#04-2 チームメイト
「それじゃあ、部屋割りは日宮と御堂。雪野と雨川。俺と石動ってことで問題ないか?」
「ちょっと待った! ツッキー!」
これで部屋割りについては大丈夫だろうと考え、最終確認をした優斗に異議唱えたのは嵐だ。
突然の大声に優斗は驚いて、目を丸くさせて嵐を見た。
「な、なんだよ。何が不満だ?」
「不満も不満。大不満だぜ! いいか、ツッキー! センセーが言ってたようにオレ達は一進一退の仲間なんだぞ!」
「先生が言っていたのは、一蓮托生」
「そうそう! その『いちれんたくしょー』ってやつだ!」
淡々とした花音の訂正に嵐は腕を組んで何度も頷いている。
優斗は怪訝な顔で嵐の言葉の続きを待つ。そんな優斗に向かって嵐は、ビシッと音がしそうなほど勢いよく指差す。
「つまり、オレ達は『いちれんたくしょー』の仲間なんだ! もっと新道を深めるべきじゃないのか! 仲間は大事にしろってばあちゃんも言ってたしな!」
「新道?」
「……た、多分、親睦って言いたかったんだと思う」
「それで、石動君は結局何が言いたいの?」
「それだよそれ! それだよ、ひののん!」
それと言われてもどれだという顔で嵐を見返す花音。他の面々も嵐が言いたいことを理解できないのか首を傾げている。
そんな彼等に向かって嵐は単純明快に言い放つ。
「親しくなるにはまずは名前からだぜ? そんな石動君なんて、他人行事な呼び方はやめようぜ! もっとフレンドリーに行こうぜ!」
にこやかに告げる嵐に全員が黙り込む。
他人行事ではなく、他人行儀だとツッコむべきか、それとも他の反応を返した方がいいのか悩んでいる様子だった。
沈黙に支配された空間で真っ先に口を開いたのは幸太郎だ。彼は大きく溜息をつくと、背を向ける。
「くだらない。部屋割りも決まりましたし、俺はもう行きます」
「あ、待てよタロー!」
「触らないでください。馬鹿がうつります」
「え!? バカってうつるのか!?」
そんな馬鹿丸出しな言葉を紡ぐ嵐に幸太郎はもう一度大きく溜息をついてから、乱暴に嵐の手を振り払い、そのまま歩き出してしまった。
「……え、えっと、つまり、石動は名前で呼び合おうって言いたいんだよな?」
妙な空気になってしまった場をとりなすように優斗が声をあげると嵐が満面の笑みを浮かべて何度も頷く。
「そうそう! そうなんだぜツッキー!」
「まあ、俺は別に構わないけど……みんなもいいのか?」
「私はどっちでも」
「構わぬ。石動……いや、嵐の言うとおり。我らの親睦を深めるのは重要なことだ。聡も構わないな?」
「う、うん」
既に去ってしまった幸太郎以外が頷いたことで、優斗達は嵐の言うようにお互いを名前で呼ぶことが決定したのだった。
「そうだ! このまま寮に帰るのもつまらないし、花見でもしてこうぜ!」
そろそろ解散しようかという雰囲気になりかけてた頃、思いついたように嵐がそう告げた。
その言葉に対する反応は人それぞれだった。
嵐の言葉に賛同する者。どちらでも構わないという者。もう帰りたいという者。
優斗はそのどれでもなかった。
「ごめん。俺は、パス」
困ったように頬をかきながらそう告げた。
「えー!? なんでだよツッキー! ノリ悪いぞ!」
「この後、用事でもあるのか?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど……」
言い淀んでしまう優斗に不思議そうな顔をする嵐達。そんな彼等の反応に優斗は正直に行きたくない理由を話すことにした。
「苦手なんだ」
「苦手って何がだ?」
「……あ、もしかして、ひ、人混みとか? ぼ、ぼくも苦手」
「ああ、悪い。そうじゃないんだ。俺が苦手なのは……桜だ」
優斗の言葉に誰もが目を丸くさせた。
それもそのはず。花見につきものの賑やかな宴会や一目桜を見ようと押し寄せる人混みが苦手というならば分かるものだが、桜自体を苦手という人はあまりいないだろう。
「んー? 桜が嫌いなんて変わってるなぁ」
「別に嫌いなわけじゃない。ただ苦手なんだよ」
桜に嫌な思い出があるわけでもない。
それなのに自分でも何故そんな感情を抱くのか分からないが、優斗は桜が苦手だった。
桜を見るとひどく感情が乱されるのだ。自分でもよく分からない感情が心の奥で渦巻き、焦燥感に駆られる。
優斗が小学生の頃、遠足で行った花見の時、彼は視界いっぱいに広がった桜を見るなり、倒れてしまったことがあった。
それ以来、優斗は決して桜を見ないように過ごしてきた。だから、春は優斗にとって憂鬱な季節でもある。
ざわざわと胸の奥が騒ぐのを感じて、優斗はそれを静めるように大きく息を吐き出す。
「とにかく、花見に行きたいなら、石動……っと、嵐達だけで行って来いよ」
つい癖で名字で呼んでしまったことに慌てて言い直して、優斗はそう告げた。
「それならば、今日のところは解散としよう。親睦を深めるのはまた別の機会ということでどうだ? 嵐も制服を洗った方がよかろう」
「あー、そういやそうだな。このままじゃ落ちなくなるしな。それにタローもいないし、ツッキーもいないんだったら、親睦も何もないよなー」
「……そ、それに、今日は早く帰って、荷物の整理しないと……」
聡の言葉に全員が思いだしたように顔を見合わせる。
彼等は今日から寮で暮らすのだ。既に荷物は寮に送られているとはいえ、それの荷解きをしなくてはならない。
「やばっ! 早く帰って片づけないと」
「ツッキー! オレの分も頼むぞ!」
「いや、自分でやれよ」
そんな会話をしながら、歩きだそうとした優斗達。
そこで優斗は先程から一言も発していない花音のことを思い出して、振り返る。
振り返った先に立っていた花音は相変わらず無表情だ。
彼女は優斗達の存在など見えていないかのようにどこか遠くを見ていた。その顔が少しだけ悲しげに見えて、優斗は不思議に思いながらも声をあげる。
「ひの……花音!」
「っ、あ……」
優斗に声をかけられて我に返ったようで、花音は翡翠の瞳を丸くさせて優斗を見返した。
「どうかしたのか?」
「大したことじゃない。ちょっと昔のことを思い出してただけ」
「そっか。それなら、俺達も行こうか。嵐達に置いていかれるぞ」
既に嵐達の背中は遠くなっている。だが、彼等も優斗達がついてきていないことに気付いて、振り返って手を振った。
「おーい! ひののん、ツッキー! 早く来いよー!」
「ほら、呼んでる。行こうぜ」
「……うん」
優斗が差し出した手に花音は僅かに戸惑った様子で、けれど優斗に他意がないと気付いたのか、ゆっくり手を握り返す。
そして、二人は駆けだした。
この学園で運命を共にするチームメイト達の元へと──。
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