第393話 計画の仕上げ

経験者から仕事の見積もりについて、裏とりをすること数日間、だんだんと計画は精度を高めてきた。

とはいえ、経験者と言っても状況が異なったり、単に経験が浅かったりで怪しげな見積もりも大分混じっていたが、そのあたりは注意の印をつけて、作業が終わるたびに数字を修正し、板切れを裏返していく。


「精度のチェックが終わった仕事から、板切れを裏返していけば、状況が一覧できますね。それにしても、この手法は本当に有用です。教会でも採用するよう、上申せねばなりません」


「兵団ではどうかな?確かに遠征計画や準備には役立ちそうだけれど・・・」


「職人では、どうなんでしょうかね。代官様のように、工房を預かる立場なら必須の技能なんでしょうけど・・・」


新人官吏達が、板切れを前に議論していたので、声をかける。


「なんだ、シオンは自分の工房は欲しくないのか?」


「代官様!な、なんですか、自分の工房って」


「言ったとおりさ。自分の工房、欲しくはないのか?」


「ど、どうなんでしょう?代官様を見ていると、ものすごく大変そうで・・・正直、迷います」


しまった。職人は自分の工房を持ちたがるとばかり思っていた。

だが、俺の工房にいる職人たちは、工房を立ち上げて以来、どれだけの目に俺が遭ってきたのかを見ている。

普通の神経をしていれば、躊躇するのが当然だ。


「まあ、それならそれでいい。だが、この技能を身につけてくれると、本当に有り難い。自分も忙しくなるから工房だけを見ていられない時がある。そんな時、靴事業の生産計画を見ることのできる職人がいると助かる。給金も、あげられると思うぞ」


「えっ、本当ですか?はい、頑張ります!」


靴事業はサラに見てもらうつもりではいるが、1人で仕事を抱え込むのは大変だろう。同じ目線で相談できる人間がいる。そのせいもあって、職人の中からシオンを抜擢したのだ。


「ところで、どうなんだ、計画の立案具合は」


訪ねてみると、新人官吏達は胸を張って答えた。


「順調です。今日中には、計画ができあがるでしょう」


「ほう・・・」


ほとんど計画としては完成している、とのことなので全体をチェックしてみる。

幾つか、計画としてのアラは見つかった。

だが、計画のミスと、そこからの復帰が、彼らにとっての学びとなるだろう。

これ以上の完成度を机上で求めるよりも、一旦、スタートし、修正する方針を取った方が良いかもしれない。


とりあえず、翌日に全体計画の説明をしてもらうことにした。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「それでは、計画の説明をさせていただきます」


切り出したのは、クラウディオだ。

論理的に話すことにかけては、聖職者の中でも一番の舌の持ち主だ。

ただ、頭の良い人間の常で、物分りの悪い者に対し短気なところがある。


そのクラウディオが、細い指揮棒のようなものを持って、床一面に広げられた板切れを指し示しながら、計画の説明を始める。

その後ろには、5人の新人官吏達が資料らしき羊皮紙を持って立っている。

この日のために、相当に準備したものらしい。


どんな説明をしてくれるだろうか。

楽しみだ。

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