リアルな君

蜜缶(みかん)

前編

   かぐら:あ、ミケきた(*´▽`*)

   guran007:ミケさん、おはっす

   ミケ:おはおはー

   ガッチャン:みけーーー(-_-)/~~~ピシー!ピシー!

   やまとん:ミケおそいーw

   かぐら:もう明日の打合せはじめちゃってるよー^^*

   ミケ:ごめw今起きてw


「どこまで決まった?…っと」

カタカタとキーボードを走らせると、みんなチャットが大好きな仲間だから、あっという間にログで埋まる。


ここはオンラインRPGのマイストーリーオンライン。通称MS。

MSは普通のRPGだが、ユーザーが自分でストーリーを切り開くことをコンセプトにしており、手助けや誘導してくれるNPCがほぼおらず、ヘルプメニューにすらボタン操作のこと以外ほとんど情報がない。

新しいキャラを作ったら、何も分からないまま広い世界にぽつんと産み落とされ、案内もないままとにかく自分で動いてみないといけないのだ。

そのためユーザーたちは皆、掲示板や他のユーザーと直接触れ合うことでその情報を集めたり、自分なりの戦い方や攻略を自然と身に着けたりして進めていく。

初期状態でのあまりの情報量のなさは本当に厳しくて、ソロでやろうとすると訳もわからないまま何もストーリーを進められずに辞めていく人も相当いるようだが、残っている人たちは仲間同士で交流が上手くできている人たちばかりなので、仲間同士の絆は厚い。


そんなMSにオレが初めて入った時、運よくすぐ隣に人がいた。

それが、かぐらだ。

「初めてなんですがどうしたらいいかわからないんですけど…(´;ω;`)」と向こうから声をかけられ、「ごめん、オレも初めてなんだー」と返して。それからずっと行動を共にしている。

それからは社交的なかぐらのおかげで徐々に仲間が増え始め、今では多いときは10人以上で行動することさえある。

そして明日は初めて、その仲間たちでオフ会なるものを開くことになったのだ。

オレは平々凡々だから外見には全然自信ないし、リアルでは社交的でもないからオフ会に行くつもりはなかったんだけど…正直、かぐらとは会いたかった。


…だってオレは、会ったこともないかぐらに対して、恋のような気持ちを抱いていたから。


ずっと傍にいてくれたから、他のヤツと楽しげに話してるとやきもち焼いてしまうし、2人だけで狩りに行けたりするとすごく嬉しい。

かぐらが初期の頃からずっと着けている猫耳の帽子のアバターは、かぐらそのものを表してるようで可愛くてたまらない。

MSではオレが1番かぐらと親しいのかもしれないが…できればネットだけの繋がりじゃなくて、現実でもそばに行きたい。

オフ会は希望者のみのため参加者は5人だけだが、かぐらが「ミケがいくならいく」と言ってくれた言葉が後押しとなり、オレは参加する決意をした。


   " かぐら:かぐら、明日ミケに会えるのすっごい楽しみ(*^-^*) "


皆でのチャットとは別に、オレにだけ見える個別チャットが届く。

「…かぐら、可愛すぎだろー」

オレも、と返事をして、明日の集合場所と時間をメモる。

明日の12時に、駅前の宝くじ売り場の横の木の前。本物のかぐらと会える。

(実物も、きっと可愛いんだろうな…)

