第338話 はじめての「こんさる」
3人の新米冒険者。農村から出てきたばかりでゴブリンを倒した経験はなし。
この経歴では、例え荷物持ちで報酬が激安だったとしても、どこのパーティーも雇ってくれることはない。
だが、人の背丈の半分もあるような大鍋を背負い、薪割の鉈と料理用の包丁を持った3人組には、複数の冒険者パーティーから荷物持ちとして声がかかった。
それが、ジャン、ジルー、ヘイルの3人組には不思議だった。
半信半疑どころか、一信九疑で、サラの言うように、大鍋を背負って仲間にしてくれるよう頼むと、すんなりとパーティーに加わることができるのだ。
「・・・何でだ?」
「・・・さあ?」
「何でだろうね?」
農村から出てきたばかりの3人組は、しきりに首をひねっていたが、答えには全く辿りつけなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「新米冒険者3人組だと思うから、役にたたないんだ。だから、見方を変えてみるんだ」
見方を変える、という言い方をケンジはよくする。
サラには、その意味がよくわからなかったが、今回のことではそれが役に立った気がする。
「3人組の料理人で、冒険者に同行できて、少しは身を守れる。それなら、冒険者からしても、ついてきてもらって損はないだろう?」
それがサラにアイディアを説明したケンジの言葉だった。
それを聞いて、サラは自分の中でうまく言語化できなかった事実を、うまく説明してもらえた気がした。
「あとは、見た目だな」
「見た目?」
「そう。考え方を変えてもらうには、見た目が重要だろ?サラが弓を背負っているから弓兵に見えるように、料理ができる!って見た目が大事だな」
「じゃ、おっきい鍋ね!鍋を背負ってもらいましょう!」
サラの頭には、村の祭りの光景が浮かんでいた。
サラの農村では祭りの際には村の共同の竈で白パンを焼き、大きな鍋で肉の入ったスープを作るのだ。
竈は持ち歩けないが、鍋なら背負える。
「鍋か。吊り下げる形の丸鍋なら火力の調整もできて効率がいいし、ちょっとした防具の代わりにもなるな」
少し考える様子を見せてから、ケンジも賛成した。
「それと、薪用の鉈と、料理用の包丁もいるわね!」
「鉈なら藪を切り払うのにも使えるし、包丁は怪物の解体用にもできるな。料理に使う前には消毒がいるが」
怪物の肉は毒がある、と信じられているので包丁類は水で洗い、焚き火で炙ってから使うぐらいはする。
動物の肉が手に入ることは少ないが、鉄串があると肉を焼くには役立つ。
そういうわけで、新米3人組の反対を押し切って金物屋に連れて行ったサラの思惑はあたり、3人組は冒険者としてのスタートをきることができた。
華麗な冒険者デビューという経歴を目指した3人組からすると不満はあるかもしれなかったが、とにかく冒険者として生き残る目処がたった。
何よりも、まずはそのことが重要なのだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
3等街区の安宿で、ケンジとサラは麦酒を飲みながら、粗末な卓を挟んで今回の感想を語り合っていた。
「それで、最初のコンサルはどうだった?」
とケンジが意地悪そうな顔をして聞いてくる。
「もう、大変!ぜったい、普通に冒険者してた方が楽!」
というのがサラの実感だった。
「でもね、あの3人の子達の依頼は請けて良かったと思うの。こんさる、しなかったら死んじゃってたもんね」
3人組から受け取った「こんさる」報酬の銅貨3枚を卓上に並べると、1枚1枚が彼らの顔と重なって見える。
お上り3人組の将来はわからない。だけれども、あの子達には成長のための時間と機会が得られた。
冒険者という生き方は厳しいし明日死ぬかもしれない。
それでも、それが今日じゃない、というだけでも仕事の価値があったと思うのだ。
「そうだな」
ケンジは、サラの答えに静かに、優しく同意した。
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