第214話 順番に解決しよう
教会の印を管理する実働業務と言う名の汚れ仕事を冒険者にやらせる、という案に異を唱えたのはミケリーノ助祭だった。
「冒険者の方に、商家や職人の方と交渉する権威や手腕は期待できますか?暴力沙汰にしかならないように思えますが」
その懸念は当たっているかもしれない。が、対策はある。
「そうですね。その場合は、交渉が得意なものを選んで依頼を任せることになるでしょう」
俺がそう言うと、ミケリーノ助祭は別の案を示した。
「この街に限って言えば、伯爵領の衛兵達に依頼する方法もありますよ。他の領地では、そうしてきたわけですから」
確かに、他の領地への水平展開を考えると、既存の仕組みに載せる方法にも優位性がある。
だが、ミケリーノ助祭の案に容易にうなずけない部分もある。
「けれど、その方法でも冒険者に依頼するのと同じ懸念はありませんか?衛兵の方に教会の印を管理する現場の業務が務まるでしょうか?それに、伯爵様に依頼することで農村を支援するための金額が目減りすることにはなりませんか?」
頭に乗る組織が多くなれば、末端への分配が減る道理である。
せっかく農村の支援のための仕組みを考えたのに、それが教会だけでなく貴族にも吸い上げられる結果になってしまっては、本末転倒と言わざるを得ない。
「それ、剣牙の兵団(うち)でやれるか、団長と話してみましょうか?」
とキリクが別の提案をしてきた。
なるほど、確かに実務としては剣牙の兵団が少々荒っぽいものの、積み重ねてきた経験があるわけだから、任せるというのは理に適っている。
冒険者に依頼する、という抽象的な話でなく、ジルボアのところであれば任せられる安心感もある。
「確かに剣牙の兵団であれば、任せられるでしょう。ただ、その場合は仕組みが上手く機能したとしても、この街だけの特殊事情と見なされて他の領地で展開するための事例(ケース)としては、あまり役立たないかもしれません」
だが、その案にもミケリーノ助祭は指摘する。
「たしかに、その可能性はありますね」
完璧な提案などないから、一見、反対意見ばかりで身動きがとれなくなったように感じられるが、そうではない。
事態がこんがらがって見えるときは、分割して考えると良いのだ。
「それでは、こう考えてみてはどうでしょうか?まず、最初は剣牙の兵団に任せましょう。その間に、我々は内部の業務の詰めに組織の力を費やすことができます。そうして、組織の経験と体制がある程度は整ったら、他の冒険者に依頼してみましょう。そうすることで、冒険者に依頼する場合の懸念事項を洗い出すことができます。最後に、伯爵様にお願いして、一定期間だけ衛兵に依頼してみましょう。それで冒険者に依頼する場合と、貴族様に依頼する場合の費用や手順の違いを洗い出すことができます。
今、申し上げた順番で進めれば、組織と業務の整備を進めながら、どの方式が良いのか比較することができるのはないですか?」
俺が整理して説明すると、ミケリーノ助祭は、ポカンと口を開けて言った。
「なんだか、貴方が説明すると難しい仕事が簡単に聞こえてきますね」
「全てを一度に解決しようとするから難しいんです。一つ一つの問題は簡単なのですから、順番に解決できるよう、問題を切り分けて考えているだけですよ」
俺は肩をすくめて素直に答えたのだが、会議に参加した面々は、何だか納得いかないような、狐に化かされたような表情を見せていた。
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