思ってもみない奇跡(3)
「――え? まさか……うそだろう!?」
《政都庁舎》の役人アンディーさんにスコッティオさんからの手紙を渡し事情を話すと、役所中の皆が『とても信じられない』って表情で、このわたしを見つめていた。
「本当ですよ。ケイリング・メルキメデス様ともわたし、もうお会いしたんですから♪
それでは役人の皆様、これにて失礼させて頂きます。ご機嫌よぅ~」
わたしは澄まし顔で礼儀正しくそう言うと、そのまま役所を出て行く。役人の人たちはそれでも『信じられない』って顔を互いに見せ会い互いに手紙の内容を確認し合い、そんなわたしのコトを呆然と見送っていた。
わたしはカジムさんと共に、馬車の中へと乗り込み。そのあとで遅れ吹き出し、思いっきりお腹を抱え笑ってしまう。役所の中にまで一緒に同行してくれていたカジムさんもそんなわたしを見て、呆れながらだったけど一緒に吹き出し大いに笑ってくれた。
なんだか、とても清々しちゃった♪
次に孤児院に馬車で向かい止ると、わたしは笑顔で急ぎ降りて、中へと入った。マーサはいきなり元気良く入って来るわたしの姿を見るなり、とても驚いた表情を見せている。
「メル……一体その姿は、どうしたんだね?」
わたしは、メルキメデス家が貸してくれた上等の服を着ていたのだ。ここを旅立つ時の服はもうボロボロだったし、スコッティオさんが出かける時に、
『例えメイドとはいえ、メルキメデス家に縁のある者として。最低限の服装はする必要があります』
そう威厳ある相変わらずの言い方をしてきて。それからJ・Cが、わたしにこの服を用意して着替えも手伝ってくれた。それにしてもこの服装って、まるで貴族みたい。そんな格好だったから、マーサは凄く驚いていた、って訳。
「マーサ! わたし……わたしね!」
わたしはマーサに抱きついて、メルキメデス家で起こった全てのことを打ち明け話し、スコッティオさんからの手紙を手渡す。マーサは三度驚いた表情を見せたあとその大きな封筒を開け、中に入っていた書類に何度も目を通し直して、とても真剣な表情で慌ててサインをする。
「メル! これから祭司様たちにもなんとかお願いをして、必ずこれにサインを貰って来るから!!
……それからね、メル。おめでとう。これから大変なこともあるのかもしれないけれど。決して負けないで、がんばるのよ!」
「……」
わたしはマーサからのその言葉と笑顔を受け、ようやく何か……それまでどこか夢見心地でふわふわだった気持ちが変わり、不思議なほど実感として今を感じることが出来た。
「――うん! わたし、頑張るから!」
その翌日、わたしはマーサと別れ孤児院をあとにする。
この州都を旅立つ時にも見た緩やかな丘の上から見える同じ街並みを、この馬車の中から遠目に見つめ。わたしは今ある自分がまるで奇跡のようにすら思えている。
思ってもみない……想像すらしていなかった奇跡だと改めて感じていた。
そうして再び、あの森の中の宮殿 《パレス=フォレスト》が見えてきた。わたしの新たな生活は、この屋敷の中で始まるんだ!
それとこれは、あとで聞いた話なんだけど……シャリルは、ケイリング・メルキメデス様の
実はあの日のあの後、シャリルがケイリング様に直接お願いをして。わたしがここに残れるようなんとか出来ないか、って嘆願してくれたらしいんだけど。シャリル自体はそんなことなに一つ言わなかったから、わたしはこうなった経緯なんてまるで分からないまま数日間を過ごしていた。
だけどその話を、ケイリング様がわたしに密かに耳打ちし教えてくれたから、それで初めて知ることが出来たの。しかもあのスコッティオさんまで、同じ日に遅れて相談にやって来て、今回の件に発展したんだってさ。
シャリル……そしてスコッティオさん、本当にありがとう!
だけど、それらの話を聞いてからだと、あれは本当に奇跡だったのか偶然だったのかそれとも必然だったのか、わたしにはもうよく分からなくなってきた。
でもそれはそれとして、ヨシとしますか? 何しろこうしてわたしは、メルキメデス家のハウスメイドとして正式に雇われることに決まったんだからね。きっとこんなにも素晴らしいことはもう二度とない、そう思ったし。本当のことをいうと、今でも信じられないくらいなんだから。
その日の夜、わたしは就寝前に願かけの手紙を独り小さく呟きながら書いていた。
『あぁ神様……今まで正直なことをいうと、余りアナタのことをこれまで信じてなかったんだけど、今回ばかりは本当に感謝をします。今後はもう少し、信心深くなれるよう、努力だけは致します。
約束の方は……ンー、本当のことをいうと余り出来そうにないんだけど。でも、努力だけは致します。それでどうかこれからもずぅーっとこのわたしに、幸せのひと欠片を少しずつでも構いませんので、お恵みください。
あのシャリルと、いつまでも一緒に!
――メル・シャメールより、親愛なる神様へ――』
─ハウスメイド・メルの物語─
《ハウスメイド編 前編、完》つづく
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