第10話 予約の仕組み

 小銭に目が眩(くら)んで、駆け出していきそうなサラを少し待たせることにして

 

 予約の仕組みを考える。


 「サラ、数字はわかるよな?冒険者(びんぼうにん)の連中はどのくらいなら数えられるんだ?」


 「そんくらいわかるよ!だって矢の数だって数えないといけないし!

  あんまり書けないけど・・・

  でも、農民だって税を数えるから、数えるだけはできるよ!」


 「税はどうやって数えてるんだ?」


 「なんか升(ます)と秤(はかり)を使って、役人と村長が、

  大きい板に数えながら傷をつけるの。

  村の人みんなが、じっと見てるから誤魔化すのは難しいのよ!」


 なるほどなあ・・・。数学的なものは普及してないが、

 生活に必要な数字は扱(あつか)えるわけだ。

 

 農民にとって、税金の過多は文字通り、命に関わる。真剣なのだ。

 学は限られた層にしか普及していないが、知恵は平等だ。

 

 

 農村に数字を読む素養があるのなら、

 その仕組みを応用するのがいいだろう。


 俺は木切れを取り出すと、ナイフで削って傷をつけ始めた。


 「なにしてるの?」とサラが手元をのぞき込んで聞いてくる。


 あぶないって、手を切るだろ。


 「紹介状兼予約票を作ってるんだよ。」


 10cmぐらいの木切れから、断面が丸い棒、三角の棒、四角い棒の3種類作る。


 各棒には、上の方、真ん中、下の方の3カ所の何(いず)れかに大きく傷をつける。


 真ん中あたりには太陽を表す○印をつける。


 最後に、棒の断面に指輪を魔法で熱して焼き印をつける。


 これで、3日間分を3つに分けた予約票ができたわけだ。

 仕組みをサラに説明する。


 「今度から、紹介者にはこの棒を渡してくれ。

  棒は、丸い棒が今日、三角の棒が明日、四角い棒が明後日だ。

  傷は、朝飯後、昼食後、夕食前の3つだ。


  サラは、棒を渡したら俺の宿まで来て相手の名前を教えてくれ。

  残った棒を俺が受け取って、相手がいつ来るか確認する。


  それならできるな?」


 「うーん・・・?要するに、相手に棒を渡せばいいのね?

  ○が今日、△が明日、□が明後日。

  上線が朝、中線が昼、下線が夕方って説明して、

  残りを宿まで持ってくる。」


 「そうだ。まあ、お前の依頼もあるだろうから、紹介するときに

  やってくれればいい。」


 「わかった!とりあえず行ってくる!」

  そういうと、サラは木切れを引っ掴んで駆け出して行った。


 俺はとりあえず、平板にナイフで四角く線を引いてスケジュール表を

 つくりはじめた。


 「異世界来てまで、スケジュール表作るとは思わなかったな・・・。」


 と、少し哀しい気持ちで呟いてしまった。

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