青いネガティブ!!

 とある放課後、桜花は体育館裏に呼び出され、告白されていた。

「ごめんなさい…青木君は私に勿体無いわ。もっと素敵な人がいるはずよ」

 と、辺り障り無く振っていたが、腹の中は、

(うぜーな青木ぃ!!テメェみたいなくせーツラの男は一生彼女なんか出来ねーよカス!!テメェ程度が私に告るとか何様のつもりだ!!身の程知らずが!!)

 と、自分に好意を持ってくれた異性に対して悪態を突いていた。

 そんな訳で時間を無駄に過ごした感を覚えた桜花だったが、その時ふと体育館を見た。

「新体操部が練習しているのね…」

 桜花は運動神経抜群で、かなりのスタイルを所持していたので、新体操部にスカウトされた事があった。

 しかし、面倒くせーと言う理由で断った事があるのだ。そして、断った理由がもう一つ…

「あれが新体操部のエースで運動部のアイドル……」

 桜花は青いレオタードに身を包み、練習に明け暮れている女をガン見していた。

 その女の子は、桜花より少し背が高く、ポニーテールの良く似合う、スレンダーで美人系…

 運動部のアイドル、来栖川珊瑚くるすかわさんご

 顔では勝っているが、新体操『だけ』は劣っていると思った桜花は、入部を断ったのだ。

「ま、汗くせー青春ゴッコにはキョーミねーしな」

 桜花はそれ以上の興味を示さず、体育館を後にした。

 丁度その時、新体操部から聞こえていた音楽が止まる。どうやら今日は終わりのようだ。

「ふう、今日はここまでにしましょうか」

 珊瑚は汗を腕で拭おうとすると、後輩達がタオルをこぞって持って来る。

「来栖川先輩!!私のタオルを使って下さい!!」

「いや、私のを!!」

「何言ってんのよ!!珊瑚先輩は私のタオルを使うのよっ!!」

 群がる後輩を優しく微笑んで見る珊瑚。

「ありがとうみんな。全部使わせてもらうから」

 珊瑚は後輩達のタオルを全て受け取った。そして後輩全員にキラキラした笑顔を見せた。

 その笑顔を見た後輩たちは卒倒する。

 珊瑚は異性から人気があり、後輩からも慕われている。まさに非の打ちどころの無い運動部のアイドルなのだ!!

「みんなありがとう!!じゃ、ちょっとシャワー浴びてくるから!!」

 珊瑚は爽やかな笑顔をしながら体育館を後にした。

「はぁぁぁ~……来栖川先輩素敵ぃ~……」

「いつも前向きでひた向きよね~」

 後輩達は羨望の眼差しを珊瑚の背中に向けてウットリしていた。

「ふ~ん、来栖川ってのはそんなに人格者なのか」

 後輩達は背後から聞こえてくる質問に、振り向きもぜずに答える。

「来栖川先輩は怪我とかしても『身体を休めなさいって神様が言ってるのね』とか言って前向きなのよ。凄いでしょ?」

「ふ~ん、随分慕われているようだな」

「珊瑚先輩はいっつも優しくて、よく私達の相談にも乗ってくれるのよ~!!」

「ふ~ん、それじゃ男にもかなりモテるんじゃない?」

「珊瑚先輩は綺麗だし、ナイスプロポーションだし、運動部のアイドルだからね~って、誰かいるの!?」

 一斉に後ろを振り返る後輩達。だが、そこには誰も居なかった…

 

 シャワワワワ~とシャワー室で汗を洗い流している珊瑚。それはグラビアなどで見慣れているシャワーの浴び方…では無く、体育座りで壁に向かって頭にシャワーをかけている姿だった。

「…みんな私なんかに…ブツブツ…タオルなんて素敵すぎる物を渡してくれて…ブツブツ…私みたいな腐った豚は…ブツブツ…藁や雑巾で身体を拭くのがお似合いだって言うのに…ブツブツ…」

 お湯を頭からバッシャバッシャと浴びて、珊瑚がブツブツと自分を卑下している。

「そりゃ、私なんかに期待してくれている学校も大変大変大変大変ありがたいよ…だけど、私みたいな腐った豚…ううん、腐った豚に申し訳ないわ…」

 珊瑚の目の下に線がたくさん付いていた。ズーンとした空気が、シャワー室から溢れ出る。

「私みたいな汚物に告白してくれる男の子も多いけど…相当なボランティア精神か、相当なマニアなんだわ…ううん、私なんかと同列に例えられた汚物に申し訳ないわ…」

 自信たっぷり、常に前向きに振る舞っている珊瑚。しかし、その実態は、超ネガティブでコンプレックスの塊!!

