4話 国盗り物語-終「家臣達の尊敬」

ワルキュラが立ったまま気絶している。そんな中、幼い吸血鬼の少女プラチナがウットリと……恍惚感とともに顔を赤らめていた。

真っ黒なドレス。十歳に見えるくらいに小さな背丈。病的なほどに真っ白い肌。赤い目のせいで性格が苛烈な感じな印象だ。

そんで幼児体型だからヒンニュー。つまり、洗濯板みたいな胸。


(麗しいワルキュラ様……また、あの方と出会えた……)


最終決戦のあの日。プレイヤーの水爆で一気に戦況が不利な方向へ覆り、プラチナは妹のルビーと一緒に、ワルキュラを守るために盾となって人生を終えた。

だが、その忠義に偉大なるお方は答えてくれたのだ。

消えたはずの蘇生魔法。それすら超越した圧倒的な力で蘇らせてくれた。

家臣、いや女としてこれほど幸せな事はない。

崇拝は理解から一番ほど遠い感情だと理解しているが、それでもワルキュラを崇拝せずに居られなかった。


「お姉ちゃん、お姉ちゃん」


隣にいる白いドレスを着た妹ルビーが呟いた。双子だから二人とも顔がそっくり。

ただし、ルビーの方は……胸に豊かなボインボインが実っている。男のロマンの塊【ロリ巨乳】属性の持ち主。

男は小さいオッパイより、大きなオッパイが好き。それ故にプラチナは劣等感を感じずに居られなかった。


「ちっ!」 勢いよく舌打ちしたプラチナ。


「お姉ちゃん……?僕の胸を見て嫉妬するのはやめてよ……」


「で?何か用なの?」


「あ、うん、あのね……ワルキュラ様が凄いよ……太陽光を完全に克服してる……」


「え……?」


プラチナは驚愕しながら、偉大なるワルキュラの姿を見つめる。

アンデッドの最大の天敵『太陽』。

それを全く問題としていない事がすぐに分かった。自分達みたいにステータスが超弱体化して腕がプルプル震えていたりもしない。

屹然と太陽光の元に、巨大な骸骨(ワルキュラ)は立っていた。つまりそれが意味する事は――


「しゅごい……ワルキュラ様は太陽光を克服。いえ、太陽そのものを屈服させたのだわ……」


「お姉ちゃん……それはさすがに言い過ぎだよ?

太陽が屈服するなんてありえるの?

めっちゃ大きいよね?」


ルビーの常識的な問いかけ。だが答えるものは居なかった。

代わりに、露出が多い赤いチャイナ服を着た褐色娘が馬鹿にした口調で


「ふん、プラチナとルビーは甘いかの?」


よく育ったダイナマイトボディが妖艶さを醸し出しているダークエルフ娘だ。

彼女は技術班の長ラーラ。流れるような銀髪と褐色の肌の組み合わせが絶妙で、どんな男でも短時間で陥落しかねない妖艶さ。

プラチナは自身の貧弱な幼児体型にコンプレックスを抱いているだけに、ラーラとは対立しやすい。


「ラーラ!私のどこが甘いのよ!」


「ワルキュラ様のステータスをまだ見とらんじゃろ?」


「ちゃんと見たわよ!

私は一日に百回くらいは確認しているわ!」


「そ、それは確認しすぎじゃろ!?少しは遠慮を覚えるべきじゃろ!?」


ラーラが怖いものを見たような目でドン引きした。

だが、プラチナは小さな胸を誇るかのように背を反らせ、小さな右手の矛先を口に当てて自慢する。


「私は総参謀長よ!一番偉いんだからワルキュラ様の事を毎日チェックする義務と権利があるの!」


「いや、お姉ちゃん。その理屈はおかしいんじゃないかな……?たまにワルキュラ様も迷惑そうにしてたし……。

それよりもワルキュラ様のステータスが全部0になっているよね?

