第51話 お天道様は見てる

冒険者ギルドの商売(サービス)がコケた後、こちらへの干渉は止んだ。

あのハゲはギルド内で随分と肩身が狭い思いをしているらしい。

ザマアみろだ。


とは言え、またいつ冒険者ギルド側で嫌がらせの種を思いつくか

わからない。事務所を持つ予定を、少し前倒す必要がありそうだ。


事務所をどこに持つべきか。


感情面を排して考えるなら、冒険者ギルドと提携してギルド内に

スペースを借り受けるのが正しい。


今は、冒険者ギルド内のテーブルを必要に応じて借りているが、

それを恒常的に手数料を払って正式なものにするのだ。


だが、先日の手口を見る限り、組織としての冒険者ギルドに

ビジネス的な倫理は期待できない。


この世界では、身分差や冒険者の地位の低さが大きくモノを言うので、

契約書に書かれたことを守るという、資本主義社会では当たり前の約束が

期待できないからだ。


事務スペースを正式な契約で借りたとしても、利益がでている

と見れば賃料を上げて来るのは明らかだし、契約も反故(ほご)にするだろう。


法律は強者の味方なのだ。


この世界で対等な契約を結ぼうと思うなら、地縁(コネ)の力

を強くするしかない。


やはり、外に事務所を借りた方がいいのかもしれない。

その場合は、冒険者用の靴製造が軌道に乗っていることが条件になるが

それには、もう少し時間がかかる。


冒険者ギルドが、次の嫌がらせを思いつく前に、何とかしなければ。


俺は一見、順調に見える駆け出し冒険者向けツアーを、多少の焦りを

感じながら続けていたが、意外なことに冒険者ギルドからの手出しは

それ以降、特に行われる様子がなかった。


冒険者ギルドの職員は、先日のサービス失敗が余程に懲りたらしい。


お役所組織というのは、成功はしなくとも良いが失敗は咎(とが)められる組織だ。

一度失敗した仕事には、誰も手をつけたがらないのだろう。


加えて、利用者である冒険者からの反発も大きかったらしい。


俺はそれなりに新人冒険者達の顔役的な立ち位置になっているようで、

その世話役をギルドが攻撃する、という図式に冒険者連中も腹を立てていたようだ。


そんな話を、ツアー中に駆け出し冒険者達から聞くことができて

良いサービスを行えば、世間は味方になる、というのは本当だなと

ありがたく思った。

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