その興奮で、その日はなかなか寝付けなかった。







当日も興奮しているせいか目覚まし時計より早く目覚め、予定の時間よりも早く着く。

木の周りには既に何人か誰かと待ち合わせしてるような人がいたが、まだみんなから連絡は来てなかったから、メンバー内ではオレが1番乗りだろう。

"おはよー、もう着いた。オレは赤のチェックのシャツ着てるから"とみんなに送信。木のそばでみんなを待つ。


「お、君はもしかしてミケくんですか?」

5分くらいすると小柄な同年代の女性に声をかけられる。

「…そうですけど」

この子がもしかして、かぐらなのだろうか。

茶色い髪を三つ編みにして、白い肌にそばかすがある彼女は、今時な服を着て結構な可愛さだ。


「あ、やっぱり!私やまとんです。よろしくー!オフ会とか初めてだから緊張するな~」

「え、やまとん?やまとんて、男じゃなかったの?」

オレの中では完全にやまとんは年下のがきんちょのイメージだった。

「え!あのアバターベリーショートだけどさ、一応女のキャラなんだよ!やまとショック!」

「や、アバもそうだけどさ、だって話し方とかがさー」

「え、なにそれ、マジでショックなんですけどー」

2人で話をしていると、オレたちから少し離れたところに最初からいた、自分たちより少し若い大柄の男性が声をかけてきた。

「あの、すいません。今ミケとやまとんて聞こえたんですけど、もしかしてMSの…?」

「そうですよー」

「あ、自分はguranです。よろしくお願いします」

「あ、グランくんて割とキャラのままだねー!面白いー!あたしがやまとんですー」

グランはMSのアバターそっくりで、長身で黒髪短髪筋肉質で、完全な体育会系イケメンだった。

「…グラン、俺より早く来てたよね?声かけてくれたらよかったのに」

「や、自分口下手なんで。声かけて違いますとか言われたらもうここにはいれないとか思って。てか、やまとんさん女性だったんですか」

「お前も言うか~!」

待ち合わせの時間が近づき、また一人、人影が近づく。


「…すいません、MSの方ですか?」

次に声を掛けてきたのは、背が高めな綺麗な女性だった。化粧のせいで大人っぽく見えるのか、実年齢が大人なのかわからないが、妙な色気がある。

もしかしてこの人が…


「そうですよー!あたしは、やまとんです!」

「やまとん!え、こんな可愛い子だったんだー!ちっちゃい!色白ーい!私ガッチャンです。リアルでガッチャンは恥ずかしいんで、がきさんと呼んでください。」

まさかのガッチャン。

ガッチャンはいつもこう、はしゃいでるキャラだったから元気っ子なイメージだったのに。

こんな大人な女性だとは意外だ。オンとオフではこんなにも違うものなのか。

(しかしオレ以外みんな美形すぎないか…)

オフ会をしようと言い出したのはガッチャンで、やまとんもグランも割とすぐ参加を表明していたが。

確かにこんだけ美形だったらネットからリアルに出ても、残念がられることはないだろう…オレと違って。

(…かぐらは、どうなんだろう)

かぐらもきっとすごい可愛いんだろうな。

一番会いたかったかぐらに余計期待してしまう。

たとえ見た目が可愛くなくとも、中身が可愛いことに変わりはないのだから。


もうすぐ待ち合わせの時間になる。

女の子が近くを通るたびに、この子がかぐらだろうかと、そわそわする。

「ミケ、キョロキョロしすぎー。かぐらに会いたくってしょうがないんでしょー」

「1番仲良いもんね~。最初リア友なのかと思ってたよ、私」

やまとに図星をつかれて、じと目で見返した。

するとやまとの向こう側にいた人物とうっかり目があってしまい、なぜかその人は笑顔で手を振ってきたかと思うと、そのままオレのもとへと駆け寄ってきた。


「ごめん、おまたせー。ミケ、だよね?」


オレの目を見て、確かにそう言った。

オレをミケと呼ぶ人物。

今日集まるメンバーで、ここにまだ来ていなかったのはあと一人しかいない。


(…嘘だろ)

思わず固まって何も言えなくなったのはオレだけではない。


みんな動けない中で、ただ1人やまとだけが口を開く。

「もしかして、かぐら…?」

「あ、そうです。かぐらです。ミケ以外ももうきてたんだ?ごめん、遅くなって」

そう笑顔で答えたのその人は、アイドルのようにとても美しい顔をしていた。


だけどその人は、みんなの予想を裏切って…どうみても男だった。

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