フィロメラ

 陸を走る船のように、舗装されていない道を砂煙を上げながら疾走するのは、スタリオン高機動車。

 やがてテトラポットが山積みされたオーミハチマン市外郭に沿って走行し、厳重な防御装備と人員が配置されたメインゲート前まで到着した。


「オーミハチマン市か、本当に久しぶりよね」


 マリオットちゃんが窓に顔を寄せながらシュレムに言った。


「そうね、見てみたいお店が思いつくだけでも、いくつかあるけど」


 彼女らは時々KR線に乗ってオーミモリヤマ市からここまで買い物に来る事があるらしい。コロニー都市間の行き来って、結構自由なんだな。

 オーミハチマン市は商人の街で、豪商と呼ばれる方達が幅を利かせている。食料品から医薬品、アパレル関係や武器、果ては自動車・バイクに男奴隷の取引まで、何でもござれの面白い街らしい。早く街の人々の生活を、この目で見てみたいな。

 運河の街でもあるので、ゲートは船でしか通過できない。ビワ湖まで延びる美しい運河は、この街の経済と発展を支える重要な生命線であるが、同時に装甲殻類カルキノスの侵入をも容易にしているのだ。運河の岸壁に沿って赤いケーブルが設置されており、電流を流す事によって大小のカルキノスを防いでいるらしい。


「この赤ケーブルに触れると僕はどうなるんだ?」


 笑顔を絶やさないアディーに訊いてみる。


「普段は大丈夫ですが、防御時の最大パワーによっては人間でも黒こげになりますよ」


 ひえっ! さらりと恐ろしい事を口にするなアディーは。

 ゲートからオーミハチマン市内に入るには船か艀に乗らなければならないが、どこから乗るのだろう。


「あっ……あれが艀乗り場じゃないのかな?」


 ブリュッケちゃんが指し示す方向には、一台のトラックと高級車を乗せた艀が桟橋に到着していたのだ。


「よっしゃあ、行くぞ。出発だ」


 カクさんを屋根に乗せたスタリオンは、揺れる桟橋から艀へと無事に乗船できた。


「ひよ~! 今度の街はどんな世界が待っているのやら」


 カクさんは、ご機嫌で屋根からゲートを眺めていたが、その姿を注意深く見守る目があった。

 それは場違いとも思える高級車の後部座席からだった。地球製の古いモデルのレプリカかな? 四角いメッキのグリルに丸ライト四つ……シルバー塗装で趣味のいい車であった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る