 これが来栖川 珊瑚の真の姿だったのだ!!

「おいおい、話と大分違うなぁ?ラフレシアンなんて務まるのかよ…」

 不意に聞こえてきた声に一瞬焦るも、瞬間『いつもの珊瑚』に戻り、立ち上がる。

「誰かな?石鹸ある?貸してあげるよ」

 珊瑚はズーンとした空気を一瞬にぶち壊し、爽やかな空気を作り出した。

「ある意味すげぇなお前……どんだけ自分を偽れるんだよ?」

 珊瑚の足元から声が聞こえた。

「誰!?っっ痛っ!!」

 珊瑚は足に何か棘が刺さった痛みを感じた。

「あ~すまんすまん、刺っちゃったか……」

 珊瑚の足元にいたのは、ドッチボールほどの大きさの赤い棘の塊だった。

「な、何このボール?」

 その球体は、一気に広がり、球体から星形となって憤る。

「ボールじゃねぇよっ!!俺はオニヒトデの棘紅郎しんくろう!!ラフレシアンの従者だっ!!」

 球体の物体は、デカいオニヒトデが丸まっている姿だったのだ!!

「ラフレシアン?従者?私は確かに珊瑚と言う名前だけど、流石にヒトデには食べられないよ…」

 珊瑚は突如出現したオニヒトデを、軽い幻覚症状だと判断して目眩を覚えた。

「まぁ、俺の存在を受け入れられないのは理解するよ。この前ピンク色の女の子が機害獣…変なロボットみたいなもの倒したのは知ってるな?」

 棘紅郎は触手を器用に伸ばしたり曲げたりしながら、文字通り身振り手振りで説明をした。

「ピンク色の女の子って言われても…見てないから…解るのは、ものスッゴい臭い匂いが発生した事かな…」

「ものスッゴい臭い匂いはとりあえず置いといて、それがラフレシアンだ。つまり、お前は『カンキョハカーイ』を倒すべく、伝説の戦士ラフレシアンに選ばれたのだ!!」

 選ばれたと言われても、はいそーですか、とは言わない。と言うか常識的に言う筈も無い。

 と言うかこれは幻覚なのだ。幻覚なら『いつもの珊瑚』を演じる必要もない。

 よって珊瑚は棘紅郎に『本当の自分』を遠慮なく見せつけた。

「私にはあの匂いがお似合いだって事ね…ブツブツ…確かに人智を超越した匂いだったわ…ブツブツ…私にあの匂いを出してそのおかしなメカ?ロボット?に殺されろと言うのね…ブツブツ…確かに私にお似合いな最後ね…ブツブツ…ただ死ねじゃなく、臭い匂いを発しながら死ね…か…ブツブツ…」

 珊瑚はネガティブゾーンに突入した。それは思いの外重く、苦しい…聞いている棘紅郎の方が。

「ち、ちょっと待ってくれ。俺は死ねとは言っていない。戦ってくれとお願いしているんだ。いや、確かにピンクのラフレシアンは臭かったけども!!」

「そうか…戦って死んで屍をみんなに晒せ、と言っているのね…ブツブツ…その屍の写メを撮って貰って全世界に拡散させろ、と言っているのかしら…ブツブツ…確かに私は屍の方が映えるかもね…ブツブツ…こんな私でも屍なら輝けるのかな…ブツブツ…いえ、私ごときに屍なんて勿体ないわ…」

 屍以下の存在とは一体どういう存在なのか?突っ込みたかったが棘紅郎の精神の方がだんだんと弱って来ていてそれどころではない。

「あ、あの…ちゃんと話を聞いて欲しいんだが…」

 それでも己の使命の為に奮い立つ棘紅郎。ラフレシアンを捜す事が自分に課せられた使命なのだから。

「いいか珊瑚、本当は細かく順を追って説明したいんだが、今はそんな暇がない。カンキョハカーイの機害獣がこっちに向かってきてるんだ。地球を、みんなを守れるのはお前しかいないんだ。だから受け取ってくれ。この変身携帯を!!」

