第20話 妖狐と『物の怪』。
夕方、部屋で漫画を読んでいるとリビングから母さんに声を掛けられた。
どうしたのかと思い、リビングに顔を出すと買い物を頼まれた。
「祐。悪いんだけど、お醤油とみりんを買ってきてくれない? 切らしちゃったのよ」
「あー、うん。わかった。醤油とみりんだけ?」
「そうそう、ちなみにこの二つがいつも使っているやつね」
そういって、母さんは空になった二本のボトルのラベルを見せてくる。
「はいはい。じゃあ、行ってくる」
「お願いね」
部屋に戻り、身支度を整えて玄関に向かうとリビングから先ほどまで夕飯を作っていた都子が出て来た。
「あ、都子。急いで買ってくるから、悪いんだけど少し待っててくれ」
「大丈夫だよー。それに私もついて行こうと思ってさ」
「ん? ついて来るのは構わないけど……夕飯の準備は大丈夫なのか?」
「うん、みりんがないとダメだから。それに、また祐が襲われるかもしれないでしょ?」
「あぁ……そういうことか。じゃあ、お願いしようかな?」
「うんっ!」
こうして、都子と一緒に商店街まで出掛けることになった。
「それにしても……妖狐とは言え、都子に守ってもらうのは何か気分的にすっきりしないなぁ」
ポニーテールを揺らしながら横を歩いている都子を見ながらついついボヤいてしまう。
妖狐で圧倒的な力を持っているからと言っても、見た目は抜群の美少女だ。性格も明るいし、料理も上手い。
そんな女の子に守ってもらっているのは、男として情けなく感じてしまう。
「んー、まだまだ祐より私の方が強いからねっ!」
最近は朝の素振りの時に相手をしてもらっているけど、全然歯が立たない。最初に比べれば、相手をしていられる時間が延びたこと以外は、成長している手ごたえがほとんどないのが現実である。
「まぁ、そうなんだけどさ……」
「ちょっとずつ動きが良くなってきてるし、あの時の『物の怪』くらいなら牽制出来ると思うよ?」
「そうなのか? うーん、イマイチ自分ではわからないな」
試しに戦ってみる、なんて危ないことはしたくない。けど、自分がどの程度の実力なのか知っておきたいとも思うのだが――。
「試しに戦う。なんて考えちゃダメだよ? あくまでも、まだ牽制出来るくらいなんだからね?」
都子は俺の心を読んだかのように、上目遣いで俺を見つめる。
「お、おう……わかってるよ」
「無茶はしないでね? 祐に何かあったら、みんな悲しむよ? もちろん私も……」
「……大丈夫だよ」
都子の泣きそうな表情をみて、つい手が都子の頭に伸びた。
「っ! ……えへへっ」
突然、頭を撫でられたことにビックリしたのか一瞬硬直したあと、都子はとろけたような笑顔を浮かべた。
うん――。やっぱり女の子は笑顔が一番だな。
そんな事を話しているうちに買い物も無事に済んだ。
「さて、と。買うもの買ったし、さっさと帰るか」
「うんっ」
醤油とみりんを無事に買い、家路につく。
商店街を抜けてすぐ、幼い頃に良く遊んでいた公園の前を通りかかった時――。
「きゃあぁぁぁぁっ!」
突然の叫び声に身体が硬直してしまう。
俺が硬直した一瞬で都子はハッとした様子で公園内に駆けていった。
「お、おい! 都子っ!」
慌てて都子の後を追って、公園内に入る。
都子の背中のさらに奥に倒れている女性が見える。そして、そのすぐ側には真っ黒なモヤが存在していた。
「――あれは『物の怪』!?」
俺が驚いている間にも、圧倒的な速度で『物の怪』に向かっていく都子。
「てりゃあっ!」
都子は『物の怪』に向かって飛び蹴りの要領で突っ込んでいく。
比較的距離があったからかその攻撃はかわされてしまったが、都子は倒れている女性と『物の怪』の間に割って入ることが出来た。
「祐っ! その人を見ててあげてっ!」
『物の怪』と対峙しながら都子は叫んだ。
「わ、わかった……!」
全速力で都子を追いかけて俺は、息も絶え絶えで倒れている女性の側につく。
フワっと風が吹いたように感じた次の瞬間――都子の黒髪が毛先に向かって輝く白髪に変化し、ポニーテールにしているリボンが
髪色の変化が終わると、キツネ耳とキツネ尻尾が出現した。
出会ってとき以来、二度目の妖狐としての都子の姿に目を奪われる。
輝く白髪にキツネ耳とキツネ尻尾を
「ん? あの『物の怪』……モヤが不自然に揺らいでいるような?」
さっきからずっと感じているフワッと吹いている風は、都子を中心に外に向けて吹いているようだ。
その風で『物の怪』のモヤが揺らいでいるのか……?
「真っ黒な『物の怪』は負の感情とかエネルギーの塊って前に話したよね? だから――」
そんな俺の疑問に都子は答えながら、『物の怪』に向かって踏み込む。
「もっと大きなエネルギーをぶつければ消滅させられるんだよっ!」
一瞬で間合いを詰めた都子は、『物の怪』を蹴り上げる。それと同時に、青白い炎が『物の怪』の落下地点に出現する。
重力に引っ張られて青白い炎に落ちていく『物の怪』は、あっけなくその存在を消滅させた。
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