騒音の支部長!!
幌幌町にまた一人、幹部が現れた。
ダイオキシンの前に跪き、恭しく辞儀をする。
「ダイオキシン様。
ロックバンドのkissみたいなメイクと姿をした幹部、デジベルはお土産のカステラをダイオキシンに差し出した。
【よくぞ参ったデジベルよ!カステラ有りがたく受け取ろうぞ!!】
お土産のカステラをヘドロに渡し、お茶にしようと小声で指示するダイオキシン。
「聞けばラフレシアンなる邪魔者が粋がっている様子。挨拶までに、一人くらい潰しても構わないでしょうか?」
不敵に笑うデジベル。かなりの自信があるようだ。
【よかろうデジベルよ!但し機害獣は渡渡町から運んできた物にせよ!!】
ダイオキシンはしみったれだったので、なるべく経費をかけないよう、支部の巨大兵器を使うつもりだ。
「解りました。では行って参ります」
配属先の渡渡町には敵がいない。比喩でも何でも無く、いない。デジベルは己の力を存分に確かめられる最前線に召集された事を心から楽しんでいた。これで強者と戦う事ができる。と。
お昼休みに白雪の別荘(保健室)でご飯を食べていた桜花達の耳に、超不快なラジカセ音が聞こえてきた。
「うっせーなぁおい?何だ一体よぉ?」
校庭から聞こえるその音はステレオみたいなデカいスピーカーをボディにしている、巨大兵器フキョーワオンが発していた。
あまりの騒音に耳を塞ぎ、ご飯を食べる箸が持てなくなった生徒達。これは一大事だ!育ちざかりの高校生の昼食の邪魔をするとは許せない!!
「カンキョハカーイですの!みんな行くですの!」
正義の為に立ち上がる白雪!みんなのお昼休みを守る為にラフレシアンは戦うのだ!!
「あ~…ワリィ…カップ麺伸びちゃうからよぉ…」
「ごめんなのら~…スープ春雨作ったばっかなのら…」
「カップワンタン食べている最中ですから…」
なんと!!桜花達は自分達のお昼ご飯優先の為、カンキョハカーイと戦う事を拒否したではないか!!
確かにみんなの昼食も大事だが、自分達の昼食も大事だ!!何故なら育ちざかりの高校生なのだから!!
しかもガールズトークに花を咲かせる女子高生。お昼休みは必要だ。
しかし、白雪はプルプルと怒りに振るえて固く拳を握った。
「信じられないですの!この一大事に…珊瑚!一緒に行くですの!」
「…ブツブツ…私がパンと野菜ジュースだからって…ブツブツ…確かに伸びたり冷めたりしないからね…ブツブツ…だからって私だけ死ねと言うのね…ブツブツ…」
「あーもうっ!早く行くですの!」
ブツブツ言っている珊瑚を引っ張り、白雪は変身してフキョーワオンの前に立ち塞がる。
フキョーワオンは不快音を奏でている。カエレ!!カエレ!!サッサトカエレー!!と布団叩きをパンパン叩いて合いの手を作り出しているあたり、不快感がプラスになる。
「待ちなさいですの!」
「…ブツブツ…待つ気無いよ…ブツブツ…きっと…ブツブツ…」
フキョーワオンの頭に乗っかっているデジベルが白雪達を睨んだ。
「ほう、貴様等がラフレシアンか。なんだ?二人だけか?」
「お前如き、私達二人で充分ですの!」
白雪達はデジベルに名乗った。
「舞い散る雪…手のひら触れると溶けて無くなり儚くて……だけど!!寒いと垂れる鼻水が不快っ…!!美少女戦士!!ラフレシアン ホワイトスノーブリザード!!」
「青い海…気分爽快、開放感万歳…だけど、プカプカ浮いてるクラゲが不快…美少女戦士!!ラフレシアン グレートバリアリーフ!!」
ポーズをキメて、フキョーワオンに突っ込む二人。しかし!!
「行くですの!!きゃん!!」
白雪はすっ転んだ。予定調和だ。誰も驚きもしない。
「やっぱすっ転んじゃったよ白雪、いやホワイトスノーブリザード…ズルズルズル~」
カップ麺を啜りながら戦いを見ている桜花。
「グレートバリアリーフ、凄い大変なのら~…チュルチュルチュル~」
スープ春雨を食べながら気の毒に思う紅葉。
「逃げちゃえばよろしいのにねぇ~…ハフハフハフ…」
他人事過ぎの梅雨。
「しっかし、いざ観戦に回るとなると、ラフレシアンって本当にクセーよなぁ」
いつも自分が発している臭いを客観的に嗅ぐ桜花は、改めてラフレシアンの臭気を感じた。
カンキョハカーイもそうだが、自分達も結果周りに被害を与えているのでは?
