第3話
闘技場へと続く廊下を俺は歩く。
歓声が、声援が、闘技場へと近づくにつれ大きくなっていく。
これを聞いても今の俺は緊張しなかった。むしろ、俺の中で高揚感を生む。
扉をくぐり、闘技場へと足を踏み入れる。光が差し、俺は眼を細める。
俺が闘技場に現れると、声は一気に膨れ上がる。対面からは対戦相手である墨田玄十郎も現れた。彼は黒いマントを羽織っていて、杖を持っていた。魔術科の人間のようだ。マントはただの恰好つけか。
『一回戦、第二試合。戌井涼梧と墨田玄十郎の試合を始めます。なお、意図的な殺害は禁じ、もし、意図せず相手を殺害してしまった場合、その罪状は問わないものとします。これに不服のものは速やかに棄権すること。……棄権者なし。では、両者、これに同意したものと見做します』
アナウンスはそんな前口上を述べて後、試合開始を伝える。
『第二試合、開始してください』
抑揚のない事務的な声で、試合開始が合図された。
合図と同時。
俺は一気に駈け出して、対面の墨田との距離を詰める。
腰に下げた刀の柄を握り、踏み出し、俺は居合の要領で刀を抜く。振る。
しかし、俺の振った刀は空を切る。いつのまにやら眼前に墨田はいない。
《デウス》のおかげで五感は妙に冴え渡っていた。風が妙なざわめきを立てるのを俺は聞く。振り返る。上を見る。墨田は宙に浮いていた。マントがぱたぱたとはためいている。
墨田は宙に浮き、恰好よく杖を回す。
「受けよ、我が奥義」杖を中心に魔法陣が展開される。杖をこちらに向けることで、魔法陣もこちらを向いた。「
ダサい技名を叫びながら、魔法陣から放たれるのは何匹もの黒い竜だった。それらは口を開け、俺を喰らわんと奔流のように襲い掛かってくる。
とはいえ。
これがどんな魔術かは知らないが、今の俺に怖いものなどないのだ。何にしたって力技でねじ伏せる。思いっきりの魔力を乗せた刀で、その魔術をねじ伏せることが今の俺にはできる。それくらいに俺の魔力量は多い。
それに、墨田玄十郎、聞いたこともない名前だ。つまり、上位に位置していない雑魚だ。
黒い竜はこちらに迫る。俺は刀を振る。
激突。
拮抗は一瞬。競り負けたのは黒い竜の方だ。
俺の振った刀は黒い竜を両断し、両断された黒い竜は瞬間的に霧散した。
「なにっ!?」
なんて、墨田は驚いているが、驚くほどのことじゃない。
俺を誰だと思っている。最強の座から降ろされても、強さは変わりゃしないのだ。俺が最強じゃなくなったって、お前が弱いままなら、結局、差なんて大して縮まらない。縮まってすらいない。
「
また、彼は先ほどの黒い竜の奔流を放つ。それは効かないと先ほど判明しただろうに。二度あることは三度あるとでも思っているのか。
俺はその奔流を踏み台にして、宙へ浮く墨田のもとへと駈ける。
迫ってくる俺にビビっているのか何なのか。焦りの表情で、わたわたとする墨田。
俺は刀を鞘へ納め、抜刀の構えを取る。
墨田はどうしていいのかわからなくなったのか、杖を振り、攻撃をしてくる。
振り下ろされる杖。俺は刀を抜刀。俺の一撃が杖を両断する。杖の上端が落下し、地面で土埃を上げた。
続いて、俺は刀を振り上げる。
墨田は咄嗟に短くなった杖を横に構えて、盾とする。
何をしてんだか。俺は呆れながらも、刀を振り下ろした。
俺の刀は墨田の杖を断ち、そのまま勢いを落とすことなく墨田を斬る。
血が散って、墨田は「うぐ」と呻く。そのまま彼は脱力し、宙に浮くこともままならなくなり、落下し、地面に叩きつけられた。俺も上手に着地。
この結果を受けて、歓声が大きくなる。まあ、観客はどちらが勝っても騒ぐだろうけど。
歓声の中、アナウンスが試合結果を告げる。
『一回戦、第二試合。勝者、戌井涼梧。敗者、墨田玄十郎』
相変わらずの事務的な声だった。
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