第24話 戦闘終結……早くねっ!?
「まぁ、何はともあれ、行くぞ、魔人!!」
上空から直下の敵本陣に向かい、急降下しながら叫ぶホーク。
落下してくるのを見ていた魔人が、周囲の護衛に下がるように言ったのだろう。
周りから取り巻きが離れていく。
しかし、時すでに遅し。
もうホークの攻撃半径にしっかりと入っている。
「今更、遅い!! 来い、『シルバー・レイン』ッッッ!!」
雨粒ほどの大きさの純粋な魔力の塊を、数万も自らの体の周囲に展開するホーク。
そして、ホークを囲むように飛び回っていた銀色に光る魔力の塊が、声に反応するように敵の魔人へと一気に襲い掛かる。
ひとつひとつは雨粒ほどの大きさの魔力の塊が、敵や地面に接地し、まばゆい閃光と共に小さな爆発を起こす。
それ一つずつはそれほど威力はないのだが、それが数万にも及ぶと、まるでナパーム爆弾でも落としたかのような攻撃力となる。
爆竹のようにパンパンと爆発していき、敵を蹴散らす。
味方の本陣からでも、爆発の閃光と衝撃が十分に感じられるくらいの威力であり、いきなりで動揺した味方も少なくない。
「わわっ、なんだこの魔法!?」
「俺も知らん」
「一体、誰が発動したんだッ!?」
「どうせ、マサルじゃない?」
ものすごい閃光と爆音の中、爆発から比較的近いところにいるコータたちは一応シールドを張りつつ、驚きながら言う。
ミツルだけはいつも通り冷静で、コータもマサルの反則級の強さを知っているからか、それほど驚いた様子ではなかった。
しかし、本陣ではその魔法の正体を暴いた人物達がいた。
「この魔法は…………」
「斉藤少将!! 前方に固有魔力波形感知!! タイプ、ドラゴンスレイヤー、
「わかった。 我らが隊長が敵の本陣に攻撃を仕掛けているぞ!! 我らが勝利に疑いなしッ!!」
「おおッ!!」
斉藤が遠くを見ていたところに、通信兵の部下から連絡が入る。
遊軍には、独自の技術で作られた魔導探索儀が配備されており、それによりどんな魔法が使われたかわかるようになっている。
それに加え、予め設定していた魔力波形(魔力波形とは、魔力を持つ者には必ずある個人の波形のことだ。DNAみたいなモノであり、同じ波形は二つと存在しない)を感知することもできるのだ。
そして、その報告を聞いた斉藤は、明るい顔になり、自らの軍を鼓舞する言葉を告げる。
「誰か、知ってる人が来たの?」
「ええ、私たちの軍の中で最強の人物が」
「心強いわねっ!!」
「はい」
斉藤たち遊軍の行動に疑問を抱いたカオリが小走りで近寄ってきて、斉藤に不審げに聞く。
カオリに気づいた斉藤は、自信たっぷりな顔で答え、返したカオリの言葉に微笑みながら頷く。
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「はぁっ!!」
「フン、手緩いわぁっ!!」
裂帛の気合いと共に手持ちの、サバイバルナイフを大きくしたような剣を上段で振りながら空から剣戟を放つ。
その剣戟を、魔人は自らの手に発生させた光り輝く剣で受け止める。
二人の周囲には、未だに『シルバー・レイン』が降り注いでおり、誰にも邪魔をさせないように周囲を囲っている。
「その剣、自らの魔力で形作られているな。 並みの
「人間と一緒にするな。 我は誇り高き上位魔人であるぞ。 この程度、造作もない」
「…………上位魔人かよ。 教えてくれてありがとよ」
「前回と違って、今回はわざわざ隠す必要もないのでな。 この世界の全てに侵攻するのだから」
「なんだと……!? それは、本当か!!」
「あぁ、本当だ。 もっとも、この場で死ぬ貴様には意味のない話だがな」
「クソッ!!」
探り探りで話を進めるホークに対し、すらすらと情報をしゃべる魔人。
