第18話 ルシィの秘密
妖精の祠が光っている。
屋根の下、奥の方が、ぼんやりと青白く。
青白い光ってなんか幻想的だけど……ちょっと怖い気がする。
「なんだろう、これ」
長方形に削った石を積んだような祠なんだ。
奥行きは4メートルくらいかなあ。最初見た時は全然気づかなかったけど、奥の方に紋章がある。
その紋章が光っていた。
『ルシィ、離れようか。ちょっと怖いよ』
「……」
あれ? ルシィさん?
「……」
ルシィの反応がない、どうしちゃったんだろう。
ふらふらと祠の中に入っていく。
『やめときなって。ストップ』
「……」
ダメだ、こちらの言うことが耳に入っていないみたいだ。
参ったな。
どうしようかな、と考えている間にルシィが光を放つ紋章の前に立った。
紋章は植物の
『ちょっと、ルシィ……』
ルシィは静かにその紋章を触った。
*
*
*
光に包まれた所までは覚えている。
鉛筆に宿る魂と言っても、五感的な感覚があるんだよね。
上下左右が分からない、重力から解き放たれたような感覚に襲われた。
……。
あれ? 地球?
ゆっくり目を開けると、俺は地球の上に立っていた。
誇張表現じゃなく、本当にそのままの意味で。
足元に、地球のような惑星。どの辺の上空だろう。
遠く見える所に銀河、星団、彗星、そして太陽。
あれ? 足元?
おお。体だ。人間の体だ! すんごい久しぶり!
俺は人間の体を取り戻していた。
これは一体?
ああ、それよりもルシィは? ルシィはどこに行ったんだろう。
――ここにいます。
誰ですか。あなたは。
俺の目の前に、何やらこう、白い大人の女性がふわっと現れた。
俺よりも、圧倒的に大きい存在だ。
……でも怖い感覚はないかな。
――私の名前はリュシル。あなたにいつも守ってもらっている、ルシィです。
またまたご冗談を。
ルシィはもっとちびっ子だよ。貴女みたいなセクシーガールじゃないって。
――そのうちわかります。
あ、はい。
ところでこの状況を説明して欲しいんだけど。
――はい。あなたは唯一の適合者です。
説明になっていない気がします。
というか、適合者? どういうこと?
――それもいずれ、理解できる時がくるでしょう。
そ、そうですか……。
それは一体いつなんでしょうねえ……。
――あなたがリュシルと心を通わせた時、世界は再び蘇るでしょう。
ちょっとちょっと、だいぶ理解を超えてきましたよ。
もうなんなのこれ……。
――これもフェイズの一つです。
ああ、フェイズってなんかどこかで聞いたぞ。
前世のどこかで聞いた言葉だ。変な横文字ばっかり流行らせちゃってさあ。
――また会いましょうね。
え。あ、はい。
なんだか、俺とルシィに秘密がありそうことを言われてしまった……。
*
*
*
「うう……おひゃよ……、えんぴつしゃん……」
ほぼ一方的な会話だった、夢の様なものから目が覚めた。
あれからどれくらい時間が経ったのだろう。
ここは……あの祠の中だ。ルシィは……?
「ふわあ、よく寝た気がする……」
さいですか。
っていうか、俺、やっぱり鉛筆じゃん。
あっれえ、さっき俺が見ていた夢では普通に人間だったような……。
『お腹、すいてる?』
「ううん。卵、美味しかったよ」
あ、あれからの続きなのね。
『動ける?』
「うん。大丈夫だよ」
『じゃあ、少し歩こうか』
「うん!」
ここの祠で救助を待つべきかなと思ったけど、ちょっとこの祠は気味が悪い。
またルシィが変なことにならないように、離れた方がいいと思うんだ。
『さっきの小川があるよね、あそこまで行ってみよう』
「うん!」
小川をそっと覗きこむルシィ。
『川にさ、ちょっと葉っぱを1枚落としてみてよ』
「これでいい?」
『うんうん』
そっと落とされた葉っぱが、ゆっくりと流れに沿って動き出す。
うん、下る方向が分かった。
『葉っぱが流れた方向に向かって歩いていこうか』
「はーい!」
とても元気で宜しい。
目標はバミィ川。
この小川がバミィ川に繋がっていると信じて、さあ出発だ。
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