ドッグ・ファイト!

井上 竜

プロローグ

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 キャノピーから見えるのは、青い空、白い雲、太陽の光。


 機首で高速回転する、縞状に輝く、三枚のエア・スクリュー。


 聴こえているのは、星型ラジアルエンジンの発する咆哮、流砂のような無線ノイズ、時速500㎞オーバーの風の旋律。


 肉と骨を伝う、自分の呼吸と、拍動のリズム。


 ぼくは両手で握ったレバーをグッと引く、倒す、傾ける。ジュラルミン製のスカイ・ドラゴンを操るために——シザーズ、ループ、スプリットS。


 重力が体重をもてあそび、X状のベルトがぎしぎしとせせら笑う。がなるような連続音に押されながら、7.7㎜の弾丸たちが、超音速で傍らをかすめ泳ぐ。当たればきっとひとたまりもない。


 でも不思議とぼくは、穏やかな気持ちだった。いつ心臓を貫かれたっていいと、そう思っていた。思っている。今も。ずっと。


 それはあいつだって同じなはずだ。ぼくの背後に回ろうと、自分のドラゴンを懸命に操るあいつも。


 すれ違うドラゴンが、頷くようにからだを傾げる。けれどもそれは、偶然じゃない。ぼくにはそのことが、はっきりとわかった。ぼくもドラゴンをバンクさせて頷き返す。


 そうしてぼくたちは、対話をしているのだ。人だけでは決してたどり着くことのできない、高度3,000mの上空で。言葉なんて余計なものは、一切使わないままに。


 そしてそう、ぼくらのただ一つの願いは、互いのドラゴンの撃破、撃墜——墜とすか、墜とされるか。ただそれだけ、たったそれだけ。


 みんなには悪いけれど、今この瞬間だけは、世界なんてどうなってもかまわない。ねえ、そうだよね?


 またぼくらは頷き合った。


 次の瞬間、ぼくはスライス・ターンをドラゴンに命じると、続けてグンと上昇させて、ついに相手ドラゴンの尻尾を視界に捕らえる——ロック・オン!


 左手でスロットル・レバーを握りしめると同時、20㎜機関砲のトリガーを引いた。


 視界の両端が金色に煌めく。空が刻まれる音が響き渡る。


 そして————

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