しかし、話は終わりとばかりに、先ほどとは比べ物にならないくらいの速度で躍り込む。
剣戟を受けるホークだが、相手の力量が思ったよりも高く、防戦一方になり、なかなか攻撃を仕掛けられない。
「ははっ、どうした。 最初の勢いがなくなっているぞ」
「そういうアンタこそ、なかなか攻められてないじゃないか」
「ほざけ、人間がぁっ!!」
「くっ!!」
これまた先ほどよりも重くなった斬撃を受け止め、苦悶の声を出すホーク。
先ほどから、とんでもないスピードでの攻防が繰り広げられており、目で追える人間がどれだけいるだろうか。
(クソッたれが…………このままだと、ヤバいな。 本気を出さなきゃいけないかもしれんぞ)
剣戟を受け止めながら、ホークはそんなコトを考える。
前回の大戦で一番の強敵だった上位魔人だが、こちらはそれに対抗できるように力を高めてきたのだ。
上位魔人であろうと、本気を出したホークやマサルの敵ではない。
たとえ百人いようが、等しく死を与えられるだろう。
だが、どこで敵が見ているかわからないので、本気を出すのも躊躇われる。
もし、見られていたら、この先の戦いが不利に運ぶかもしれないし、強者により足止めをくらわされるかもしれないのだ。
『どうしようかなぁ、二人で倒すか? チャっチャと』
『それもそうだな。 時間かけると面倒だし』
『じゃあ、早く来いよ』
『おまえが馬鹿みたいに魔法ぶっ放すから近づけねぇんだよ!!』
『ははは、もっとデカい魔法で弾き飛ばして来い』
「面倒だなぁ!!」
コミュニケーションラインで連絡を取っていた二人だが、マサルの声が聞こえたと思ったら、突如頭上から魔力の奔流が迸る。
視界がホワイトアウトするほどの魔力が純粋な破壊の衝動が放たれる。
ホークは咄嗟に飛び退き、その破壊から逃れるためにシールドを張って、その奔流から逃れる。
なんとなく予測していたホークはなんとか防ぐことができたが、上位魔人は奇襲だったこともあり、自分が攻撃している動きを止められずに避けることができず、まともに食らってしまう。
「ぐ……ぁ……傷が……」
「なんだ、もう決着か」
「アブねーな!! 殺す気かっ!?」
「どうせ避けるんだからいいだろ?」
「反省の色が見えねぇな…………」
瀕死の傷を負った魔人の前で、マサルの魔法が原因で言い争いを始めるマサルとホークの二人。
呆れたような声を出したホークの前で、魔人が苦しそうに声を発する。
「上位魔人である我がこうも容易く人間ごときに敗れるとは……」
「仕方のないことだ。 俺ら二人はこの世界の最強の一角を占めているのだから、上位魔人ごときが敵うわけがないだろう?」
悔しそうな声の魔人相手に、ホークが傲然と告げる。
マサルも、事実なので否定はしなかったが、さっきの戦いでやっていることと言ってることが違うじゃないかと目を丸くする。
マサルもホークが手加減をしているのは気づいていた。
なんせ、自分と渡り合える唯一の人間が上位魔人ごときに苦戦するハズがないのだ。
しかし、何も言わないマサルをチラリと見てから、ホークは続ける。
「どうする? おまえはまだ生きている。 このまま、ここで朽ちるのを待つか、俺たちに情報を渡すか。 おまえに決めさせてやる」
寛大だろう?とでも言いたげな態度と声音で手を広げて青年魔人に提案するホーク。
そんなホークを、マサルは何を言ってるんだ、とでも言いたげな顔で見る。
どうせ、真実を話すわけがないのに。
「俺が真実ではないと判断したら、おまえの生命力を吸い取っていくからな。 誠実に、俺に真実だと思わせるように話せ」
マサルの思いとは裏腹に、青い顔をしながら、諦めたように頷いた魔人に対しホークがそう告げる。
生命力とは、全ての生物を衝き動かす、すべてのチカラの源である。
