第5話
「劣勢? なのでしょうか」
【此岸征旅】リーダーのラビ=ミトラ・アーディティヤは未だに戦闘が続いていることを知って、そんなことを思う。
振り返ればそこでは侵入者と【此岸征旅】が戦闘をしている。見た感じ侵入者の数は少ないようだが、それでもこちらが劣勢を強いられているということはそこそこに強いってことだろう。
どこの組織がちょっかいをかけてきているのでしょうか?
アーディティヤは首を傾げて考えてみる。まず思いつくのが公安だ。【此岸征旅】はこれまでにも下界へと攻撃しようと画策してきたことがあった。しかしそのすべてにおいて公安の邪魔が入り計画は失敗している。今回も例によって公安が邪魔をしに来たのだろうか。
次に思いつくのは公安以外の組織。しかし、これまでに公安以外の組織からちょっかいをかけられた記憶はない。もしかしたら【此岸征旅】のやることに不満なり何なりがある組織が新たに現れたのだろうか。
正直な話、後者の方は可能性としては低いとアーディティヤは考える。今までなかったことがこれから起こるとは考えにくいからだ。それならばやはり公安の差し金である可能性を採用するべきだろう。
「まあ、誰でもいいか」
アーディティヤは前を向く。そこにはほぼ完成形の
「これであとは眼球を入れるだけです」と《阿修羅》を制作していた一人が言った。
「そうですか」とアーディティヤは頷いた。
三面六臂の神様を模した魔法兵器がそこにある。眼孔にはまだ眼球が埋まっていないが、これから埋める。
仏教伝承に登場する阿修羅の性質を限りなく取り入れた
下界の世界の住人はみんな魔法が使えないから、科学が〈日本〉より発達している。ゆえに彼らの持つ兵器は科学兵器だ。
科学と魔法は違う。どっちが万能か、そんなのは神の視点からすればわからないが、魔法使いは魔法こそが万能であると思っているものだ。
だからこそアーディティヤは思っているのだ。
この
最高ではないか。こんな島国に追いやられた過去を持つ魔法使いが世界の頂点に立つ。ああ、最高だ。素晴らしい。そんな時代は素敵だ。
「眼は私が入れましょう」
アーディティヤはそう言って、男から一つのケースを受け取る。そのケースの中には六つの眼球が入っていた。
アーディティヤはその中から一つの眼球を取り出し、そしてそれをボコッとはめ込むように眼孔へと押し入れた。
一つ、二つ、三つ……と彼女は眼孔に眼球をはめ込んでいく。
カウントダウンのようだった。
眼球が一つ二つ三つとそれぞれの眼孔の中に入っていくさまは、まるで魔法使いが世界を支配する新たな時代の到来のカウントダウン。
にやけ顔が止まらない。わくわくどきどき。《阿修羅》の完成が待ち遠しい。
五つの眼球をそれぞれの眼孔に収めたそのときだった。
「おい」と声を掛けられる。
はっとアーディティヤはにやけ顔をやめ我に返る。辺りを見回すと、さっきまで《阿修羅》製作をしていたはずの【此岸征旅】メンバーの何人かがいずれも血を垂れ流し地面に伏していた。
アーディティヤは声がした方を向く。
そこには――口元を血で汚した一人の少年が立っていた。
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