テティス
「俺様をエサだと思ってやがるぜ」
カクさんは震えながら、周囲を見回し呼吸を荒げた。尻尾が両足の間に入ってしまっている。しかし、これでは多勢に無勢……バナナ色のザリガニが数匹、ゆっくりと間合いを詰めてきた。
何とオオカミは、ザリガニと戦う事もなく、一心不乱に砂浜を駆け抜け、そのまま市街地方面へと逃げ去ってしまったのだ。
「待ってよ~。私達を置いて行く気?」
スケさんは臆病者のカクさんの行動に、呆れたように舌打ちした。ザリガニは、さすがに動きが遅く鈍重だが、ハサミを繰り出すスピードが異様に早い。
「こいつ等の朝飯になってたまるかってんだ! 見てろよ!」
船内からエレキギター型の対人用
「オカダ君、お化けザリガニは放っておいてもいいわ」
スケさんは荷物用の重いハッチを操作すると、わざと落下させてザリガニにぶつける。意外にも巨大甲殻類は警戒心が強く、これ以上の攻撃姿勢を見せることはなかった。湖の深くなっている岩場まで一斉に、文字通り尻尾を巻いて逃げ出したのだ。
腕をハッチに挟まれて逃げ遅れた一匹に近寄ってみる。
「地球の生物学者に見せたら、小躍りして喜びそうね」
口から泡を吐き、もがき苦しむバナナザリガニをスケさんは興味深そうに眺める。ライフルを背の方に回し、写真を撮影しようとした瞬間、奴は自らハサミを本体から切り離し、湖に飛び込んで見えなくなった。
「スケさん、朝食が確保できたみたいだぜ」
「食べてみる? 毒はないのかしら」
残されたハサミはロブスターそっくりだったが、殻は簡単には割れなかった。レーザー・ライフルで焼き切ったほどだ。仮設キッチンで鍋に湖水を入れ、茹でると赤く変色する。こいつは食えると確信した。
「匂いでカクさんが戻ってくると思ったけど……」
スケさんと顔を見合わせ、思いきって身にかぶりつくと、ぷりぷりとして大変美味であった。甘エビより甘く、少し栗の味がしたと思う。腹一杯食べても食いきれなかったのは、言うまでもないだろう。
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