(それを吸い取るとは、エグイことするなぁ…………いつものコトだけどさ)
前回の大戦の時など、自分のチカラが弱くなったからといって、敵陣に突撃し、根こそぎ敵の生命力を奪い、戦場を亡骸だらけにしたりということもあった。
その中に、溢れる生命力で怪しく光りながら恍惚とした表情を浮かべるホークを思い出すだけでゾッとする。
元が、ミツルよりの美青年なだけあって、恐ろしく様になっているのだ。
「さぁ、早く情報を吐け。 どんな情報でもいい」
「…………では、まず、我の名から教えよう。 我の名は、シュツリエ・ユリウス。 魔将サーペンター様の配下だ」
「ふむ、システムがよくわからないな。 おまえらの中での序列を教えろ」
「いいだろう。 これは全ての魔族が知っていることだからな。 まず、一番上位に存在するのが、『我が君』魔王ヴァリウス・シュバート様であられる。 次列が魔界の各領地を治める
「なるほど、では、この世界にはどれほどの戦力が来ている?」
「そんなことを教えるとでも……グッ、ぉ、おのれ…………我の生命力を…………」
「聞かれたことにだけ答えろ。 他は喋るな」
質問を重ねるホークに、当然と言わんばかりに声を上げる魔人だったが、即時に生命力を吸い取られる。
さきほどよりもみるからに顔色が悪くなり、顔面蒼白になった魔人に、ホークは無慈悲にも蹴りを入れる。
しかも、傷口を狙って。
「ぐはっ……!! くっ、人間風情が……」
「おまえはその人間風情にすら勝てなかったんだよ、雑魚が」
「ユリウスだったか? しっかりと答えたほうがおまえの身のためだぞ。 コイツは良くも悪くも自分の言ったことを曲げないヤツだからな。 次はおまえの生命力を全て吸われるぞ」
傷口を蹴られ、悪態を吐く魔人ユリウスに、ホークは冷徹な声音で言う。
そんなホークとユリウスを等分に見てから、マサルがやけに実感の籠った声でユリウスに忠告する。
ホークがどんなときでも自らの言葉に逆らったところを見たことがないので、そう言ったのだが、ユリウスはさらに顔色を悪くして瞳に恐怖を映す。
「わ、わかった。 俺が知っていることは全て話そう」
「最初からそうしろよ。 雑魚が」
更に青ざめたユリウスに対し、吐き捨てるように言ったホークが、治癒魔法をユリウスにかける。
恐らく、ちゃんと話せるように体力を戻したという訳ではなく、回復させた生命力を奪い、屈服させるのが目的だろう。
「とりあえず、今この世界に侵攻してきているのは、貴族ガレア様が率いる魔王軍配下の魔将二人と、その部隊の魔人族約3000名。 そして、眷属がおよそ100万です」
「そんなに来てるのか。 よく、そんな数の次元間転移ができたもんだな」
「我が君がチカラを使い、我らを一瞬でこの世界へと飛ばしてくれたのです」
「へぇ~、魔王ってのは、伊達じゃないみたいだなぁ」
ユリウスが意気揚々と語りだしたが、それにはさほど驚かずにホークが、感嘆の声を上げる。
マサルも、遠い目をしながら答える。
このとき、ユリウスは気づかなかったが、長い付き合いであるホークは、マサルが微かな殺気を発しているのを感じた。
魔王と戦いたいらしい。
世界広しといえど、魔王と戦いたいなどと思うのはマサルぐらいしかいないだろう。
「では、次の質問だ。 その軍隊は今、どこに隠れている?」
「…………言ったところでわからないと思うが、それでもいいのか?」
「あぁ、構わない。 言ってくれ」
「この次元にはない閉鎖次元の中だ。 さすがに、この世界にあれだけの軍勢は置けなかったのだろう。 眷属どもは自らの欲望に忠実だしな」
「なるほど、わかった。 では、おまえはもう帰っていい。 用済みだ」
「…………は?」
「聞こえなかったのか? もう、帰っていいぞ。 あ、軍勢もしっかり連れて行けよ」
