第二十四章-聖羅学院転入-

第153話「獄界会議」

 獄界――人間界では一般的に地獄と呼ばれる世界。

 炎が燃え盛る空間の中に、飾り気の全くない半球状の建物がある。

 その内部で数人の男女が円卓を囲んでいた。

「よく集まってくれた」

 集団のリーダー格である茶髪の青年が仲間たちに声をかける。

「まあ、アタシ前からあいつ気に食わなかったしねー」

「好き嫌いの問題ではない。奴の存在を許してはいけないと言っているのだ」

 仲間たちにもそれぞれ意見があるようだ。

 彼らは人間ではない。羅刹でもない。

 彼らは獄界を守護し、罪人を罰する冥獄鬼と呼ばれる存在だ。人間界の用語でいえば獄卒鬼ごくそつきか。

 今は、ある人物を討つための会議をしている。

「戦力が多いに越したことはない。協力してくれるなら、それで十分だ」

 リーダーの青年は無駄話を咎めない。

「そういや灼火の奴やられたんだってね。誰か後任はいるの?」

「灼火の使命は断劾によって消滅させられた。もはや引き継ぎは理によって求められていない」

「確か兄貴の方は始末できたんだろ? 妹の方も未来を見る力は失ってるんだし、気にしなくていいんじゃないか?」

「そもそも、めちゃくちゃ重要な使命なら灼火一人に任せないよねー。あいつ、そんなに強くもないし」

「お前に言われたくはないと思うがな」

「別においらより弱いとは言ってないよー?」

「そろそろ本題に戻ってもいいだろうか?」

 リーダーは怒りこそ見せないものの、既に滅せられた灼火の話題は打ち切る。

「失礼いたしました。続きをどうぞ」

 金の長髪で白装束の青年は、礼儀を弁えているらしく、敬語でリーダーに話す。

「ようやく結界石が完成した。今なら一部の敵は弱体化している。潮時といえるだろう」

「それで? 何人倒せばいい訳?」

 金髪オールバックの青年がリーダーに問いかける。

「極論すれば一人だが、要注意人物が六人ほどいる」

「メインターゲットは除いて六人?」

「ああ」

「四大霊極プラスアルファってとこね」

 露出の多い軽薄そうな女がリーダーの説明に補足する。

「それぞれの能力は?」

「そのぐらいは事前に把握していないのか」

 長髪の青年がオールバックの青年をたしなめる。

「時空の支配・力の支配・光の支配、これらが最も厄介だな」

「恐ろしい能力……。おれ、そいつらもほっとけない……」

 いかつい巨体の男が、メインターゲット以外も倒すべきだと主張する。

「もちろん全員倒してくれて構わない。奮戦してくれ」

「時空の支配は理の力で一部相殺できるのよね?」

「そのはずだ。……そうでなければ、どうしようもないところだが」

 理は世界そのものの意思。空間をもねじ曲げるその力は強大なものだ。

「あとの三人は?」

「『死水回生しすいかいせい』と『霊子吸収れいしきゅうしゅう』。前者は強大な癒しの力。後者はその名の通り攻撃を吸収する能力だ」

 リーダーはこれまでに得ていた情報を仲間と共有する。

「ん? あと一人は?」

 オールバックの青年は、不自然に省かれた最後の一人の能力に疑問を持ったようだ。

「これがよく分からん。先に挙げた五人ほど特別な力があるようには思えないが、奴からの扱いを考えると無視はできない」

 世界の理を守護する冥獄鬼は、異世界で起こる出来事を監視しているが、当然すべては把握しきれない。

 不明であるが故の脅威は彼らにもある。

「そいつはオレに任せてくれねーか? 殺さなくてもなんとかなるかもしれねーんだ」

「いいだろう」

 セミロングの赤毛をした青年の提案をリーダーは承認した。

「しっかし、羅刹ってのはどうして、どいつもこいつもめちゃくちゃ強い能力持ってんだ? 他の世界の神レベルじゃんか」

 オールバックの青年が、これからの任務の厳しさを嘆く。

「弱音を吐くな。我々と同等の力の持ち主は、そう多くはいない。勝ち目のある戦いだ」

 長髪の青年は、自軍と敵軍の戦力について冷静に分析している。

「下っ端も含めればこっちが多いかなー?」

 軽薄そうな女は楽観的だ。

「単純な数ではなんともいえんが、下級兵士の練度はこちらが上と見ていい」

 リーダーが言う敵側の下級兵士とは、霊神騎士団の平隊員を指している。

 厳しい入団試験を通ったとはいえ、上位階級でない騎士で冥獄鬼を倒せる者はほとんどいない。

「となると、四大霊極に対し多人数をぶつけるべきですね。『光』は私の部隊が引き受けましょう」

 長髪の青年が戦術を提案する。

「おれ、一緒にいく……」

「分かった」

 巨体の男と長髪の青年が共闘すると決まった。

「結界石の守りは?」

「アタシやってもいいよ」

「『力』の奴って、そもそも霊京にいんの?」

「現れる可能性はある。心構えはしておけ」

「おいらは雑魚を狩る役やるわ」

「強敵に遭遇しなければいいがな」

 他の者への対処も順々に決まっていく。

 冥獄鬼たちの、羅仙界侵攻計画が着々と進んでいるのだった。

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