第16話 本気で行くぞっ!!

 「行くぞ、みんなっ!!」


 「おう!」

 「任せろっ!」

 「承知」


 コータの宣言するような声に、力強く返事をするワタル、誠二、ミツルの三人。

 敵は、不敵な笑みを湛えるマサルとアキの二人だ。

 コータ達は、事前に打ち合わせしたようにそれぞれ動く。

 もっとも、敵の戦力がよくわからないまま詳細な作戦を立てると、逆に足枷となりチームを危険に晒すことになるので、おおまかな作戦を立てただけなのだが。

 その作戦とは即ち、一人で敵に当たろうとするなだ。

 この4人の中では、コータしかマサルとアキの強さを知らないし、しかも、最後に戦ったのは何年も前になるので、あまりアテにはならない情報ではあるが、強かったのは事実だ。

 そして、どう転んだとしても、弱くはなっているとは思えない。

 コータとしては、以前より自分が比べ物にならないくらい強くなっていると自覚しているが、なにせ相手は自分の姉と伝説のヒトなので、さらに強くなっているハズだ。

 だから、一人で敵に当たるようなマネは絶対にするなと言い含めてある。

 コータとミツルなら、もしかしたらなんとかなるかもしれないが、『かなり強い』ぐらいのワタルと誠二では、簡単に押し負けるだろう。

 『天才的に強い』と称されるコータとミツルでさえ、何分も押し留めることは難しいに違いない。

 それを肯定するように、さきほどのミツルのシールドが残り一枚だったのがさらに事実を濃くした。


 (僕の予想より、はるかに強くなっているよ、あの二人)


 コータは密かにそう思ったが、それはこちらにも言えることだ。

 俊敏な動きで、カスタムと魔法のナイフを持つ、ワタルと誠二がマサルの前に踊りこみ、剣戟けんげきを浴びせている。

 向こうはマサルが前衛で、アキが後衛なので、飛び込んだ二人を自然とマサルが受ける形になる。

 ワタルと誠二は各々の邪魔にならないように、的確に鋭い一撃を先程から叩き込んでいるが、マサルは華麗なステップと剣さばきで、なにかの舞でも舞ってるかのようになんなく防いでしまう。

 その間、ミツルが攻撃魔法でアキに攻撃を仕掛け、戦闘に参加できないようにしている。

 お互いに魔力が無尽蔵といってもいいほど魔力量が多いので、一進一退の攻防が続いている。

 

 「ヘルファイア」

 

 「シールド! からの、アイスストライク!!」


 「燃やし尽くせ、インフェルノバーナー!!」


 「消し飛びなさい! 嵐の気流ラン・ストリーム!!」


 地味に前衛で戦闘を交わしている(本人達は本気だが)その後ろで、派手な魔法攻撃が右に左に飛び、観客がそちらに釘付けになる。


 「両者ともに、激しい戦いを繰り広げているーー!!!! あのミツルと今までこんなに対等な戦いを繰り広げた魔法使いルーンマスターがいただろうか!?」


 カオリが自前でシールドを貼りながら、声を魔法で大きくしながら観客が興奮するように実況する。

 ハメられたにも関わらず、意外と実況の才能があると思わされるコータ。

 そのカオリの言葉に、相変わらず、見る者をゾッとさせるほどの攻撃魔法を発動させながらアキは笑みを深くしてミツルを見る。


 「うふふ、そう、あなたが今の訓練所で一番強い魔法使いなんだ? ちょっと前まではずっと私だったのに、ちょっと嫉妬しちゃうわね」


 「俺は興味ない」


 「あら、そう? でも、私は一番じゃなきゃ気が済まないの。 だから、勝たせてもらうわ」


 「……………………」


 アキの言葉に、ミツルは興味ないと返したが、その言葉を聞いた瞬間、さらに魔力が高まるのを肌で感じ取ったミツルは、最初と同等ぐらいの闇魔法が来るのを本能的に察した。

 だが、チームメンバーには忠告しない。

 いまここで、変に連絡伝達魔法コミュニケーションラインで連絡を取ってしまっては、シビアな戦闘をしているワタル達の連携が途切れる可能性がある。


 だから、任せることにした。


 自分の班の班長リーダーに。


 「後ろだ」


 「!? ―――っ!!」


 突如として、闇から染み出たようにアキの後ろに突然現れたコータを見て、ミツルが言う。

 最初は何のことか全くわからなかったアキだったが、マサルが急に振り返り、その人間離れした脚力でアキの後ろに慌てて飛び入り、コータの斬撃を防ぐ。

 

 「あーあ、惜しかったなぁ。 今のは倒せたのに」


 「―――っ!?」


 先程までは気配すらなかった場所に、今は濃密な殺気を纏ったコータがおり、力と鋭さが乗った剣で、マサルが受け止めた剣を後方に弾き飛ばし、がら空きになった首に剣腹を叩き込もうとする。

 だが、マサルは紙一重のところで避け、地を蹴ってアキを片手で収容キャッチし、後方に飛び退りながら、弾き飛んで空中を飛んでいた自分の剣をろくに見もせずに手に握る。


 「今のを避けるのかっ!?」

 「バケモノだなっ!!」

 「無理だったか」


 コータは、この瞬間のために、今の今まで戦闘に参加せず、客からも目を向けられないようにしていた。

 そのために、チームメイトが派手に動き回ることによって、自分の存在を限りなく薄くし、持ち前の運動神経で誰にも気付かれることなく背後へと回ったのだ。

 今までのチーム同士での模擬戦闘で、強敵と感じた相手にはよくやる手だが(それでも、いままでで数回しか使ったことがない)、それを初見のマサルに防がれ避けられたので、驚く誠二とワタル。

