3rd Album ブラックデスパレード [Disc 1]

Track-1 クレイジストワールド

 ――時は西暦20XX年、人類は宇宙からやって来た謎の生命体『カロチノイド』により地球を陵辱されていた。


 血気盛んな若者、いわゆるDQNと呼ばれる者たちはここでは書き記せない残酷なやりかたで処刑され全滅し、政治家やミュージシャン、芸能人などの権力者はTVカメラの前で皮を剥がされた。美しい女性は犯され、そうでない女性はみな井戸に捨てられた。老人達は財産を全て奪われ工場でミンチにされて良質な土壌の土として生まれ変わらされた。子供達はまるで小鹿のように裸で農場で飼育され毎夜、

侵略者達の舌を楽しませていた。少しでも抵抗しようものなら問答無用で銃殺。世界に真っ赤な悪の華が咲き誇っていた――



 そんな世に立ち上がった戦士がいる。性欲を力に変え精液を弾丸に変化させる『白濁光弾(ホワイト♂ダックシューター)』を使いこなすその漢は


 クレイジスト・ワールドに抗う救世主として崇められた。乱世に降り立った肉食恐竜、人は彼を『ティラノ洋一』と呼ぶ!!!



 「はい!やめ!!」


 気分良く自作したラノベを朗読するボクをマッスが止めた。「なんだよ!これから盛り上がってくる所だったのに!!」


 「...急に意味わかんない世界観に放り込まれたからびっくりしたよ」山崎あつし君が汗を拭う。


 「性欲を力に変え、えっと、アンタやっぱ頭おかしいんじゃないの?」幼なじみの坂田三月さんが頬を染めて顔をしかめる。


 「大体『カロチノイド』ってなんだよ!食品添加物かよ!喰ったら体が赤くなんのかよ!?」

 「だからその説明をいまからしてやろうと思ってたんじゃんかよ!!」


 思い出し笑いをするようにマッスこと鱒浦翔也が身をかがめてゲラゲラとボクを指さした。


 「ち、なんだよ。あー、思い出したら少し恥ずかしくなってきた...」

 「学祭のステージでちん、いや、下半身露出したくせに恥ずかしいモノなんてあるわけ?次、誰の番?」


 ボクの前に自作の恋愛小説を朗読した三月さんが首を動かすと「はい!おれ!」とあつし君が勢い良く立ち上がった。


 「よーし、エントリーナンバー3番!2年A組山崎あつし著作、タイトルは『僕と彼女と魔法と彼女と召喚獣』ですっ!!」

 「...うわ、ありきたりー」

 「彼女って2回言ってるし...」

 「平 凡太へいぼんたに改名した方がいいんじゃないの?」


 ボクらの声を無視してあつし君は自作ラノベの朗読を始めた。


 「...やれやれ。俺はこの箱庭学園で平凡な高校生活を送りたかっただけなのにどうしてこうなっちまうんだ...あいつに関わるとロクなことにならない。

あー、不幸だー。そういえば僕は友達が少ない。」


 「よーしカラオケいこーぜー」

 「うぉオォ~いぃぃい!!!」


 第2音楽室を出るボクらを涙目であつし君が追いかけてきた。こんな感じでボクらは軽音楽部員としての高校生活を満喫していた。


 あー、楽しい。リア充ってこんな感じ?ボクらはカラオケ屋で受付を済ませると各々に持ち歌を歌いまくった。


 「消してぇ~!うぃらいとしてぇ~!!くだらないシャンションショー!!!忘れない、キソンヨンゴール!!!」


 ボクがアジカンを歌うとみんなが体を上下させて笑う。そういえば前にもこのメンバーでカラオケ来たことあったな。


 たった4ヶ月ちょっとしか経ってないけど何年も昔のことのように感じる。それだけ成長したっていう事ですよ!おねぇさん!!


 「はっ!」


 ボクはテレビのPVに合わせてエアギターを始めた。ちこちこちこちんこちこちこちこ。単音のフレーズが頭に鳴り響くとテーブルにがしゃん!という大きな音が鳴った。



 「ティラノ君、だいじょぶ!?」「おい!大丈夫か!?」三月さんとマッスがボクに手を掛ける。どうやらテンションが上がり過ぎて転んでしまったようだ。


 「...ティラノさぁ、まだ、怪我治ってないんじゃない?」あつし君が心配そうにボクに尋ねる。ボクは額に張り付いたコーラのレモンを口に入れると照れ隠しで頭を掻いた。


 「いやぁ~ちょっと飲みすぎちゃってさぁ~」

 「お前、今日ウーロン茶2杯しか飲んでないだろ。ちゃんと病院通ったほうがいいぞ」

 「そうだよ。変な菌が私に移ったらどうすんの?」


 「まあまあまあまあ、」ボクはみんなをなだめて椅子に座った。「ただ転んだだけだって。心配すんなよ。ほら、みんな歌いなよ」


 そう言うとボクはマイクをマッスに手渡した。

 「ほんとに大丈夫なんだな?」「ああ、大丈夫だって」


 ボクが微笑むとマッスが安心したようにうなづいた。本当のことを言うとボクの右足は青木田達との死闘で負った怪我が完治していなかった。


 今は痛みを薬で散らしているが夜、激痛で眠れなくなる時もある。右足がなくなる夢で目が覚める時もある。でもそのことをみんなに言う訳にはいかない。今病院に行ったら入院するかもしれないし、そしたらいい感じで来てたみんなのムードを壊してしまう。


 それにボクはバンドのボーカルでこの物語の主人公だからね。『T-れっくす―リハビリ編―』なんて誰も読みたくないだろ?


 「よし、そろそろ時間だ。帰るか」マッスが呼びかけるとみんなが帰り支度をした。

 「ティラノ、大丈夫か?」「立てる~?」「だいじょぶ。びんびんだよ」


 ボクは笑顔を作ってみんなの後ろを歩いて帰宅の路に着いた。みんなと別れるとボクは歩道の隅にしゃがみこんだ。脂汗が流れ落ち、視界がぐるぐると回転する。腹の底からすっぱいものがこみ上げてくる。汗が引くとボクは自分の吐瀉(としゃ)物を見つめながらぜぇぜぇと息を吐いた。


 「だいじょうぶ、だいじょうぶだ。」ボクは片足をひょこひょこひきながら家のドアを開けた。


 居間の中央に倒れるとカバンから薬を取り出してそれを全て喉に流し込んだ。吐き気や痛みと一緒に意識も次第に遠ざかっていった。



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