エウフロシネ

 どうやらケプラー22bの人達とは、ごく普通に会話できそうだ。


「どうもありがとう、マリオットちゃん」


 マリオットは、見ず知らずの僕に名前を呼ばれた事にギョッとして、大きな目をパチクリさせた。だが頭の回転が早い娘なのか、外でシュレムから名前を呼ばれていた事実を思い出したようだ。


「……ええ、もう大丈夫なの? あなたの名前は?」


 この娘、声までカワイイ。 小さな鈴を鳴らしたような、心地よくて澄み渡る声の持ち主だ。だが、せっかくマリオットちゃんと仲良くできそうなのに、奥から男と見紛う体つきの警備員が二人、警棒で肩を叩きながらズカズカとやって来た。……ガタイがいいが、やはり二人共女性。濃紺の制服をぴったりと着こなす。思いの外、顔立ちの整った美人さんじゃないか。

 開拓移民に出会えたのはいいが、どこもかしこも女性だらけだ。男は誰一人として見かけない。情報通り、男が存在しないアマゾネスの惑星なのだろうか。だがそれでは繁殖もできず、超少子化になっているはず。

 ……そういえば、さっき奴隷呼ばわりされたが一体どういう事なのか?


「貴様、何でこのような服を着ているんだ」

 

 最新の強化繊維服の襟元を警備嬢に力任せに引っ張られたが、当然破れない。彼女は不思議そうに相方の女(こいつも美女)と首をかしげて顔を見合わせた。


「君達、美人なのに乱暴だな。俺は優しい女の方が好みだぜ」


「ほざくな! この野郎」


 怒りに顔をゆがめた警備嬢に警棒でしこたま殴られた。ケガ人にも情け容赦ないんだな。

 僕は査察官らしく紳士的な態度を取るように心掛けていたが、結果的にはマズかったと思う。もうジェントルマン気取りはやめだ、やめだ! ひどい暴力に対する、せめてものお返しに倒れる時、両胸を鷲掴みにしてやった。


「肩は凝っているが、そこは凝っていない!」


 色気も何もない反応に正直ガッカリ。……たんこぶを増やしただけだった。しまいには女共に身ぐるみを剥がされて、使い回された汗臭い囚人服のようなボロを無理矢理、着させられる。

 マリオットちゃんは、震えながら両手で見えないように顔を隠していたが、色々と見られちゃったかもしれない。そしてそのまま暗い地下室に連行され、有無を言わさず牢屋に放り込まれたのだ。

 さんざん殴られた上に、泣きっ面に蜂の仕打ちだよ、これは。無論持ち物も警備嬢に全て没収である。


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