4-2 無理を承知で
浩人は里佳の説明を聞いても納得していなかった。
「そもそもなんで俺が? 向こうでタクシー手配したほうがいいんじゃねえの」
浩人の言い分はもっともだった。
「そこをなんとか」
無理は承知している。
「いや、俺より詳しいだろうから言いたかないけどね。金取って車乗せたら白タクだろ。それってどうなんだよ。だいたい、どう考えたって向こうで頼んだほうが安いだろ」
取りつく島がない。
「いや、だからね、そうじゃなくて」
「何がそうじゃないだ。俺の往復の費用は別立てか? おまえ、その分おまえの自腹にして旅費に入れないつもりだろ」
図星だった。
「そんなんじゃ駄目に決まってるだろ」
「兄さんがそこまで言うならボクが、」
「泰人、やめとけ。甘やかすな」
「でも、里佳ちゃん困ってるから」
「おかしなこと言い出すのが悪いんだ」
「無理かなあ」
里佳は不満げに下唇を突き出した。
「そういう顔はやめろ。無理なもんは無理だ」
「何かいい手はないのかなあ」
泰人が気の毒そうに首を振った。
「それを考えるのがこいつの仕事だろうが」
「んー、そうなんだけどぉ」
里佳のプランはこうだった。車椅子の曾祖母、
「介護タクシー、旅行だと使えるかわからないし、そもそも半日ぐらい貸し切りにしないとあれだし」
病院への通院に使う介護タクシーは地域のケアマネージャーを通して依頼すると介護保険が適用され一割の負担となる。但し、原則本人のみ。付き添いの移動をどうするかということになる。一割負担でも半日貸し切りともなると費用はどうしても膨らんでしまう。まして、付き添いの分を別に手配となると。
里佳は大きくため息をついた。
こちらから羽田空港まではなんとかなるとして、神戸空港から現地までをどうにかしないと、この旅は成立しない。以前に出した見積もりでは、家族が全行程の付き添いとなり、現地でリフト付きのレンタカーを借りる計画だった。もちろん運転は家族だ。しかし、最初のうち乗り気だった家族は旅の大変さを知るに連れて腰が引けていった。ノリノリなのは曾孫の英梨だけだ。宝山歌劇の大ファンだった英梨は曾祖母が宝山音楽学校出身だと聞いてすっかり舞い上がっていた。
「もう、どうすりゃいいのよ」
やけになった里佳が髪の毛をかきむしった。
「里佳ちゃん、やめなよ」
「泰人、余計な同情は禁物だ」
村田麻子の時も車椅子だった。とは言ってもあの時はひとりを里佳と浩人のふたりで送るつもりだった。それに、なんといっても村田麻子は認知症ではない。いざとなれば自分のことはひとりでできる。それと比べるのは申し訳ないが、水原八重子はひとりでは動けない。付き添うつもりの英梨は高校生で、こちらもひとりで放っておくわけにもいかない。バスツアーにも車椅子のお年寄りは参加していたが、あれはチャーター便で出発地から目的地まで運ばれるだけだ。バスに乗ってる時間も一時間もない。
認知症で車椅子の老人と女子高生のふたり旅がこれほど難しいとは。
いいアイディアは浮かんできそうにもなかった。
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