第386話 計画はまだ良くなる
翌朝、暗い内に工房の集まった新人官吏達は、代官であるケンジに、計画書とは名ばかりの板切れの並びを、そのまま見てもらっていた。
聖職者達は、羊皮紙に清書した上で見せようとしたのだが、ケンジの「必要無い」の一言で、撤回を余儀なくされていた。
工房の一角、机と椅子を角に片付けて床一面に散らかされた板切れをゆっくり1つ1つ検分し、時には内容について説明を求めるケンジを見つめながら、新人官吏達は身の縮まる思いをした。
そんな彼らの内心を知ってか知らずか、一通りの仕事を洗った後で、ケンジは笑顔で言った。
「なかなかいいじゃないか。仕事の全体量を洗い出せているように見えるな」
ホッとして肩の力を抜く官吏達。
だが、彼らに向かってケンジは付け加えた。
「それで、ここからどうやって改善するんだ?」
「改善、と言いますと・・・」
昨日の時点で、一応はベストを尽くしたつもりであった新人官吏達は困惑を隠せなかった。
彼らの表情を見て取り、もう少し具体的に指示をすることにした。
「今の計画も悪くはないが、ラフ案の段階では、板切れに書かれた仕事のうち、本当にその期間で終わるか疑わしいものが幾つかある。それに、全体計画が間延びして時間がかかりすぎる。
改善の方向と、仕事量の見積もりの精度をあげること、計画の期間を短縮することを重視してもらいたい」
上司である代官の指示であるから、是非もない。
「わかりました・・・」
と力なく新人官吏達は頷いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ケンジが去った後、新人官吏達は椅子だけを持ってきて車座になり、相談を始めた。
最初に口から出てきたのは、ケンジの指示に対する反発だ。
「くそっ!これだけの仕事量を短くできるわけないだろうに!」
「そうだな。私達がこれだけの知恵を集めたのだから、それなりにキチンとした計画ではあるはずなのだ。それを・・・」
「大体、計画には時間がかかるものなのだ。それを無理に短くすれば、実行段階で躓くに決まっている」
それらの不満を、サラは腕を組んで聞いていたが、ある程度不満が吐き出された頃を見計らって声をかけた。
「それで?じゃあ辞めるの?あたし、あきらめないわよ」
サラの声に含まれた強い意思を感じて、不平を漏らしていた男達は黙りこんだ。
自分達の言葉が、ただの文句でしかないことを自覚していたからだ。
「いや、すまない。私達が誤っていたようだ」
とクラウディオがサラに向かって謝罪した。
聖職者が元冒険者の女性に素直に謝る光景に他の官吏達は驚き、そして己を恥じた。
「だが、どうする?これだけの仕事内容を全て洗い出すとなると10日間では不可能だ。まして、短縮するとなると、仕事を削れということか?だが、いい加減な仕事をするわけにはいかん」
「そうだな。それでは本末転倒だ。仕事の質は落とさず、どうやって期間を短縮するのか。我々の手だけではとてもムリだ」
「それよ!」
「それ?」
サラが急に叫んだので、ロドルフとパペリーノは議論を中断し、そちらを向いた。
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