 器用に触手を伸ばしてブルーの携帯を渡そうとする棘紅郎。

「…ブツブツ…私の命なんかどうでもいいから地球とみんなを救え、と言うのね…ブツブツ…そうか…最後くらい役に立てって事か…ブツブツ…確かに私は死んだ方がいい存在…ブツブツ…ミジンコほどの価値も無い女だもんね…ブツブツ…いけない、私ごときと比べられたらミジンコに申し訳ないわ…ブツブツ…お父さん、お母さん、こんな私を産んでくれて…ブツブツ…恨みます…世界のみんな、産まれてきてごめんなさい…ブツブツ…」

「俺が悪かったああああああっ!!」

 遂に棘紅郎の心が折れた。

「悪いのは私の方…ブツブツ…だってこの世に間違って存在してしまったんだもの…ブツブツ…もう一思いに殺して…ブツブツ…ああ、煩わせちゃってごめんなさい…自分で命を絶てば済む話だったわ…」

「もうやめてくれええええええっ!!」

 棘紅郎が身悶える。その時!!

 チュイイイイン!!ガリガリガリガリガリガリガリガリ!!

 珊瑚が入っているシャワー室がバカデカいチェンソーによって真っ二つにされた。

「きゃあ!!な、何!?何があったの!?」

 珊瑚はすっ裸でうずくまった。幸いだった事に他の生徒は既に逃げ出し、珊瑚の裸は誰の目にも触れる事は無かった。

「良かった…私なんかの醜悪な身体を見られなくて…ブツブツ…もし見てしまったら、見た人がどれだけ不快になるか…ブツブツ…そうなったら屋上から飛び降りてお詫びするしか…ブツブツ…いえ、どうせならお詫びの前払いという事で今から屋上に行って…」

