真弦さん家の猫の名は金玉五郎
大道 尚
春の話
1. 吾輩は玉五郎である。
吾輩は野良猫である。正式な名前はまだ無い。
……と言っても、ある安アパートの一角に一人で住んでいる年頃の娘が吾輩を『
吾輩はキジトラの雄である。
いつも立ち寄るボロいアパートの一角に住んでいるおっぱいの大きな娘、
解せぬ……!
世間のガキが日曜だと喜んでいる昼下がり、吾輩はいつものように真弦がいるアパートの一階にあるベランダに忍び込んだ。
……いつも置いてあるねこまんまが無い!
いつもなら鯖の空き缶の中に餌が入っているのだが……。
「フニャ~ァ!」
家の中にいる真弦に甘い声を出して彼女を呼ぶ。
が、
『あぉ~ん!』
『オゥフ!』
なぜか人間の雄の切ない鳴き声のようなものが複数聞こえてきた。
真弦はノートパソコンにかぶりつきで何かを鑑賞しているようだが、窓越しの吾輩の目線には何も入って来ない……。
何を見てるんだ真弦!?
「フニャーゴー!!」
吾輩は腹が減って仕方が無かったので、一際大きな声で鳴いてみる。
……。
…………。
返事は無い。真弦はお楽しみのようだ。
腹が立ったので、安っぽい窓ガラスに体当たりしてみる。
ドン! ドン! 2回体当たりしてみたところだろうか……。
「玉五郎! 来てたのか」
真弦は驚きもせず、いつものすっぴん、ひっつめた長い黒髪と眼鏡、擦り切れた中学のジャージ上下姿で吾輩を迎えてくれた。飾り気のない地味な巨乳娘である。
「(飯だ飯!)」
吾輩は真弦の許可なく部屋に侵入する。
「こら、エサはこっちだ」
真弦はお徳用の煮干しの袋を持っていたが、吾輩は煮干しに用は無いのだ。
「(ツナ缶よこせ)」
玄関横に併設された台所に突進する。
どうやら吾輩の食事は残ってないようで……。
シンクにあるのはカップめんの空の容器と味噌のカスが残った鍋、三角コーナーで栽培している(?)カイワレみたいなやつだけだった。
しょうがないから味噌のカスだけ舐め取って床に降りた。
「チッチッチ」
真弦が煮干しを一尾持って吾輩を呼んでいる。
どうやら、来訪した吾輩を外に追い出してエサを与えたいようだ。
野良猫だから汚いと思ってやがるが、そうはいかねえ!
真弦がいつも作業や食事に使っているこたつテーブルの上を陣取る。
四肢を胴体にめり込ませ、くつろぎモードONだ。
「こらーっ!」
真弦が怒鳴っても吾輩はそこをどく気にはならんよ。
「私の原稿から汚い足をよけろ! よけるんだぁぁぁぁぁ」
真弦が半狂乱になっているようだが、吾輩の体の下にある厚紙の感触が心地良いのでどける気にはならん。
「くぁ……」
吾輩は腹が減った事もすっかり忘れ、紙の上でくつろぐ事にした。
「この……っ」
真弦はイライラしながらこめかみをボリボリ掻いているみたいだが、半ば諦めているみたいだった。
諦めた真弦はパソコンの前に座り、吾輩にくれる筈だった煮干しを口に咥えて動画を再生し始めた。
『Oh……Yes!』男優の艶っぽい声が辺りに響き始めた。
人間の雄が雄に凸を突っ込んでいる映像みたいだ。
凸と凸が交尾しても赤ちゃんは生まれないのに何故だ?
真弦は彼女の言う
彼女はそんなBLジャンルで漫画を描いて飯を食おうとしている。
解せぬ……!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます