ボノニア

 ゴールドマン教授はアニマロイドのタッキーとキャプテンの翼に連れられてきた。


「これは、一体どういう経緯なんだ? 革命勢力の援軍かと思っていたが、代わりに湖賊が来たのかね」


「そうさ、有名なビルショウスキー一家だぜ。ビワ湖まで先を急ごう」


 セカンドゲートのバリケードはあちこち綻んでいる。ケプラーモクズガニの襲来において簡単に突破されていたが、脆弱すぎて壁の役割をあまり果たしていないと思う。



 突如、工事現場で使うトラックが猛スピードでゲート前まで突進してくると、コンクリート製の扉に衝突して止まった。A級奴隷は湖賊の仕業と考え、ビルショウスキーはA級奴隷の増援かと身構えた。

 キャビンから大男が降りてくる。長髪の頭から血を流していたが、もはや時間と共に固まり髪と絡まってドス黒くなっていた。


「逃がさねぇぜ、オカダ査察官! ここにいたのか!」


 全身の筋肉が硬くこわばり、憤怒とも歓喜ともつかない表情で歯をむき出しにしている。噛み締めた奥歯にヒビが入るような音と、四肢に巻いたチェーンの不快な音が聞こえた。銃声が止み、ゲート前のちょっとした集落が重い沈黙に包まれたのだ。

 マコトとヒロミは男の姿を見るなり、無言で一目散に逃げ出した。それから僕は、いつも強気なビルショウスキーの怯える表情を初めて目にしたのだ。

 サイドカーに乗ろうとしたゴールドマン教授が、漏らしてしまったかのように膝をガクガクさせた。


「ブ、ブエルム……うわ~~ッ!! S級のブエルムだ! まだ生きていたのか! 皆殺しにされる~!」


「教授、ちょっと静かにしてなよ」


 僕とカクさん、タッキーとキャプテンの翼は妙に落ち着いていた。背中の傷は痛むが、丹田から湧き起こってくるような力は、倒れる前と同じかそれ以上だ。


「……そうだ、こいつは越えなきゃならない壁か。このまま放置は許されないよな」


 ブエルムは拳と拳を突き合わせて両腕のチェーンを鳴らすとニタリと笑った。気持ち悪い、心が締め付けられて寒気がする。マドックス以上に不気味な男だ。よく見るとトラックの荷台に刀剣類を中心とする、あらゆる武器を大量に載せている。


「地球人、いや、オカダ査察官! 気に入ったぜ! 俺に稽古をつけてくれよ。頼むから俺の師匠になってくれ」


 事の成り行きを見守る湖賊達は皆、奴の事を知っていた。ワースやイシハラも、更にベレンス、マドックスに至るまで、青ざめながら僕に向かってかぶりを振った。


「やなこった! ブエルム、お前は師匠殺しマスターキラーなんだろ。地獄で閻魔にでも弟子入りしやがれ!」

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