これ、どういう事なのかな?」


困った感じのルビーが首を傾げて呟くと、今度はラーラが立派な胸を見せつけながら


「ルビーは胸は大きいが、まだまだじゃのう。

ステータスがすべて0。これが意味する事は――ワルキュラ様はステータスという概念すら超越した存在になったという証拠じゃよ。

だから、太陽も屈服したんじゃろうなぁ……。

今日から太陽もわっちらの同僚じゃ。だから、太陽。

わっちらに日光を当てるのは止めてくりゃんせ?わっちら味方じゃろ?

可愛いダークエルフを紹介するから、配慮して欲しいかの?」


ラーラは天空に輝く太陽をチラッと見た。うぉ、眩しい。

しかし、返答はない。どうやらただの核融合の産物のようだ。

相変わらず、闇に生きる者達を苦しめる太陽光線をザバザバ浴びせてくる。

ダークエルフはアンデッドと違って、ステータスが十分の一に弱体化という極端な被害は受けないが、体調が狂うと病気になって倒れる可能性が高くなるだけに辛い。


「ふん、わっちの魅力で落ちないとは……太陽はさすがじゃのう。

きっと、ワルキュラ様のいう事しか聞かない。そんな誇り高いやつなんじゃなっ……」


「太陽って生き物だっけ……?神話だと太陽神の後ろにポイポイ付いてくる可愛い奴……?あるぇ?」


ルビーはますます悩みが深まって、頭の中でモヤモヤとした気持ちになった。

常識人を名乗る彼女から見れば、未だにこの世は非常識だらけである。

動く骨とか、動く鎧とか、オッパイ揉みたがる上司(ワルキュラ)とか、どういう原理で動いているのかさっぱり分からない。


「しゅごいワルキュラ様……抱かれたい……子供を授かりたい……」


しかも、姉のプラチナが発情した顔でそんな寝言をほざいているのだ。

ワルキュラはリッチ。つまり魔法が使える人骨。

プラチナは吸血鬼。子供を作れるのは吸血鬼や人間などに限られる。

それ以前に性行為そのものが不可能なのに、姉の発言がこれ。

ルビーは頭が痛くなってきた。


「あ、あの、お姉ちゃん?

ワルキュラ様は骸骨(リッチ)だよ?チン●に骨ないんだよ?」


例えチンコに骨があったとしても、子種がドビュッと出ない。

出るのはプラチナの血液だけだ。


「ルビー。ワルキュラ様はステータスすら超越して、太陽を屈服させたお方よ?

新鮮なチン●の一本や二本。生やせて当たり前でしょ?」


「確かにチン●を生やす難易度低いと思うけど……あれ?僕が可笑しいの?

常識が壊れちゃうよぉ……」


「ルビーも抱いてもらうなら、チン●がたくさんあった方が良いでしょう?」


ルビーは可笑しな発言を連発するプラチナの紅い目を見つめた。とっても真面目ないつもの姉だった。

自分がおかしいのか、姉が可笑しいのか。ルビーにも分からなくなってきた。


(チン●がたくさんあっても……そもそも意味がないような……?

複数あっても一本しか入らないよね……?

お尻使っても2本しか入らないよ?

えと、口も使えば三本?いや頑張れば5本は大丈夫……あるぇ……?)


自分の常識が可笑しいの?

太陽さんって屈服するの?

実はチン●ってひょっとして別の何かを表す言葉なの?

つまり、ワルキュラ様って理解できない位にしゅごい存在になった、ということでいいの?

