アト-ル

 湖賊どもの治療も、メガネとシュレムのおかげで滞りなく終わった。

 一段落ついたら出発の準備だな。

 ビルショウスキーは、なぜかマリオットちゃんの事が気に入ったようだ。後ろから制服の肩を叩く。


「ひいっ!?」


「湖賊はオオカミみたいな奴の集団さ。そんな短いスカートをはいていたら、やられちゃうよ」


 マリオットちゃんがスカートを押さえながら見回すと、ヘビメタロックバンドのような髪形の蛇顔の男がニヤリと笑って舌を出した。その横の作業服姿の小太りオヤジは、携帯端末にて彼女の写真を無断で撮っていた。


「……大丈夫さ、本物のオオカミがここにいるんだから」


 両手を腰に当てて、仁王立ちになっていたビルショウスキーの股の間から突如、カクさんがニュッと顔を出した!


「ひぃいいえええ!」


 ビルショウスキーは高いヒールの靴がグキッとなり、バランスを崩してカクさんの上にのしかかった。


「ぐえ! 騎乗位は軽い娘でないと……」


「何だと!」


 降伏した事もカクさんの恐ろしさも忘れ、ビルショウスキーはオオカミの両耳を左右に思い切り引っ張った。



 お遊びはここまでだな。僕はワザとらしく咳払いをした。


「我々は廃墟を出発して北の砂漠地帯に向かう。お前らは湖賊船で南のオーミマイバラ市にでも行くがいい。俺達は忙しいので先に進ませてもらうぜ!」


 ライオン頭のビルショウスキーは、腕組みを崩さずに黙ったままだ。他の湖賊どもも複雑そうな表情で黙っている。武器を取り上げた男達はこうも大人しくなるものかな。

 この決断はアディーからも暗黙の了解を得た。

 ただ装甲殻類カルキノス研究者にして問題児のパリノーが静寂を破った。


「オカダ査察官、アンタは馬鹿だ。こいつらまた盗賊をやるよ……100%な。犯罪者と慣れ合うんじゃないよ! 絶対に何人も殺しているような奴らに決まっている」


 ビルショウスキーは、じろりとパリノーの方を睨み口を開いた。スーツに付けた黄金色の装飾品がキラリと光る。


「そうさ、私らはお世辞にもいい人間じゃない。ハードな世界で生きていくために殺したり、殺されたり、それが日常なのさ。地獄に落ちる覚悟もできてるのが湖賊ってもんだ」


「ほざけ、人殺しめ……」


 再び気まずい沈黙の時間が訪れた。



「……待ってくれ、俺達も北の砂漠に連れて行ってくれ!」


 ランドルトだったか、突然男達が申し出た。


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