「来た来た来た来た!!カンキョハカーイの機害獣だ!!珊瑚、本気でブツブツ言っている暇は無くなったぞ!!さあ、これを!!」

 棘紅郎は珊瑚に触手を精一杯伸ばして変身携帯を渡そうとする。

「でも私はこれから屋上に…」

 珊瑚が躊躇しているその時。

「待て待てぇぇえええええええい!!」

 逃げ出して、誰もいないシャワー室に駆け付ける、一人の美少女が目に入った。

「し、神宮寺さん…?」

 駆け付けたのは、頭脳明晰、容姿端麗、幌幌高校のヒロイン…神宮寺 桜花だった。

 桜花は珊瑚がいる事を全く知らずに、イキイキと雷太夫に素の状態で質問する。

「おいツチノコ!!あれ金になるのか!!」

 雷太夫は呆れながら首を捻る。

「金、金、金って…グエッ!!」

 雷太夫は桜花に踏みつけられた。

「おいツチノコぉ!!私のこの世で一番嫌いなのはタダ働きなんだよ!!」

「も、もちろん出るはずだ~…だ、だけどカンキョハカーイ全てを地球から追い出してから、だからな?」

 桜花はニヤリとし、変身携帯を頭上に掲げた。

「成功報酬ってヤツだろ!!上等だ!!チェンジイィィ!!ラフレシアァンンン!!」

 眩い光が桜花を包み込み、桜花はラフレシアンに変身する。

「咲き誇る桜…目にも艶やか心も豊か…だけど!!湧いて出て来る毛虫が不快ぃ~…美少女戦士!!ラフレシアンチェリーブロッサム!!」

 例のキメポーズをした桜花。珊瑚は、何かに憑りつかれたように桜花に近付いて行った。

「神宮寺さんがラフレシアンだったの!?」

 ビクゥ!!と仰け反った桜花。そしてそ~っと振り向く。

「げ!!来栖川 珊瑚!?逃げ遅れた奴がいたのかよ!!つか、見られた!!見られたあああ!!」

 桜花はムンクの叫びのようになる。見られたというのならすっ裸の珊瑚の事も気にかけて欲しい所だが、桜花は他人の心情なんか知った事では無い。

 運動部のアイドルに猛烈な匂いを発生させるヒロインとバレてしまった方が重要だからだ。

「貴様がラフレシアンか!!これを見よ!!」

 機害獣シンリンバッサイの頭部に乗っかりながら、シーオーツーは桜花、ラフレシアンチェリーブロッサムに二つの栓を見せる。

「この鼻栓を装備する事により、貴様の極悪な悪臭は封じた!!ハァッハ「うるせーヒョロ男!!こっちはそれどころじゃねーんだよ!!黙っとけやクズが!!」」

 怒鳴られたシーオーツーは桜花の尋常じゃない迫力に固まってしまった。

(な、何だこの女は?凄い迫力じゃないか…)と、脂汗を流す始末だった。

 桜花はそんなシーオーツーの事よりも、ライバル(一方的に決め付けている)にラフレシアンだとバレた事でパニックになっていた。

 どうしよう?どう誤魔化す?そればかりが脳内を駆け巡る。

「落ち着け桜花。多分こいつは大丈夫だ…グエェェッ!?」

 桜花は雷太夫を思いっ切り踏みつけた。

「適当な事言ってんじゃないよツチノコ!!私が臭い匂いを放っているイタいコスの女だって広まったら事件なんだよ!!」

 桜花と雷太夫のやり取りを見ていた珊瑚はおもむろに立ち上がり、変身携帯を受け取る為に手を伸ばす。

「…棘紅郎…私やるよ…『あの』幌高のアイドルが身体を張って戦っているんだもん…」

 実は珊瑚は桜花をリスペクトしていた。

 幌幌高校のアイドルとして自信たっぷりな桜花に憧れがあったのだ。

 そしてもう一つの決意。いや、こっちが本命だ。

 戦い続けていれば、死ねる…!!

 珊瑚は死ぬために戦う事を決意した。

 決意の理由がそんなネガティブな理由とはつゆ知らず、棘苦労は大変喜んで変身携帯を渡した。

 受け取るや否や、珊瑚は真ん中のボタンを押して叫ぶ。いや、呟く。

「チェンジ…ラフレシアン」

 眩い光が珊瑚を包み込んだ。それは桜花が変身した時と全く同じ状況だった。

「え?ラフレシアン??え?えーっ!?」

 桜花は何が何だか解らず、キョロキョロしている。

「それがお前のラフレシアンか」

 雷太夫はほくそ笑む。桜花が多少キョドった事が愉快だったからだ。日頃から虐待を受けていた身だ。それくらいは大目に見て欲しい。

「ようやく見つけたと思ったが、ちょっと性格に難有りでな」

 げんなりしている棘紅郎を見て察した雷太夫。自分と同じ苦労をしたに違いない。そしてこれからも苦労するに違いない。

「……解る…解るぞ棘紅郎!!」

「お…お前も俺と同じ…?」

 雷太夫と棘紅郎は抱き合って号泣した。

 そうこうしている間に眩い光から姿を表した珊瑚。

「ラフレシアンが二人だと!」

 シーオーツーは驚愕した。女王の力を持つ戦士が多数存在する事は事前に聞いていたが、この数日の間に二人目が現れるとは思ってもいなかったからだ。

 珊瑚は、ブルーの変身ヒロインみたいなコスプレをしていた。

 桜花の戦闘服よりフリルは少なめだが、おへそが見える。布面積は珊瑚の方が少ない。そして桜花と同じ、動いただけでもパンツが見えるであろうスカート丈。靴はローファーというよりもスニーカーみたいだった。

 そしてやはりというか当然ながらというか、桜花と同じように、デッカい花が頭部に咲いている。違いは色だけだ。桜花の花はピンクだが、珊瑚の花は青い。

 珊瑚は右手を頭上に上げ、左手を腰に起き、ターンをした。

「青い海…気分爽快、開放感万歳…だけど、プカプカ浮いてるクラゲが不快…美少女戦士、ラフレシアン グレートバリアリーフ!!」

 腰に当てた左手を右の頬に当て、中腰になり、右手を後ろにピンと伸ばした。これが珊瑚の、グレートバリアリーフのキメポーズなのだ!!

「来栖川 珊瑚もラフレシアンだと!?おいツチノコ!!と、そこのドッチボール!!どーゆー事だよ!?」

 桜花は雷太夫と棘紅郎を踏みつけた。

 棘紅郎は愕然とした。初対面なのにこんな仕打ちを受けるのか!?と。

「ええい!!こうなったら二人まとめて!!」

 シーオーツーは機害獣、シンリンバッサイにラフレシアンを倒すように命じる。

――シンリンバッサイィィィィィィィ!!