ルビーの妄想が、巨乳みたいに大きく広がっていく。そこへ――


「二人とも下品なのですよ~。公衆の面前で言ってはいけない単語なのです~。

少しは淑女としての嗜みを持つべきなのですよ~」


会話に加わらなかった金髪のエルフ娘アトリが朗らかに言った。

ルビーは顔を真っ赤にする。


(チン●って……よく考えたら恥ずかしい単語だよね……僕、死にたい……あぅ)


~~~~~~


この乙女達の会話を聞く一人の男がいた。

真っ黒な全身鎧に魂を憑依させたデュラハンのデュー。太陽光のせいで信じられないほど体が重く感じている。

だが、今はそんなことはどうでも良い。

一番重要なのはプラチナ達の会話で知った『新事実』だ。


(あの方は太陽すら征服したのか……きっと炎に耐性がある装備をつけて挑んだに違いない。

もしかしたら海を魔法で浮かせて盾にしたのか……?)


太陽は近づくだけで、神すらも焼いて消滅させると聞く。

神すらも超えた神。それが太陽なのだ。たぶん。

つまり自動的にワルキュラは、神の中の神すら超えた神ということになる。


(良い……それでこそ我が主だ……。

忠誠の示しがいがある……墓場でアンデッドにされた日以来の喜びっ……!)


飛び上がりそうなくらいに喜んだデュー。彼は、隣にいるスケルトンの長に話しかけた。


「聞いたか、デスキング?

あの方はとうとう太陽すら従わせたらしい」


「さすがは偉大なるお方。我々の想像の範囲外の事をやりなさる」


デスキングは尊敬する眼差しを、ワルキュラに向けた。いや、全身が骨で構成されたアンデッドだから、眼窩には目はない。

代わりにあるのは黒い闇。古ぼけた黒い軍服を着ているから、骨がほとんど隠れている。

それはナチスドイツの格好いい軍服に似ていた。


(あの方はさすがとしか言いようがない……)


最大の物量を誇るスケルトン大陸軍を率いる責任者として、デスキングはますます忠誠に値する存在になったワルキュラを崇拝せざる負えなかった。

今の偉大な主君の事を思うだけで……生前、デスキングが人間だった頃。

無能な主君に仕えた過去の自分の愚かしさを思い出す。

幾ら、戦場で活躍しても活躍しても、当時の主は自分の功績に嫉妬するばかり。

挙句の果てには、反乱の疑いをかけられ、一族郎党皆殺しにされた。

上司が無能であれば、部下が幾ら有能であろうと意味はない。

それを人間の一生をかけて悟ったのだ。


(私は幸せ者だ……ワルキュラ様に不死者として蘇らせてもらい、思う存分、活躍できる舞台を与えてくださる……。

武人として真に幸せなり)


デスキングの両隣にいる触手大魔王とデュラハンの長デューも、そんな似たような酷い過去を持っている。

生前は、救われなかった。だが、死んだ後にワルキュラが救ってくれた。

ノーライフ・オンライン。最後の最終決戦は、プレイヤーが『水爆使ってほとんどの階層を一気に消し飛ばす』という戦術の前に惨敗を帰した。

三人とも一瞬で蒸発したから、何が原因で死亡したのかすら知らないが、それだけに想像の翼が広がる。

地下城塞アカンドラですら容易く蹂躙する化け物相手に……ワルキュラ様は生き残り、家臣達の忠義に報いて復活させてくれた。そんなイメージが三人の脳裏を掠める。

過程はどうあれ、これが意味する事は一つ。

百八の世界を巻き込んだ最終決戦に、ワルキュラ様は勝利なされたのだ。

ああ、なんと偉大なる大魔王。

デスキングはワルキュラの事を尊敬し、生きた軍神として崇めるしかなかった。

戦史、いや歴史に残る偉業を、あの方と一緒にやれると思うだけで心が熱くなってモチベーションを維持できる。

デスキング、デュー、触手大魔王。

全員が大好きな主君のために叫んだ。


「今度は宇宙征服しましょう!陛下!

太陽殿を屈服させたのならば、色々な戦術が思いつきますなぁ!」元気に両手を振り上げ喜ぶ骸骨。


「太陽殿とはどのような激戦をやられたのですか!?

剣で倒せますか!陛下!」金属音を軋ませながら叫ぶ全身鎧。


「拙者と戦った時よりも、遥かに強くなって凄いでござる!

太陽殿はどんな美少女だったでござるか!?」と無数の触手をクネクネさせた。エッチィ生き物。



~~~~


ここで唐突だが……伝言ゲームを知っているだろうか?

