復讐の狼煙

「セーラ・マルウス! 貴様が悪魔と契約して国に害を及ぼそうとした証拠は明らかになった!」


「くっ……」


 王家主催のパーティーにおいて、セーラは、この国の第一王子兼婚約者のマークから罪を暴かれていた。

 本来、この場はセーラとマルウスの婚約が正式に成立し、王家の秘宝がセーラに授けられるはずだった。

 身に付けた者を大幅に強化するアクセサリーを手に入れることをもくろんだセーラは、悪魔を使役して王家と貴族を洗脳した。

 悪魔と契約したのは6歳という幼い頃からだ。彼女は幼い頃からあらゆるものを欲し手に入れようとする強欲な心を持ち、悪魔を呼び寄せた。

 神々の加護は世界全体にいきわたっており、悪魔はこの世に現れることはできなかった。

 だがセーラは公爵家にあった太古のマジックアイテムの力を使い、悪魔を現世に留めることに成功した。

 その結果、契約の対価として毎年1000人を超える町民の命が犠牲になった。この十年間に起きた怪奇現象や事件の多くの原因が悪魔の手によるものだった。

 悪魔の力を借りたセーラは欲望のままにあらゆるものを手に入れた。

 遂には王家の財宝にまでその魔手が延びた。

 しかし、あと一歩の所で入手できたところに邪魔が現れた。

 光の神の加護を持ち、治療魔法で多くの人間を治して市井からは聖女と呼ばれているファリーン伯爵家の令嬢、キャロルだ。

 強力な加護は悪魔の洗脳をはねのけることができ、また洗脳にかかった人の状態を解除した。

 そしてこのパーティーの場で仲間達と協力して悪魔の正体を暴き討滅、セーラを追い詰めた。


「残念だったよ。僕は君のことは友人だと思っていたんだけどね」

 

 ローブをまといメガネをした細身の少年が言う。

 共に同じ学園で学んだことを思い出し胸を痛める。


「だがその思い出もすべて操られたものだった。もはや同情はやめた方がいい」


 甲冑と大剣という騎士の姿をした筋肉質の少年が怒りの形相で言う。


「リック様……ルーカス様……」


 聖女と呼ばれた少女はその二人の心内を察し、胸を痛める。


「皆、もう大丈夫だ。下がっていてくれ。もうセーラに悪魔の力はない。彼女には高い魔力と水精霊の加護があるが、訓練を積んだ精兵達の敵ではない。後は彼らに任せよう」


 マークが決心し、


「セーラを捕縛せよ。油断はするな!」


 命令を下した。


 ○ 


 本来ならこれで終わっていた。捕縛されたのち、ギロチンで処刑されることが運命、『シナリオ』だった。

 しかし、ここに『バグ』が姿を現す。


 ○


「もう茶番はいいかしら。いい加減、飽きましたわ」


 セーラの傍らに一人の人間が降り立った。落下とはまるでほど遠い、ゆったりとした速度で降下してきた。


「な、なんだと!」


 その声が誰のものだったかは意味がない。なぜならこの場にいる人達が共通して持った感想だからだ。


「あら、そんな驚かれるなんて心外だわ」


 微動だにしないセーラの隣に降り立ったのは、セーラだった。


「どういうことだ、これは?」


「セーラが二人……?」


「キャロル嬢。これはもしや悪魔の力か!?」


「いえ、違います! どちらも悪魔の力を感じません!」


 騒ぐ人々の姿を見て、新たに登場したセーラは笑った。


「ああ、新鮮だわ。貴方達のこうした姿を見れるなんて想像以上にうれしいですわ。もっと脅かすのも面白いかもしれませんが、最上の目標を疎かにするようなことはやめておきましょう―― 『Standing picture Release ―― 立ち絵解除』」


 最初のセーラの姿が瞬く間に消滅した。

 その事象に対して特に驚いたのは、将来の宮廷魔術師筆頭として嘱望されている魔術の天才リックと魔法に秀でた兵士達だった。

 なぜなら彼らの誰一人として知らない魔法だったからだ。


「この繰り返す世界を作った存在、見ているのでしょう! さあ、これから私はこの運命を滅茶苦茶に壊しますわ。それが嫌なら姿を現しなさい!」

 

 復讐の狼煙が上がった。

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