幕間
幕間
金髪の中性的な顔つきの好青年――ジュリオ・ヴェルサーチェは【此岸征旅】の本拠地へと戻った。手土産をちゃんと持って。
「これが最後の部位です」
そう言って彼は目の前の女性にそれを提出する。女性の名前はラビ=ミトラ・アーディティヤ。【此岸征旅】のリーダーだ。
「ご苦労様です」
そう言ってアーディティヤはジュリオの持って帰ったそれをまじまじと見る。
エタノールに満たされた大きめの容器の中には一つの肢体が入っていた。肢体と言ってもそれには両腕がない。あるのは脚と胴体の部分。
この肢体は、もとはと言えば小樟楠夏という少女のものだ。
ジュリオが小樟を殺害し、そこから頭部と両腕を切断し肢体を回収したのだ。
アーディティヤは笑みを浮かべる。
「これですべてが揃いましたね」
棚の方を見遣ればそこには今までに揃えた身体の各部位が並べられている。
頭が三つ。腕が六本。眼球が六つ。そして目の前には身体が一つ。
これを然るべき場所で組み合わせれば、それは完成する。
この死体集めまでは大変だった。けど、ここから先はきっとトントン拍子に進むはずだ。
あそこへ行って、これらを組み合わせればあとは勝手に起動する。
強大な力を持った魔法兵器。世界を相手取るには充分な兵器。
すべては【此岸征旅】の念願である魔法使いの繁栄と領土拡張の成就のためだ。
彼らの死を無駄にはしない。ここにある頭や腕や眼球や身体のもとの持ち主の死を無駄にしてはいけないのだ。人殺しをしてまでやるこの計画を【此岸征旅】は悪だとは思わない。正義のため、善のために犠牲を生むことは罪にはならないはずなのだ。
そんな犠牲を経て造られる魔法兵器を用いて、魔法使いの世界を創る。魔法使いがこんな宙に浮いている小さな島国で縮こまって生活するこの状況をぶち壊す。魔法使いは構造的には人間だ。ただ魔法が使えるだけで人間なのだ。だから、魔法使いにも人権はある。魔法使いは化け物ではない。ならば、下界の広々した世界で堂々と暮らす資格はあるはずだ。わざわざ何の能力もないただの人間とわけ隔てる必要はない。というかそれは間違っているとさえ言える。
――我々【此岸征旅】は魔法使いのためにこの計画を進めているのだ。だから、この国の公安だとかにああだこうだ言われる筋合いはそもそもない。我々は正しい。正しいことをするのは罪ではない。正義だ。
やる。やり遂げる。絶対に。
「それじゃこれらを運び出していただけますか? 外の車に載せてください」
アーディティヤはジュリオにそう指示を出した。
「はいわかりました」
「あとほかのメンバーに連絡をお願いします。すべて揃った。計画を実行する。例の場所へ集まれって」
「はい」
「それでは準備ができ次第例の場所へ行き、計画を実行しましょうか」
言って、アーディティヤは思わず笑みを零した。
「まったく楽しみですね。我々魔法使いの天下がすぐそこに迫っているだなんて」
ラビ=ミトラ・アーディティヤは近いうちにやって来るだろう魔法使いたちが笑顔で堂々と下界で暮らせている世界を想像して胸を踊らせた。
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