第84話 イマジナリーブレイカーズ
巨大な黄金色の獅子型SV、《ブライオン》が三機を威嚇する様に咆哮した。
それに歩駆達は怯んだ、と言うか唖然としてしまう。動物型のSVを初めて見た。
『司令も案外、そう言うのがお好きなんですな。何せ本気で神になるとか、その年で言っているんだから救えない!』
冴刃は馬鹿にしながら《ゼアロット》の銃で狙い撃った。正確に顔面へ当たる様に狙いを定めたが、天涯の《ブライオン》は“たてがみ”を赤熱化させると、一瞬に放った閃光が迫る光弾を消滅させた。
『……待てるハズもなかった』
瓦礫の上をのっそりとした足取りで《ブライオン》は歩行する。
『……二十年以上も待ったんだ、この時を。本当ならばイミテイトの襲来で達成されるハズだった。それを回りくどい事をして大幅に遅れた……お前のせいでな』
上空、《ゴーアルター》と《Gアーク》の歩駆を天涯は睨み付ける。
「達成って、何をだよ!?」
と歩駆が問いかけるが、天涯は黙りを決め込み《ゴーアルター》の方を向き続ける。
『歩駆君、真実を知りたいか?』
神妙な──マスクを付けているが──な面持ちで冴刃が言った。
『人類とイミテイト、2015年に始まったとされる戦い……通称“模造戦争”は……』
『それ以上は言わない約束でしょトールちゃん』
女性の声と共にやって来るは、球体のボディを回転させながら弾をばら蒔くユリーシア・ステラの《アルミューレ》が現れた。
『ユリ君かい? 相変わらず悪趣味でケバいカラーリングの機体に乗っているね。彼、ハイジ・アーデルハイドは元気かい?』
『えぇ元気よ。この戦いが終わったら、新しい地球で彼の余生まで添い遂げるつもりよ?』
繰り出される激しい弾幕を掻い潜りながら《ゼアロット》は徐々に突き進む。
『歩駆君こっちは任せろ! そっちの二人を早く止めないと、世界は終わるぞ!』
「な……何なんだよ。次から次へと……」
「真道先輩、ライオン来ますよ!?」
突進する《ブライオン》を回避すべくクロガネカイナが《Gアーク》のスラスターを全開にして上昇した。その先には《ゴーアルター》が仁王立ちしていた。
『マニューバァ……フィストッ!』
煙で尾を引きながら《ゴーアルター》の右拳が追いかけてくる。逃げる《Gアーク》だが右拳は何処までも追い続ける。
『ハハッ! 逃げろ逃げろ!』
『……そこまでにしろよ真道歩駆。下らない遊びに付き合っている時間は無い』
高く跳躍する《ブライオン》が輝きを放つ。
『……一体となれ、exSVよ』
天涯は秘密のコードを入力した。すると《ブライオン》がバラバラに弾けとんだ。
『ん、何だ? 機体の操作が効かない?』
それと同時に《ゴーアルター》の動作が止まる。アルクの操縦を無視して、バラバラになった《ブライオン》のパーツに引き寄せられていく。
『……器に乗せるモノは、そらに相応しいモノでないといけない。コフィンエッグが生み出したお前を代償としてexSVを覚醒させる。その時、この俺が至るのだ』
『止めろ! ゴーアルターは俺のだ! お前みたいな奴に渡してたまるか!』
しかし、アルクが抵抗しようにも《ゴーアルター》は制御不能。金色のパーツがボディの各所に張り付き填まっていく。
「れ、礼奈!」
合体の過程で背の《JF》が外されるのを歩駆は見逃さなかった。落下する《JF》を《Gアーク》は追いかける。一方の《ゴーアルター》には《ブライオン》のウイングが装着された。
『どうなっている?! 離れろよ!?』
『……もう遅い。コントロールはこちらに移っている! もう、お前がexSVを動かす事はない』
獅子の顔が胸に装着される。目映い光を放つ黄金の鎧を纏った《ゴーアルター・ゴールドウェア》の完成である。
『……これがダイナムドライブか。凄いフォトンエネルギーを感じる。これまでの戦いで蓄積した物、成長レベル、フフ……感謝するぞ真道歩駆。これならば……これ、が?』
とてつもない違和感を天涯は感じてしまった。《ブライオン》が〈ダイナムドライブ〉とリンクしたからこそ分かる異様な感覚。
『……システムが、こちらのエネルギーが吸い取られて……何だ、この……ゲッソリとした気分……は』
レバーを握る手に力が入らず、天涯はコンソールに突っ伏した。
「し、れ、えェェェーッ!!」
天涯に取って不快な奴が目の前に現れた。軍用の高速ヘリのドアから白衣の男、ヤマダ・アラシが拡声器を片手に手を振って叫んでいるのが見える。
「ブライオンの調子はどうですかァ!?」
ヤマダの表情は不気味な笑みを浮かべていた。
「実はですね、その機体にダイナムドライブを制御するなんて事はもう出来ないんだなァ!」
『……貴様』
「自分だけ一人で勝手にやろうなんてさ、チョコレートよりも甘いんだァ! 所詮、ケツで椅子を磨くだけの男だよアンタはァ!」
次第に口調が怒りへと変わっていくヤマダ。天涯はどうにかできないかと操作するが、《ゴーアルター》から分離する事も緊急脱出装置も全て作動しなかった。
『だってさ、おっさん。便乗するけど俺もアンタが気に入らなかった』
アルクの怒りが〈ダイナムドライブ〉を通じて天涯に伝わる。