「まぁ、ヒーローヒロインなんてそんなモンかもしんねーな…ズルズルズル……」
戦う事に意味を見出したり、悩んだりしているヒーローヒロインとは違い、己の為に、お金の為に戦う桜花。世の為人の為に戦っている訳じゃない桜花は揺らがないと言えよう。
自分の為故、臭い匂いも我慢するし、周りの被害を最小限に抑えようと頑張らないから、強いし怖いのだ。
すっ転んでいる白雪を無視し、珊瑚は棘紅郎を呼ぶ。
「棘紅郎…ブツブツ…来て…ブツブツ…ああ、私の言う事なんかどうでもいいか…ブツブツ…」
「行くよっ!何故決め付けるんだよっ!!」
棘紅郎は珊瑚の手のひらに乗る。
「ラフレシアン…01…」
棘紅郎はトランスフォームし、モーニングスターになった。
「ほう。それがラフレシアンの武器か?」
デジベルは笑いながら、フキョーワオンのお腹辺りにあったダイヤルを回す。するとフキョーワオンの発する音が大きくなった。
――カ・エ・レ・!!カ・エ・レ・!!サッサトカエレー!!
布団叩きをバンバン叩く。珊瑚の鼓膜を破る勢いだった。
「…ブツブツ…うるさいわ…ああ、私が暗いから尚更うるさく感じるのか…ブツブツ…」
珊瑚はモーニングスターをフキョーワオンのボディスピーカー部分にぶち当てた。
フキョーワオンのスピーカー部分が砕け散る。
「なんと!!なかなかの破壊力!!」
デジベルは焦ってフキョーワオンから飛び降りた。
「逃がしませんの!ラフレシアンン!01!!」
不動王はノソノソと欠伸をしながらやってきたので、口をアガッと開ける手間が省け、短時間でビームキャノンにトランスフォームできた。
白雪はビームキャノンを発射する!!
「うおおお!これはマズイ!!って?」
一瞬腕を上げてガードしたデシベルだが、そのビームキャノンはデシベルやフ キョーワオンに当たらずに全て他に流れて行った!
校庭の備品が次々破壊され、その一発が珊瑚に命中してしまった!!
「ああっ……!!」
珊瑚は倒れてしまった!!白雪のビームキャノンはノーコンだが、破壊力は最強!!これは少し心配な状況だろう!!
「グレートバリアリーフっ!!よくもグレートバリアリーフを!!きゃん!!」
助けに駆け出した白雪は再びすっ転んだ。正直白雪の事は何とも思わないが、珊瑚のダメージは心配だった。
「ちょっとやべーな…」
「行くのら!!」
「仕方ありませんねー…」
桜花達はラフレシアンに変身し、校庭に駆け付けた。
「待てやクズ!!」
デシベルとフキョーワオンの前に立ち、珊瑚を庇う桜花達。
「貴様等もラフレシアンか?」
「外に何に見えるんだクズ。ぶっ飛ばしてやっからそこで大人しくしてな!!」
デシベルはゆっくりと桜花達を見回す。前に立ち塞がっているのは噂に聞いたピンク。あの赤いのはクロスボウと言いながらマシンガンのように弾丸をぶっ放す奴だったな…そして…
「レイニーシーズン…裏切ったらしいな!!」
鋭い眼光を梅雨に向けるデシベル。軽やかに、ナチュラルに目を逸らして白雪に駆け寄る梅雨。
「ホワイトスノーブリザード、大丈夫ですか?」
ズルズルと、梅雨を引き摺ってデシベルの死角まで移動する。裏切った報復を恐れて顔を見せられないようだが、既に見られていて無意味だった。
「レイニーシーズン!!そのままホワイトスノーブリザードを羽交い締めにしとけ!!」
丁度いいから足手纏い二人纏めて隔離する事にした桜花。梅雨は言われた通りに白雪を羽交い締めにした。
「何を遊んでるですの!離しなさいですの!」
「皆さんが危険にさらされますわ!大人しくしていなさい!」
ズルズルと建物の陰に白雪を引き摺る梅雨。よし、これで完全に戦闘から離脱できた。裏切りの報復を恐れる事も無い。
「よし、邪魔者はいなくなったぜ。かかってこいやクズ!!」
「チェリーブロッサムはあの似非ミュージシャンを頼むのら~…たまには派手に壊したいのら~…クスクスクス…」
桜花がデジベルに、紅葉がフキョーワオンに立ちはだかった。
「ま、待って二人共…」
その時珊瑚がヨロヨロと立ち上がって二人を止めた。
「オメー大丈夫かよ?」
「寝てた方がいいのら?」
一応気遣いを見せる桜花達。だが…
「ここは私に任せて…足手纏い…ブツブツ…ホワイトスノーブリザードやレイニーシーズンより足手纏いなら身を退くけど…ブツブツ…」
桜花と紅葉は顔を突き合わせて仰天した。
いつも自分を卑下する珊瑚が、白雪と梅雨を足手纏いと言ったのだ!!