 シンリンバッサイは全体がチェンソーで、申し訳程度の脚が対で合計6本付いている。そのチェンソーでラフレシアン達を襲う。見た感じはただ突っ込んで行っているだけだったが。

「はっ!!」

「……!!」

 流石新体操部のエース、珊瑚は余裕で軽やかに躱したが、桜花はチェンソー相手に真剣白羽取りをして、巴投げを喰らわす。

――シンリンバッサイィィ……

 シンリンバッサイは巴投げで簡単に投げ飛ばされ、その巨大な身体でシャワー室を潰した。

 好機と見た棘紅郎。珊瑚にトドメの指示を出す。

「今だ、グレートバリアリーフ!!携帯の0と1のボタンを押すんだ!!」

「ボタンを押すのね…ブツブツ…押して自爆し、ロボットと相打ちしろと言うのね…ブツブツ…私みたいな生きている価値が無い女なんか自爆が関の山って事ね…ブツブツ…」

 珊瑚はネガティブゾーンに突入した。桜花と雷太夫は顔を見合わせて目を剥く。

「お、おい?あれは一体?」

「どうやら超マイナス思考のようだな…」

 雷太夫は勿論、桜花も驚いた。いつもニコニコ爽やかな運動部のアイドル…前向きで面倒見が良い新体操部のエースが、超ネガティブ人間だったとは!!

「自爆なんかしない!!早く押せ!!」

 珊瑚はブツブツ言いながら、言われた通り0と1を押す。

 珊瑚の頭部の花から発生している臭いが倍化する!!

「ふはは!!悪臭は通用しないぞ!!」

 鼻栓で完全防備しているシーオーツーは余裕だ。だが、この技は匂いではない。

 棘紅郎が巨大化し、丸まり、棘が強固となり、鎖が生えて来た。

「これがラフレシアン グレートバリアリーフの武器!!モーニングスター!!」

 直径50センチに巨大化した棘紅郎は誇らしげに言う。

 ラフレシアンの必殺技とは、従者が武器にトランスフォームする事だった!!

 シーオーツーは青ざめた。だが、桜花は少し興奮気味だった。

「おい!!お前も武器になんのかよ!?」

 雷太夫にキラキラした瞳を向ける。自分もあんな武器が欲しいのだ。

「必殺技だからな」

 ドヤ顔の雷太夫。その言葉を聞いて益々桜花の瞳が輝く。

 私にも必殺技をくれ。そう言おうとしたその時!!

「うわああああああああ!!」

 珊瑚の気合の大声と共にモーニングスターがシンリンバッサイを直撃した!!

――シンリンバッサイィィィィ!!??

 木端微塵になったシンリンバッサイ。そして跡形もなく消滅した!!

「ば、バカな!?くっ!!」

 シーオーツーは一気に不利になりそうだったのでテレポートし、逃げ出した。

「珊瑚!!勝ったぞ珊瑚!!」

 トランスフォームを解いた棘紅郎はそのまま珊瑚に近寄ってジャンプし、喜びを露わにした。

「勝った?…ブツブツ…まぐれかな…ブツブツ…でもまた来るんでしょ…ブツブツ…その時また自爆を強要されるんだわ…ブツブツ…」

 桜花は勝ってもこんなにズーン、とするなら、負けたらどうなっちまうんだ?と考えたが、想像するだけで自分も堕ちそうだったので考えるのをやめた。

 

 一方、城に逃げ帰ったシーオーツーは、ダイオキシンにより失敗のお仕置き、三角木馬の刑に処されていた。

「ダイオキシン様…!!股が超痛いです!!」

 半泣きしているシーオーツーを一瞥し、ヘドロがダイオキシンに跪いた。

「ダイオキシン様、所詮小娘!!圧倒的パワーの前には無力でしょう!!」

【よかろう!!行けヘドロ!!失敗は許さんぞ!!また貴重な機害獣を壊して使い物にさせるなよ!!】

 ヘドロはニヤリと笑う。

「武器を持とうが線の細い小娘…頑丈なボディには通用しますまい!!」

 そしてシーオーツーを薄ら笑いの目で見る。

「シーオーツーよ!!貴様の仇は俺が討ってやるわ!!そして手柄(ダイオキシン様を帰す事)は俺が貰う!!ガハハハハハハ!!」

 ヘドロは愉快そうに去って行った。

 シーオーツーは

 頑丈ならシンリンバッサイも充分頑丈なんだがなぁ……

 とか思ったが、失敗しやがれとか思い、黙って見送った。

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