『……下手な演技だな』
『成長してるんだ。アームドウェアは謂わばダイナムドライブの力をコントロールする為の強制ギプスだった。もう何にも俺を縛るものはない!』
所詮は少年の“キレ”なので動じないが、状況は最悪のピンチだ。
『アンタを許さない、絶対にだ』
胸の邪魔な獅子を《ゴーアルター》が両手で掴み、バリバリと音を立てて無理矢理に引き千切った。
『……』
『言い残す事は無いか、おっさん!』
『……無いな』
両手に伝わる僅かな振動をアルクは感じ取った。獅子の頭が軽くなったように感じる。
『はぁ……?! フザケンナよ、おい。そんな潔い事あるかよッ!?』
中を覗くと天涯は自分のこめかみに拳銃を当てて自害していた。
『何だ、敗北感しかない……』
あっけない幕切れに《ゴーアルター》は手に持つ獅子を地面に落とす。〈ダイナムドライブ〉のレベルもダウンしていた。
「……ニセ少年、君の望みは何だァ?」
とヤマダ。
「ぶっちゃけ、お前はイレギュラーである。しかし、事と次第によっちゃあ、この天才のゴーアルターを今後も使わせてやってもいいぞ! 」
『ニセ……お前……使わせて、やっても?』
引っ掛かるヤマダの物言いにアルクは俯き震える。〈ダイナムドライブ〉のレベルは再び上昇する。
そして、爆発した。
『フッッザケンナァァァーッ!!』
咆哮と共に《ブライオン》のパーツが四方に弾け飛ぶ。とっさだったが、ヤマダの乗った高速ヘリは何とか避ける事に成功した。
『こいつは、ゴーアルターは俺のだ! 誰にも渡さない、渡してたまるかよッ!?』
叫ぶ程に〈ダイナムドライブ〉のレベルカウンターが際限なくドンドン上がっていく。装甲の隙間から〈フォトンエネルギー〉の虹色の光が漏れだしていた。
『全部、全部……俺の活躍だ。日本を敵から守ったのも俺の活躍なんだよ。
初めから……そうだよ、もしも俺があの日にアレ。やらなかったらさ、
もっと酷い事になってたかもしれない。だから、俺のおかげなんだ!
だから、もっと評価されても良いハズだ! 讃えろッ! 崇めろォ!』
「ゴォォォアルタァァァァァァーッ!!」
真下から弾丸の如く舞い上がる《Gアーク》は拳を天に突き上げた。
フォトンの光を纏った拳は《ゴーアルター》の顔面を抉る様にして殴り抜ける。
重い一撃を食らった鉄面皮の《ゴーアルター》が、苦悶の表情を見せて《Gアーク》を睨んだ。
「お前が、お前がそんなんだからダメなんだろ!」
『それはお前自信でもあるだろうがァッ!』
見た事もない修羅の形相をする《ゴーアルター》とアルク。
「聞いてて見苦しいんだよ、お前は! 自分勝手で、何でも思い通りに行くと思うな!」
『ゴーアルターならやれるんだよ! 俺は変われる! この力が有れば何だって出来る!』
「それが思い違い何だって! 力を奮うだけじゃ暴力にしかならない! 正しくやんなきゃ意味ないんだぞ!?」
『常套句! お決まりのパターンを並べんじゃねーぞアホがッ
?!』
鉄の拳を交え、激しくぶつかり合う《ゴーアルター》と《Gアーク》。もはや機体の性能差の問題ではない。歩駆とアルク、二人の、自分同士の意地の張り合いなのだ。
「Gアークのダイナムドライブが活性化してる。真道先輩、このままだと機体が持ちませんよ!?」
と、クロガネカイナが警告する。
「持たせろ!」
「無理ですから!」
『だったら決めるぞ、真道ォ歩駆ゥゥゥーッ!!』
距離を取る《ゴーアルター》は両腕を空に掲げる。周囲の空間が歪み、色彩が失われていった。
『イマジナリーブレイク! 下のイミテイト達はオリジネイターに変わる! 俺の、俺による、俺の為の理想郷を作り出す!』
歪みのフィールドは《ゴーアルター》を中心に益々、範囲を広げていく。《Gアーク》は背部ミサイルと頭部バルカン砲を撃ちまくるが、フィールドに阻まれ《ゴーアルター》まで到達せずに爆発する。
「黒鐘、コイツがフルパワー出したら何分ぐらい戦える?」
「現状で……残り三分ちょいですね」
「カップ麺が出来ても食えるかどうか……やるぞ!」
操縦桿を強く握って《Gアーク》に意識を集中させる歩駆。《ゴーアルター》の様にはいかないが、己の意思を機体の手足に巡らせてるイメージを思い浮かべて、フットペダルを踏み抜いた。
「……行くぞッ!!」
纏う虹色のフォトンエネルギーのオーラ。歩駆に呼応して《Gアーク》は歪みに突撃する。
『無理だぞ!? そのままペシャンコになっちまえッ!!』
吐き気がする程の振動、コクピットから聞こえる《Gアーク》の装甲が軋む音。
歩駆自信の肉体にも全身が押し潰される感覚に陥っている。
だがしかし、怯むわけにもいかないのだ。
『解放するぞ、ゴーアルター! 最大パワーだァァァーッ!!』
「くっ……Gィィアァァァークッ!!」
意思と意地のぶつかり合い。
二つの〈ダイナムドライブ〉から発せられるエネルギーが反発し合って、爆発的な閃光が街一帯を包み込む。
その時、〈イマジナリーブレイク〉は発動した。
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