唖然としている桜花達を余所に珍しく許可を得る前に出る珊瑚。本当に珍しかった。槍でも降るんじゃねーか?と心配になるレベルだ。
「…ッ…いくわよ棘紅郎……」
珊瑚はフキョーワオンにモーニングスターをぶち込んだ。フルスイングでだ。
――カエレェ!!カエレェ!!サッサトカェ~~~~~~~~!!
ドガアアアン!!と、派手な爆発を起こしてぶっ壊れたフキョーワオン。
「なに?フキョーワオンを一発で!?」
驚愕するデジベル。その隙にデジベルにモーニングスターを打ち込んだ珊瑚。
「おっと!!」
躱して更に驚愕する。あのモーニングスターをああも見事に使いこなすとは。二撃目までのタイムラグが殆どなかった…!!
襟を正して珊瑚を真っ直ぐに見た。この戦士に油断はできぬ。一瞬たりとも。
「よかろうグレートバリアリーフ。このデジベル自らお相手致そう!!」
デジベルはエレキギターを出した。
「死ねラフレシアン!!」
デジベルはエレキギターをめちゃめちゃに弾いた。更にジャイアンばりに音痴丸出しの歌も歌う。
「うるせー!!ヒデェ歌声だー!!」
「ギターもただジャガジャカやってるだけなのらー!!」
桜花と紅葉は耳を塞いだ。珊瑚は顔をしかめて立っている。
「不快だわ…ブツブツ…私以上に生きてる価値無い人…ブツブツ…二人目よ…ブツブツ…」
その時、珊瑚の不快に応えるように、モーニングスターが2メートルに巨大化した!!
「な、何!?」
三度の驚愕!!しかし珊瑚は実にラフレシアンらしく、敵の心情などお構いなしにモーニングスターを振るう。
「えい…」
2メートルに倍加したモーニングスターはデジベルに簡単にヒットした!!
「うごおおおおおおおおおおおお!!?」
派手にふっ飛ぶデジベル!!
しかし最悪は避けた。ギターを楯にしたおかげで致命傷を防いだのだ。
「私のレスポールがコナゴナに……!!」
実はデジベルは全然弾けないのに良いギターを持っていた。勿論ローンでの購入だ。ちなみにまだ払い終わっていない。
涙目になり珊瑚を睨み付けるデジベル。
「許さんぞグレートバリアリーフ…!!許さんからなあああああああ!!」
今度はマイクを取り出した。アカペラで歌うようだ。伝説の剛田武のようなリサイタルに珊瑚を招待するようだ。
「止めとけデジベル。今日はお前の負けだ。」
空間が歪み、一人の男が現れてデジベルのマイクを取り上げる。
「誰だ貴様はあぁ?ぁあああああああああ!?シ、シーペスト様!!」
速攻で跪くデジベル。ついでにガックンガックンと大きく震え出す。冷や汗も大量に掻いているようだった。
「なんだあいつは?」
「何者だろうと関係ないのら。カンキョハカーイは破壊するのら~」
シーペストは珊瑚を見て、続いて桜花達を見て笑う。
「んな怖い顔するなよ。今日はただ顔見せだけだ。俺はシーペスト…一応副王って肩書を与えられている」
ざざざざ!!とシーペストからかなりの間合いを取った桜花達!!
(なんだコイツ!?やべえ!!)
桜花は手に汗を握る。
(マズいのら!!三人がかりでもギリギリなのら!!)
