第380話 隠されているもの

「その、隠し畑の存在は、領地に確認されていませんが・・・」


「いや、必ずある」


クラウディオの疑問に対しては、確信を持って答える。

領地のあるところ、必ず隠し畑はある。


「あたしも、あると思う」


サラも、俺の意見を首肯する。


そこにシオンが、おずおずとした様子で疑問を挟んでくる。


「その、隠し畑というのは何でしょうか?それは、なくさないといけないようなものなのでしょうか?」


なるほど。たしかに、街ぐらしで職人一筋のシオンには馴染みのない話だったかもしれない。

それに農村の実態を知らないものが多い新人官吏達には、一度、まとめて説明しておく必要があるだろう。


「隠し畑というのは、村の柵の外に設けられた、領主の管轄の外に農民が個人的に拓いた畑のことだ。多くの場合、柵内に十分な農地を持てない貧しい農民が、税逃れ、あるいは糊口をしのぐために雑穀などを植えていることが多い」


「で、ですが柵の外は街の城壁よりもずっと頼りないものですよね?危険ではないですか?」


「そうだな。危険だ」


「柵の外に作物など植えておいても、野生動物や怪物に荒らされ放題ではないですか。手入れも難しいでしょうし」


「そうだ。何かあれば荒らされる。土は肥えているかもしれないが、例え荒らされなくとも雑草取りなどの手入れが難しいから十分に実るとは言えない」


「そこまでして、どうして・・・」


「貧しいからだ」


結局、その一言に集約される。


「職人の仕事で言うなら、ギルドの親方のところで修行していて、家族がいるのに十分な賃金が貰えない、という状態なんだ。そんなとき、職人ならどうする?」


「親方に交渉するか、ギルドに話して親方を変えます」


「そうだな。だが、農民は職人ギルドよりも強く土地に縛り付けられているから、親方を変えるように引っ越すことはできない。そうすれば、違法と知りつつも、別口の仕事をしないと生きられない。そうだろう?」


「わたしは、そんなことはしません!」


「そうだな、シオンのような職人は、副業をしようとは滅多に思わないだろう」


「そうですね。俺達は作るのは専門ですが、売るのは不得意です。違法だと知られれば、作ったものも買い叩かれます。割にあいません」


「そうだ。悪いことは、割にあわない」


「だけど、それってどうするの?隠し畑をなくすのは難しかったでしょ?」


前に、農村の隠し畑をなくそうとして失敗したことをサラは言っているのだ。


「今度は大丈夫さ。あの時とは、立場も権限も違う」


「じゃあ、どうやるの?」


「簡単だ。隠し畑のあたりまで、開拓してしまえばいい」


村の外の畑が問題になっているのであれば、そこまでを村の畑にしてしまえばいい。

人間の社会が広がれば、それで問題そのものが消滅する。

その上、村は豊かになる。


「そんな無茶な・・・」


と、新人官吏達は呆れた様子をみせる。

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