第22話 強敵の予感?
ただのTシャツとジーンズに刀という恰好の姿のマサルは、誰よりも早く正門の前に来ていた。
まぁ、準備という準備をしていないので、一番早いのは当然だと思うが。
アキはちゃんと
自分は鎧を着ない派だが、アキには着ておいてほしいので、いつも無理やりにでも着させるようにしている。
あんまりマサルがしつこいからか、この頃は言われる前に着るようになってくれたのだ。
(それにしても、さっき俺が感じたあの魔法の波動は…………やっぱり、ホークだよなぁ)
ミツルが常に張っている広域探索魔法はせいぜい半径10kmくらいの中級魔法以上しか探知できないが、マサルはさらに高精度なものを半径30km(小さな県ならその全てを効果範囲下における)までに展開し、しかも発動者の力量まで図ることができる。
魔法の技能が高い相手にだと逆探知される心配もあるが、偽装の魔法もいくつか展開しているので見つかる危険性はまずない。
因みに言うと、今まで逆探知することができたのは、この世界では二人しかいない。
そして、マサルが探索魔法で見つけた相手は、その二人のうちの片方なのだが、今はとんと気配が消えている。
魔法を全く使っていないか、世界に10人いないくらいの実力者のマサルにも悟らせないくらいの高度な魔法をいくつも展開しているかのどちらかだろう。
死んでいる場合は勿論、探索魔法は意味をなさないが、その見つけた相手にはあてはまらいだろう。
マサルと全力で互角に戦えるほどの人物なのだから。
(それにしても、いまごろはどこにいるのかなぁ。 まぁ、デカい派手な戦闘を繰り広げれば気付くだろ)
そう考え、これから起こる戦いでは出し惜しみせずに派手に戦おうと意思を固めるマサル。
それがどれだけ迷惑な覚悟かを知っている者は、生憎この場にはいない。
アキかコータがいたら、その時の顔で悟り止めるだろうが、二人はまだ準備中だ。
「マサルさん、早いですね。 ……って、やっぱり、その恰好なんですね」
「そりゃ、そうだ。 動きやすいからな」
斉藤が配下の遊軍隊員300名ほどを引き連れ、背後から近寄ってきて、苦笑交じりにマサルに言う。
それに対しマサルは、何を言ってるんだと言わんばかりの声音で返す。
遊軍隊員は最初よりも増えており、最終的には500名になる手筈だったが、敵の妨害工作により未だに全員が集まっていない。
これについては、本当は所長であるディオニュソスの許可を取らなければいけないのだが、マサルが独断で呼び寄せたことになっており、訓練生たちが食事の手配などに駆り出される羽目になっている。
本来であれば所長個人の配下であるニンフやサテュロス達がやってくれるのだが、勝手に動いて後で怒られるのを怖がってやろうとしないので仕方なく訓練生がやることになった。
「それにしても、この戦、あなたならどう見ます?」
「どうって、どういう意味よ?」
「また古き敵が侵攻してくるかという意味です」
「そりゃ、十中八九そうだろうよ。 なんせ、5年前のアレは、ただの偵察だったらしいからな、聞いたところによると」
「では、アレ以上の戦力が今度は集結するとッ!?」
「だろうな。 魔人だって、たったの3人どころじゃないと思うし」
5年前の大戦に参加したことのある斉藤が、驚きを隠せない声でマサルに聞く。
マサルは顔色一つ変えずに淡々と語る。
背後では、遊軍の面々が息をのんで聞いているが、そんなのはお構いなしにさらに続ける。
「下手したら、対抗組織はすべて壊滅させられるかもな。 一般兵器じゃ、ヤツらに対抗するのは難しいし」
「…………そ、そんな馬鹿な。 遊軍はここ5年で戦力を大幅に増強したんですよ!? それでも、勝てないって言うんですか!!」
「たとえ、5年前に比べて10倍以上に膨れ上がったところで敵がそれ以上の戦力で攻めて来たらおしまいだろう?」
感情的になり声を荒らげて言う斉藤を窘めるように、現実を突きつけるマサル。
しかし、声を失った斉藤や、その部下たちをしり目にマサルは続ける。
「だが、それは組織単位での話だ。 大きな戦を起こしたら確かに消耗し続けるだろうが、俺やホークみたいな文字通りの一騎当千が何人もいるんだぞ? 最終的には負けるわけがないだろうが」
ふっふっふっ、と不敵な笑みと共に告げるマサル。
今まで話していたこととまるで正反対なので、目を白黒させて複雑な顔になる斉藤達。
そして、何か言う前に、コータたちが到着したので何も言えずに斉藤達はそのばでしばし固まる。
「マサル……やっぱり、その恰好なんだね」
「おまえだって、そんなに変わらないだろ」
「いや、ちゃんとレザーアーマー着てるじゃん!」
「下はジーンズじゃねぇか」
「そうだけど、防御面に不備はないよ!」
「そうか?」
「痛ッ!?」
「ダメじゃないか」
防御に不備はないというコータに、意地の悪い笑みを浮かべたマサルが、コータの足に蹴りを入れる。
霞むような蹴りだったが、ダメージは低く抑えたが、まさか蹴られるとは思わないので、対応できなかったコータがビックリしたように声をあげる。