人が人に情報を伝えていく内に、情報が変質しまくる遊びである。

それがこの場で起きていた。


「え?ワルキュラ様は太陽すら部下にした?」「じゃ、なんで太陽が俺らをいじめているんだ!?」

「太陽っ!俺らは味方だっ!虐め反対!」「夜になーれ!」


真っ白なスケルトンさん達。


「ワルキュラ様が太陽をボコボコにしたらしいでござる」「凄いでそうろう」

「太陽さんはどんな美少女でござるか?」「縞々パンツを履いているらしいどん」


ウネウネと触手をくねらせる巨大な触手さん達。


「聞いたか?ワルキュラ様が太陽と月と星を全員フルボッコにした話」「なにそれ怖い」


鎧をガシャガシャ軋ませて会話するデュラハンさん達


「宇宙船作って暗黒星雲って奴と喧嘩するらしいよ?」「スケールが大きいのぜ……」


透明なゴースト系アンデッドさん達。

当然、こんな伝言ゲームを繰り返せば情報は歪みまくってこうなる。


「宇宙制覇!」「宇宙制覇!」「宇宙制覇!」

「俺たちの物語の舞台は宇宙へ!」「星の海を征服せんっ!」


気づいたら、三十万に及ぶ大軍勢が意味不明な事を叫んでいた。

ひたすら太陽光の辛さを我慢しながら「「宇宙制覇」」の大連呼。

ワルキュラは皆の尊敬が篭った視線を砲弾の雨のように受けまくって


(お前ら……俺に何を期待しているんだ……?

わからん……二度も死んで頭がアホになったのか……?)


宇宙。時間が経過すればするほど、無数にある銀河(星の集団)と銀河の距離が物理的にどんどん離れまくって、最終的に交流がほぼ不可能になると推測されている超巨大空間である。

だって、基本的に宇宙はどんどん大きくなっていく仕様(21世紀の主流な学説)

それゆえに宇宙の内部にある星々も、移動を繰り返して物理的に距離がどんどん離れてしまうのだ。

そんで地球が存在した宇宙の大きさは


ざっと 半径 約465億光年 サイズの球。


一直線に光の速度で移動するだけで、465億年かかる上に、その間も宇宙は大きくなる。統治なんて不可能すぎた。


「「宇宙制覇!宇宙制覇!宇宙制覇!」」


(じょ、冗談で言ってるんだよな……お前ら?)


宇宙制覇なんてやっても、ワルキュラには利益がない。

いや、宇宙制覇どころか、今の自分の命すら危うい。

LV0。一撃でも攻撃を浴びれば死ぬ。そんな絶望的なステータス。

試しに魔法を使ってみたが、やはり使えなかった。

少なくともMP(マジックポイント)は完全にゼロ。

魔法使いなのに魔法が使えない。

今の自分は無能スペルキャスター。


(うわっ……俺の人生が、既に詰んでいるっ……?)


幸先が不安だった。家臣達を信頼したいが――弱くなった主君に仕えてくれるのだろうか?

自分のために、最終決戦で死んでくれた彼らに真実を言いたい。

だが、いじめ殺される可能性が発生する。そう思うと何も言えなかった。




こうして彼は『国取りをした自覚がないまま』セイルン王国の首都をゲットした。

一言も話さず、その場で黙って立っているだけで、勝手に相手が降伏。

ワルキュラは王を超越した王という事で『皇帝陛下』になった。


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この話のコメントまとめ+作者の感想

http://suliruku.futene.net/Z_saku_Syousetu/Tyouhen/Fusiou/c7.html

「クラスメイト丸ごと勇者召喚物で、悪役クラスメイトの存在は鉄板」

http://suliruku.blogspot.jp/2016/01/blog-post_89.html

【内政チート】☚「大航海時代に、船員を死なせまくった壊血病を予防して医療チート」16世紀

http://suliruku.blogspot.jp/2016/01/16_95.html





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ワルキュラ(´・ω・`)俺、一言も喋ってない・・・・?

これが勘違い系主人公の宿命なのか・・・・?



セイルン王(´・ω・`)わ、ワシの国が盗られたっ・・・

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