第1章 査察団の到着

ケレス

  第一部 奇跡の海洋惑星


  第一章 査察団の到着


 トランプ級宇宙揚陸艦インディペンデンス号のドーム型船窓からうかがう惑星ケプラー22bは、もう肉眼で表面が確認できる距離にまで接近していた。


 生命居住可能領域ハビタブルゾーンど真ん中のそれは、母なる地球を超えるほどの環境に恵まれ、テラフォーミングする必要のない奇跡の惑星である。    

 豊富にある水は大気中に白い雲を形成し、惑星に多様で複雑な天候をもたらす。 

 

 地球によく似た濃緑色の惑星だが、データ通り海、海、海! 陸地が極端に少なく水没しているように見えた。その海の色は、昔見たダム湖の不気味な貯水を連想させ、ささくれ立った精神を微妙に刺激してくる。

 ……いかん、あまり考え過ぎるな。長期にわたる閉鎖空間からの解放は、哲学者めいた自問自答が占める毎日の終焉をも意味するのだ。

 

 宇宙船のブリッジ内は、常識外れのウッドデッキ風。目に見える所すべてが木目調で壁、床、天井を始め操縦席や船長席も強化不燃処理された木でできている。それもイミテーションではなく、こだわりのリアルウッド。

 昔の帆船をイメージしたものだが、これは僕からの特別注文仕様。少しでも精神安定に寄与すると判断されたのか、技術スタッフは魔法のような力で実現させてしまった

 ……正直ここまでやるとは思いもしなかったが。

 

 自慢の調度品には、場違いな猛獣の爪痕がそこかしこにできて高級感を台無しにしている。こんな事をしでかす輩は、あいつらしかいない。

 遠心力をかけて疑似重力を作り出している居住区とは違い、ブリッジは無重力状態。漂うケダモノの毛を鼻から吸い込み、くしゃみが止まらなくなった。


 

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