 普段なら、そのまま敵チームが二人だろうが五人だろうが、無力化できるほどの効果を示すのに、この怪物兄には通用しなかった。

 ミツルだけは予見していたようだが、それでも少なからず驚いているようで、声音に珍しく落胆の色が少し見えていた。


 「あ、アブねぇー。 俺がやられるとこだった」


 「ありがと、マサル。 今のはヤバかったわ」


 途端に助けに入ったマサルが、驚きを隠せない様子で、息を整える。

 助けられたアキは、抱えられたマサルの腕から下ろしてもらいながら礼を言う。


 「なんで、気付いたの?」


 「正確に気配を掴んだわけじゃない。 勘で飛んだだけだ」


 「…………マサルらしいね」


 今まで見破られたことはないので、気になって聞いてみるコータだったが、マサルが真面目くさった顔で言うので、呆れて返す。

 普段の日々を感覚で生きているようなヒトなので、聞いた自分がバカだったと、理論的な回答は諦める。


 「でも、これで奇襲は効かないことがわかったから、こっちも全力で行くよ」


 そう言って、剣を構えなおし、自分の腕時計を二回、ポンポンと叩く。

 すると、時計の針と文字盤が回りだし、次第に巨大化。

 スクトゥムと呼ばれる、120cmほどの長方形の大型盾が出てくる。

 銘はボルトと言い、その名の通り、電流を発することができる。

 ただし、相手の剣がこの盾に当たっているときにしか電流を流せないので、こういう対人戦闘ではあまり効力を発揮されないが。

 嵐の精との戦いでは使わなかった、コータ本来の戦い方である。

 その、剣と盾を用いる騎士風の戦い方に変えたのを見たチームメイトも、それぞれの本気を出す。


 「仕方ない、やるか~。 カスタム、行くぞ」


 その真剣な顔で、やる気のなさそうな掛け声と共に、カスタムに自らの魔力をつぎ込むワタル。

 だから、どうやったらそんな風に表情と声音を分けられるんだ。

 ミツルほどの魔力はないが、それでも他の魔法使いと比べたら多いほうのワタルは、呪文を唱え魔法を繰り出す純粋な魔法使いではなく、自らの剣に魔力を乗せて戦うタイプだ。

 ワタルの呼びかけに応じるように、紅く怪しく光りながら、ワタルの魔力を吸い取るカスタム。

 ワタル本来の戦い方である、魔砲剣士へと戦闘姿勢スタイルを変える。


 「全く、面倒だなぁ」


 その声と共に、誠二は自分の持っている魔法のナイフを、長剣ほどのサイズにする。

 彼の持つ刃は、伸縮自在で、かつ形も変えられるのだ。


 「ひしめけ、朧霞オボロガスミ


 意を決したような声で、自らの刃に命令する誠二。

 その言葉に答えるように魔法の刃、朧霞は剣の形を失い、辺りに溶けるように刀身が霧になって誠二の周りを飛び回る。

 そして、誠二の持っていたナイフは、その小さな霧一つ一つが刃であり、盾にもなるという攻防一体の恐ろしい兵器へと姿を変える。


 ミツルだけは、転移魔法で自ら愛用の天上の樹であるユグドラシルで創られた古めかしい杖を取り出し、魔力を高める魔道具マジックアイテムであるローブも転移魔法で引き出し、羽織る。

 みるからに魔法使いという格好のミツルだが、それが恐ろしく似合っているので、客席からは溜め息が漏れる(女性陣の)


 「コータチームがついに本気を出したぞぉぉぉ!!! この訓練所最強のチームがついに牙を剥いたぁぁぁぁ!!!!」


 みんなの準備が終わるまで、静かにしていたカオリが、終わったのを見計らい、大声で叫ぶ、

 その声にこたえるように歓声があたりを包む。

 やっぱり、煽るのが上手いと思う。

 マサルとカオリは、ただじっと待っており、手を出そうとすらしなかった。

 決して、侮っているわけではない。

 本気になった自分達と戦ってみたいのだろうと、コータは直感で気付いていた。

 自分より強い強者を求めるクセは、二人とも前から変わってないらしい。


 「やっとか、さっきより楽しませてくれるんだろうな?」


 「その点に関しては、心配しないでよ。 マサルたちにも本気を出させるように頑張るからさ」


 「ほぉ、それは楽しみだなぁ。 じゃあ、挑戦するかぁ?」


 「望むところだよっ!! ここからが本番だ。 よし、行くぞっ!!」


 「「おう!!」」


 ニヤニヤと、コータたちを見つめるマサルが、挑発するように言うが、その言葉に自信たっぷりに返すコータ。

 そして、本気を出させると宣言する。

 その言葉に、頼れるなにかを見つけたのか、目を細めながら言うマサルに、コータは勢いよく声を発し、チームメンバーに声をかける。

 そして、仲間達の固い意志を感じ取り、戦闘を再開する。



----------------------------------


~次回予告~


次回、ついに模擬戦闘決着!!


ワタル「初めてちゃんとした次回予告したね、作者」

誠二 「ホントだ。 いつもはただのギャグ会なのに」

ミツル「職務怠慢だと気付いたんだろう」

コータ「みんな! 可哀想だからやめてあげて!!」

ワタル「そんなコト言って、コータ主人公なのにキャラ薄いけど?」

誠二 「そうだよな、なんか文句ないの?」

コータ「べ、別にないよ!!」

ワタル「まぁ、ユキが好きぐらいだよな、特徴といえば」

誠二 「それが無難なんじゃない?」

ミツル「努力が足りない」

コータ「みんなして、なんなんだよぅ~!!」

作者 「コータはこれからキャラ濃くなるんだよ!! …………多分」

全員 「アンタがそれ言ったらダメでしょうが!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る