「は、はい。 …………ホントにもう帰っていいのか?」
「何度言わせる気だ?」
「直ちに帰りますッ!!」
半ば脅しとも取れる口調でホークがユリウスに帰るように命じる。
マサルはホークになにか策があるのだろうと思いあえて何も聞かずにそのまま流されるままに任せた。
自らの言葉通りに、配下の怪物たちを即座にまとめ上げ、10分としないうちにユリウスは帰り支度を終え、そそくさとこの場を後にしてしまった。
軍勢の撤収としては、瞠目に値する速さであり、下手したら過去最速で戦準備を終えて帰路についたかもしれないぐらいだ。
それもこれも、マサルが見せた人離れのチカラのおかげなのだが。
(ヒトどころか、神でさえあそこまでできるほどのチカラを持つ者はそうそういない)
「早ぇなぁ~、撤収」
「まるで、逃げるように帰っていったもんなぁ」
「…………実際に、その通りだろうが」
「そうだっけ?」
感嘆の声を漏らしたホークに、逃げるようだと評したマサル。
それに対し、呆れた様子でホークは言うが、党の本人はとぼけたように返し、ため息が返ってきた。
「おーい、マサルー。 なにがあったの?」
「ん? コータか。 いや、なに、見ればわかるだろ」
「確かにわかるけどさ、詳しい情報が聞きたいわけよ。 アレ、忍さんいつからいたの?」
「ついさっき。 てか、俺の魔法だって気付かなかったのか?」
「てっきり、マサルが真似したのかと思ってました」
「俺がヒトの魔法パクるわけねーだろっ!!」
「…………いつも、アキ姉の魔法パクってるじゃん」
「それとこれとは話が別なのっ!!」
「えぇー」
後ろから声をかけてきたコータたちだが、ホークがいることに気付き、コータが驚いたように声を上げる。
面識のあるコータは、楽しげにホークとマサルと会話をするが、誰の目から見ても明らかなぐらい「誰だ、コイツ?」という顔をしている誠二を始めとするワタルとミツルは不満げな顔をコータに向ける。
「ん? どうしたの?」
「この人、誰?」
「あぁ、自己紹介がまだだったな」
視線に気づいたコータに、誠二が代表して聞く。
その言葉に、納得したように頷き、後を引き取るホーク。
そして、ミツルにも引けを取らない美青年顔で、マサルと同じようにニヤリと不敵に笑う。
(あ、コレ強いヒトだ……)
そう本能で感じた3人にはお構いなしに、言葉を告げる。
「鷲目 忍。 遊軍大将であり、伝説のヒトだ」
「自分で言ったよ…………」
自信たっぷりの自己紹介に対し、マサルが呆れを多分に含んだ声音で言うが驚いた3人は声も出なかった。
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~次回予告~
ホーク「俺の登場シーン、カッコよかったよな!?」
ワタル「すげぇ、イカしてたぜ!!」
誠二 「派手でインパクト抜群!!」
ホーク「そっちの二人もそう思うよな!?」
コータ「う~ん、僕にはよくわからないなぁ」
ミツル「ダサい」
ホーク「辛辣だな、そこの君!?」
ミツル「否定しない」
ホーク「初対面でここまで言われるとは……」
ミツル「?」
ホーク「よし、ならば貴様がカッコイイと思うまで登場シーンの復習だ!」
ミツル「帰る」
ホーク「うおぉぉぉいいい!! ちょっと待って!?」
ほんとに帰ってしまうミツル。
ホーク「うぅ、悲しいな…………」
ワタル「俺らが見てあげますよ!!」
誠二 「是非、見せてください!!」
ホーク「おお、同志よ!!」
上機嫌になったホークと3人で肩を組んでどこかへ行く。
コータ「疲れるな、このパーティー」
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