紅葉がジリジリと下がる。
(この人…ブツブツ…私を殺すつもりかしら…ブツブツ…)
珊瑚の目の下の線が倍増した。
そんな桜花達に告げるシーペスト。
「安心しろラフレシアン。今日は顔見せだけだと言っただろう?デジベル。帰るぞ」
シーペストに促され、ゆっくり立ち上がったデジベル。そして珊瑚を真っ直ぐに見た。
「ラフレシアン グレートバリアリーフ…次は必ず倒す!!」
ふん、と鼻を鳴らすシーペスト。確かに強いようだが自分の敵ではないと。
「じゃーなラフレシアン。もっと強くなれ。じゃなきゃ、楽しめないからな」
そう言い残してシーペストとデジベルはテレポートして撤収した。
シーペストがいなくなってもまだ身体が動かない。初めてだった。恐怖に捕らわれたのは。
その空気を払うべく、桜花と紅葉が珊瑚を労う。
「…グレートバリアリーフ、お疲れさん」
「グレートバリアリーフ、楽勝だったのら」
「え、ええ…」
それに応える珊瑚だが、シーペストの出現により、ちっとも撃退した気分にはなれなかった。
城に撤収したシーペストとデジベル。早速ダイオキシンのいる謁見の間に行き、報告をする。
「も、申し訳ありませんダイオキシン様。ラフレシアンを仕留められませんでした……」
シーペストに止められたせいだが、それは言えない。幹部とは言え社蓄も同然。上のパワハラには黙って従うのだ!!
それにしても自分にはどんなお仕置きが待っているのだろう?とビクビクしていると。
【んん?まぁ良い。カステラうまかったからな】
ダイオキシンはお土産のカステラで心が大きくなっていた。カステラでお仕置きを逃れる事ができるとは…お土産をちゃんと買ってきた自分にグッジョブと言いたい。
「俺の分は残してるだろうな?」
シーペストの問いに押し黙るダイオキシン。
「おいダイオキシン…俺の分は?」
シーペストの闘気が膨れ上がる。
丈夫なコンクリート製の壁に亀裂が走った!!
自分が買ってきたお土産でこの二人が戦う事になるのか!?気を効かせてお土産を買った自分を責めたい気分だった!!
尚も黙るダイオキシンに痺れを切らせたシーペスト。遂にマジキレし出した。
「ぶざけんなよダイオキシン!!テメェ今ここで俺とやるか!!」
遂に殺気まで孕み出す。さすがにダイオキシンもこれにはムッとした。
【貴様…!!ナンバー2の分際で総王の余に何と言う言い草よ!!】
慌てて間に入ったデジベル。巻き添えを喰らえばこの身が吹き飛ぶ。
冷静になれば逃げ出すのが吉だったが、この時はカステラを買った自分に非があると思ってしまい、つい使命感で割って入ったのだ。カステラを購入した心遣いは美しいものだった筈だが、どうしてこうなった?
ダイオキシンとシーペストのマジ喧嘩を必死で止めるデジベル。ちなみに他の幹部と戦闘員は既にこの場にはいない。この二人が本気でやり合えば幌幌町どころか地球が危うい。
「無能な総王サマよ、独り占めなんてみみっちい真似して恥ずかしいとは思わないのかよ?」
【貴様こそ、ナンバー2ならば総王たる余に譲らねばとか思わぬのか?貴様みたいな無礼者にナンバー2の座をくれた上役の顔が見たいわ!!】
「お前だろうが!!俺を副王に指名したのはよ!!後でじっくり鏡を見ろよ!!」
低レベル過ぎた。特に総王が。デジベルは胃がきりきりと痛んだ。これでストレス胃炎とかになったら労災扱いにしてくれるのだろうか?
「わ、解りました!!今度二人分持って参ります!!そんなにお気に召して貰えるとは至極光栄にございますから!!」
「お?そうか?そう言う事なら…」
【うむ。貴様の忠誠心、実に見事!!久々に余は心を打たれたわ!!】
結局デジベルが再びお二人にカステラを届ける事で、その場は治まった。
上が馬鹿だと下が苦労するのはどこも一緒のようだった。
と、言うかカステラでマジ喧嘩に発展しそうになるアホ共の下に居る自分を呪いたかったが口には出せない。
出した瞬間、消えるからだ。物理的に。
【何ならば今から戻って買ってきても良いのだぞ?】
デジベルは乾いた笑いを漏らす。
「そ、それ程までに御所望ならば…」
結局、到着したばかりで敵と一戦交えてカステラを買いに新幹線で戻る羽目になったデジベル。
本気で退職しようか、駅弁を食べながら考えてしまった…
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