「いいんだよ。 だって、どうせマサル一人で全部倒す気なんでしょ?」
「まぁ、そうだけどな。 面倒なのは取りこぼすかも」
「自分で面倒って言ったよ、この人」
「あはは、全体的な指揮は蓮に任せるから。 本人にもそう言っておいてね~」
「あ、逃げた」
諦めたように言うコータに、自ら墓穴を掘ったマサルは、言うだけ言って早めに門の外へと出て行ってしまう。
本来の集合時間まではかなり時間があったが、マサルの招集(脅しとも言う)によって、かなりの数の訓練生たちも集まってきている。
その中に蓮を見つけたコータは、さっそくマサルの言葉を伝えるために近づく。
「おーい、蓮~」
「コータか、どうした?」
「マサルが今回の指揮をよろしくだって」
「やっぱり、そうくると思ったよ。 伝えてくれて、ありがとな」
「どういたしまして。 …………一応、何があるかわからないから僕のチームを前線にしておいて」
「あぁ、わかってる。 気をつけろよ」
「そっちこそ」
周囲をそっと見渡しながら、蓮にだけ聞こえるように言うコータ。
蓮は二つ返事で引き受け、門の外へと向かっていくコータの背中を見届けてから、近くにいる仲間たちと作戦会議を開くべく本部へと向かった。
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「結局、どうゆうこと?」
「どうもこうもこういうことだろ」
「なにコレ、俺らみんなに嫌われてるの?」
「いや~、違うと思うよ…………多分」
ワタルの言葉にミツルが冷たく答え、泣きそうな顔で誠二が誰ともなく呟き、それをコータが力なく否定する。
配置が決まり、今はもう布陣し終えているのだが、作戦表を見たときと同じ会話がまたされている。
なぜ、こんな会話がなされているかというと、当初の予定通りマサルが自軍の前方にポツンといるのは同じだが、そのマサルと自軍の間にコータチームもポツンと取り残されたようにいるのだ。
本陣のほうは、見事なまでの翼陣形になっており、訓練生たちが中央を固め、その脇を遊軍の隊員たちが固めている。
その後ろには、赤い鎧で武装したサテュロスの槍部隊2千名が翼を囲むように布陣しており、もし突破されても食い止められるようになっている。
「うだうだ言っても仕方ないし、諦めよう」
「諦めるって、何を!? 援軍をっ!?」
「うるさい」
「敵さんは待ってくれないし、諦めようよ誠二」
意外と諦めのいいワタルが自分に言い聞かせるように宣言したのに対し、誠二が動揺して聞く。
そんな誠二をフォローするミツル(フォローになっているかはわからないが)とコータ。
「死にたくないよおおおおおお!!!!」
「死なないために戦うんだろ?」
悲痛な叫びを上げる誠二(模擬戦闘では大丈夫なのだが、本番に弱い)に、ワタルがどっかで聞いたことがあるような名言を言う。
ワタルのごもっともな言葉に、誠二は口を噤み、自らの愛用のナイフを構える。
こんなでも、いざ戦闘になったら頼りになるので、コータたちは何も言わないが、いい加減やめてほしい。
そんな茶番をやっていたら、前方のマサルが魔力弾を空に打ち上げた。
敵が来た合図だ。
「さぁ、来たぞ。 緊張しろ」
「おまえに言われなくても」
「ちょっ、それ僕のセリフ!」
「犇(ひしめ)け、朧霞!!!!」
「「イヤ、早いよっ!!」」
本来なら班長であるコータが班員を鼓舞すべきところをワタルが言ったので、敵対心むき出しのミツルと、非難めいた口調のコータ。
驚いていきなり奥の手を出そうとする誠二を、コータとワタルの二人が突っ込みながら止める。
この時、ミツルだけは、厳しい顔をしていた。
自分の展開していた広域探索魔法に、大きな反応が来たと思ったら、魔法が無力化されたのだ。
いや、消滅させられたといってもいい。
探知容量を超える魔法を捉えでもしない限り、消えはしないのだが、その魔法が消えたことに危惧を覚える。
おそらく、敵にはマサルと同等かそれ以上の強者がいるのだろう。
「どうしたの、ミツル? 厳しい顔して」
「この戦い、負けるかもしれない」
「…………何を探知したの?」
「とてつもなく強大な魔力。 恐らく、マサルに匹敵する」
「おいおい、マジかよ!!」
「じゃあ、俺らがその他の怪物ども相手かよ!!」
異変に気付いたコータが、ミツルの方を見て真剣に尋ねる。
ミツルは隠す気もなく真実を告げ、ワタルと誠二が共に驚いたように言うが、コータだけは落ち着いていた。
「それは、敵に魔人がいるからだろう」
「魔人だって!?」
「嘘だろっ!?」
「納得だな」
5年前の大戦の折、コータは一度だけ魔人と会ったことがある。
その魔人は、神々を何柱も葬り、マサルと互角に戦った。
最終的な決着はつかなかったが被害が大きかったのを覚えている。
「魔人とこんな早くに戦うことになるなんて…………」
そう呟いたコータの声は、この場にいるみんなの心の声を代弁したものだった。
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