第十一章-英雄VS殺戮者-

第62話「羅刹の誇り」

 霊京の四番街と一番街を繋ぐ街道。

 羅仙界から人間を排除せんとする霊神騎士団との最終決戦に向けて走る優月と沙菜。

 前方から敵の軍勢が向かってくる。

「あれは……?」

「四番隊ですね」

 こちらは二人なのに対し、敵は数十人から百人程度はいそうだ。

 ただ、この部隊には女性しかいないようだった。

「止まりなさい。如月沙菜」

 隊長の斎条さいじょう妃紗美ひさみが制止をかける。

 優月たちと第四霊隊は睨み合うこととなった。

「ふむ……。トリやんからの情報通りですね。四番隊は隊を二つに分けた。一方は雷斗様の足止め、もう一方は私たちの足止めにと」

 多勢に無勢ともいうべき状況だが、沙菜は落ち着き払っていた。

「――! どこからそんな情報を……」

 驚く斎条を無視して言葉を続ける沙菜。

「より強大な敵である雷斗様の相手は男性隊員にさせ、自分たちは弱い私たちの相手をしようという訳ですか。ここまでなめられちゃあ仕方ありませんね」

 沙菜は抜刀した上で優月に声をかける。

「優月さん、先に行ってください。こいつらは私が殺しておきます」

 第四霊隊に続いて第三霊隊もこちらに進軍してくる為、西から迂回するようにとの指示も受けて、優月は沙菜を残し一番街へと向かった。

「行かせると思う!?」

 隊員たちが優月を止めようとするが、それを遮るように霊気の膜が張り巡らされる。

「霊法八十八式・護霊壁ごりょうへき。そっちこそ生きて帰れるとは思わないことです。――!」

「くっ……。みんな霊魂回帰よ! 全力を以って如月沙菜を撃破するわ!」

 斎条が隊員たちに号令をかけるが。

「甘い」

 沙菜の魂装霊俱、朧月の刀身が光り輝いたかと思うと、霊魂回帰しようとした隊員の魂装霊俱の魂が全て吸い込まれていた。

「そんな……!!」

「ここまでの力だなんて……」

 狼狽える隊員たちの間を、沙菜が一瞬で駆け抜け、その半数近くを一気に斬り伏せてしまった。

「私の能力『霊子吸収』は知っているでしょう? 魂装霊俱の魂を丸ごと吸い尽くすほどの力はないと思いましたか? まずは己の魂の矮小さを知るべきですね」

 沙菜はたった一人で、第四霊隊を圧倒していた。




 霊京一番街。第三霊隊詰所。

「隊長! まだですか!? こうしてる間にも第四のみんながやられてるかもしれないんスよ!?」

 第三霊隊副隊長・朝霧大和が、霊子端末に向かっている隊長・遊仙ゆうせん隼夫はやおを急かす。

「もう少しだ、待っておれ。如月沙菜の『霊子吸収』に何の対策も施さず挑んでも勝ち目がない」

 遊仙が『霊子吸収』の対抗術式を準備し終えると、第三霊隊も出撃した。


(待ってろ。陽菜ひな……!)

 先に出撃した第四霊隊所属の幼馴染を案じながら仲間と共に街道を走る大和。

 その途中、妙な違和感を覚える。

「なんだ……? みんな、何かおかしな視線を感じないか!?」

「いえ……、自分たちは何も。それよりも先を急ぎましょう!」

 部下たちは何も感じていないようだ。

 先を急ぐ気持ちは同じなので、この感覚のことは忘れて足を速めることにした。




「やれやれ、口ほどにもありませんね。よくこれで騎士などと名乗れるもんです」

 沙菜と戦った第四霊隊の隊員は、五分もしないうちに全員倒れていた。

「さがみーがぼやいてた通りですね。四番隊は女性の地位向上を謳いながらキツイ仕事は男性隊員に押し付けていると」

 『さがみー』というのは、第四霊隊副隊長の相模さがみという騎士のことだ。今は男性部隊を率いて雷斗の足止めに向かっている。もっとも既に撃破されている可能性が高いが。

 沙菜は反旗を翻す前に一部の騎士団員と話すことがあった。その時に聞いていた話だ。

「『舌切り雀』なりなんなりの昔話を読んだことがないんですかね。自分だけいい思いをしようとするとバチが当たるんですよ」

 第四霊隊の女性隊員は、既にほとんど全員が殺されている。

 残っているのは隊長の斎条のみ。

「あ……、あなたみたいなのに説教される筋合いはないわ……」

 地面に這いつくばっている斎条は苦々しそうに呻く。

 その斎条の頭を踏みつける沙菜。

「あなたの考えはあれでしょう。『世界の未来を担うのは子供たち、それを産めるのは女性だけ。だから女子供は丁重に保護されなければならない』――そんなとこですか? つくづくあなたとは価値観が合いませんね」

 沙菜は準霊極じゅんれいきょくと呼ばれる霊極に次ぐ実力者だ。その力を買われ、革命軍の参謀も務めている。

 そんな彼女にしてみれば『守られて当然』というスタンスは許しがたいものだった。

「確かに子孫繁栄の本能に従うなら正しいことかもしれません。ですが、本能に囚われるのは薄汚いニンゲンの生き方ですよ。私たち羅刹はそんなものを思想とは呼ばない」

 刀のままの朧月を斎条の首に突きつける。

「来世は羅刹に生まれ変われるようアドバイスをしてあげましょう。――誇りを捨ててまで子孫を残す必要はない」

 本来の力を見せるまでもないと、変化も解いていない朧月の刃で斎条の首をはねた。

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