた声で絶叫して光矢と一緒に果てた。

 パイパン効果も真弦をより淫乱にさせる恐ろしい要因の一つになりそうだった。





 淫猥な空気がそこらじゅうに充満している。

 セックスをやり終えて充実した真弦がツヤツヤテカテカしながらコスプレ衣装を丁寧に畳んでいた。そしていつもの粗末な下着と簡素な服を着る。


「若い女は一日一本に限るねぇー」


 打ちひしがれてる光矢は全裸のまま横たわり股間を押さえて丸まっていた。


「テメエ、一本どころじゃねえぞ。赤玉出そうになったぞ……」


 光矢の周囲に使用済みのコンドームがティッシュに紛れて複数落ちている。今日は随分絞られたねぇ……。気持ちよさそうだったから同情はしねえよ。一日に何発もやれるのは若い証拠だろうが。


「くぅー、ヤった後のコーラは効くぅ!」


 真弦は腰に手を当ててオヤジ臭くコーラのペットボトルを一気飲みして盛大なげっぷをしていた。


「さーて、ふんどしは洗って干せば明日に間に合うかな」


 ふんどしの白い布を持ち上げた真弦は中央のシミに気が付くとポッと赤くなった。

 台所にふんどしを持って行き、タライに水を溜めて石鹸で軽くシミの部分を洗った。


 洗ったふんどしは持ち主が誰かわからないだろうからと外に干す事にしたのだが、カーテンを開けて窓を開けると外はもう白んでいた。


「ヴァー、干してたらイベントに間に合わねえ!」


 ふんどしは急遽ドライヤーで乾かす事になった。

 ガーッという音と共に、「せいっ」「たあ!」等とテレビから掛け声が聞こえる。そういえば特撮の映像をエンドレスで掛けっぱなしにしていたな。


「真弦さん真弦さん、そろそろ俺寝たいから動画消していい?」


 体力を使い果たした光矢がパンツだけ穿いて眠そうにしながらパソコンの前に座った。もうパソコンの電源ごと落したいようだ。


「駄目だ! 私は仮面ライダーΣ(シグマ)を黙過復習中なのだ! 変身! とう!」


 真弦はコスプレ衣装制作中もセックスの最中も動画の内容を確認していた様子だ。手にはシグマに出演している羽瀬和成はせかずなりの写真集を持っていてそれで光矢の頭を軽くチョップした。ちなみに、羽瀬和成は売出し中の若手俳優で、2世である。大御所俳優(名脇役が多い)である父親の羽瀬和彦はせかずひこの息子だ。写真集の彼、とてつもなくイケメンですね。

 何回も繰り返し動画を試聴して復習する位に明日のイベントを凄く楽しみにしているようだった。今回も貫徹するらしい。

 






 朝8時になると私服でキャリーカートを引いてきた美羽が真弦を迎えに来た。今日も美羽はワンピースを着こんでいる。


「んじゃ、行って来る!」


 玄関を出る真弦も今日はワンピース姿だ。Aラインの地味なデザインだから変に広がって妊婦に間違われそうで不格好である。本人曰く会場で着替え易かったらそれで良いみたいだ。


「早く行こう! ツイート見たら行列が凄いんだって」


「よし、こういう時はタクシーを拾おう」


 バタン! 彼女らの会話はドアが閉まると全く聞こえなくなった。

 さて、吾輩は外に出ても干乾びて死んでしまうだろうから光矢とダラダラ寝てようかな……。


 吾輩が冷房の風が適度に当たる場所に移動すると、布団に横になっていた光矢がのっそり起きて来てパソコンを起動し始めた。


「ふーん、コスプレコンテストは2時からなんだな……」


 若草市のサイトをチェックしながら今日のイベントの詳細を確かめている。


「賞品のコシヒカリ60kgは胸熱だな! ようし!」


 光矢は何を思ったか、冷房で涼んでいる吾輩を持ち上げて胴体の長さを大まかに計り始める。雑紙を集めているダンボールにしゃがみ込んで材料を物色する。

 ……若草市営体育館主催の『第2回わかくさマンガ祭り』のイベント詳細を見ると、「かわいいペットのコスプレもお待ちしております」と書いてあった。コンテストの会場は屋外の陸上競技グラウンドだそうだ。まあ、野外なら犬でも猫でも豚でも参加できそうだよな。


 商品のコシヒカリに釣られた光矢は急ピッチで厚紙に色を塗り始めた。


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