カミラ

 やっと落ち着きを取り戻した。お口直しにマリオットが作ったエビチリを一口食べると、味付けがプロ並みで、目が覚めるほど美味しかった。


「マリオットちゃん! あんた、めっちゃ料理うまいやんか!」


 ……いつの間にか復活したカクさんが、僕の言いたかった事を先にマリオットちゃんに伝えやがった。


「えへへ……そうかな!」


 エプロンを外したマリオットちゃんは、鼻の下を人差し指で擦りながら、数々の料理の出来栄えに満足そうだった。そこでカニチャーハンにも手を付ける。これも絶妙にすばらしい。もう皿と口を往復するスプーンが止まらない。地球のエビ・カニと生物学的に違う種なのか味が濃く、別格に美味いんじゃないだろうか。マリオットちゃんは腕のいいコックさん、あるいは良いお嫁さんになれそうだな。


 アディーは地元、オーミワイナリーのワインを持ちこんでいた。テーブル上に750mlのビンが鎮座している。あんた、本当に警官なのか……酔ったらヤバい人のように思えてならない。だが、すでに遅かった。 

 シュレムとアディーは缶詰のオイルサーディンを肴に一本空けていた。なんとアニマロイドのスケさんまで女子会に参加していたのだ。


「一番! アディー巡査。 受診します」


 アディーは伝線したストッキングをその場に脱ぎ捨て生足になると、シュレムの隣に座って上着のボタンを外し、胸をはだけた。


「もう、何なのよ。自慢の胸をさらけ出して!」


 シュレムは、どこから持ってきたのか聴診器をアディーの下乳に当てた。


「わわっ! 冷たいよ!」


「いいから我慢なさい!」


 こんな感じで、大人のお医者さんごっこを始めたのだ。二人がまだ子供だった頃は、日がな一日こうやって一緒に遊んでいたのかもしれないな。


「オイラも混ぜて下さい」


「スケさんならいいけど、アンタはダメ!」


「そんな~……ここに獣医はいないのですか?」


 片付けの時間になった。毎日の料理・洗濯・掃除などの家事一般は、奴隷の仕事だと女共がぼやく。そんな声は無視しつつ、皿を洗っているとシュレムが手伝ってくれた。お酒には強い方なのだろうか。

 マリオットちゃんは道具の手入れも入念で、手つきもプロ並みだった。


 

 夜になり、ここで寝る準備を始めた。市外の野宿は色々と危険が伴う。どんな危険生物が闇に潜んでいるのだろう。見上げると夕方、写真に収めた二個の衛星が、蒼い月として闇夜を妖しく照らし出している。当然周辺に人家や明かりもなく漆黒の闇が支配する世界だ。

 アマゾネス達は車内で寝る運びとなったので、僕と二頭は外のテントだ。


「夜間は明かりを目指して、トビエビが飛び込んでくるから気を付けて」

 

 千鳥足のアディー巡査が、親切に注意してくれた。


「それに、あなた速度超過、つまりスピード違反の運転をしているわ。ここでは大目に見てあげるけどね」


「ハイ、ハイ」


 酒くせ~……でも、湖岸沿いの信号もない荒れた道でスピード違反って本当なのか?

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