第14話 伝説のヒト?

 「マサルです」


 「アキです」


 「「「………………」」」


 話の途中で、コータが来客を相手にしてるかと思えば、目の前にいきなり連れてこられた男女二人を目の前に、困惑を隠せないワタルと誠二。

 ミツルだけは、興味なさげに二人を見ているが。

 しかも、自己紹介をした二人は、片方は爽やかなイケメンというカンジで、もう片方は背中まで伸びる茶色がかった髪が映え、キレイという形容詞が似合う女性なのだ。

 それに、自分達よりもいくつかは年上に見えるので、先輩なのだろう。


 「で、このヒト達は?」

 

 「僕の兄貴と姉さん」


 「「兄貴とお姉さま!?」」

 「へぇ」


 誠二がいきなり連れてきたコータに、説明を求めるように視線を送るワタルの支援を受けて、ぞんざいな口調で聞く。

 だが、コータがさらっと、いきなり爆弾を落としてくれたので、誠二とワタルが驚いた顔で、マサルとアキの二人のほうを見る。

 ミツルも珍しく感嘆したような声を出したので、よほど驚いているのだろう。


 「どうも、兄です」

 「うふ、姉です」

 

 「ねぇ、二人とも。 ふざけてないで、ちゃんとした自己紹介をしてよ?」


 ワタルと誠二の驚いた顔が面白かったのか、嬉しそうな顔になって、短く自己紹介(というか、宣告)をしたマサルとアキに、コータが首を振りつつ手のかかる兄姉に言う。

 

 「はいはい、わかったよ。 俺は鈴木 マサル。 『すべての意志をつぐ者』で、世界最強の男だっ!!」


 「私は、アキ。 私も『すべての意志をつぐ者』よ。 まぁ、それなりに強いわよ」

 

 ちゃんとした(ちゃんとしてるのか?)自己紹介をする二人の言葉に、驚きと怪訝な目を向ける誠二とワタル。

 なぜ驚いたかというと、数の少ない『意志をつぐ者』の中でも、特に少数で貴重な戦力である『すべての意志をつぐ者』が眼前に二人もいるからだ。

 コータとユキもそうだが、この訓練所には、彼ら二人しかいないと思っていたのだ。

 因みに、誠二、ワタル、ミツルの『意志』も絶対数が少ない、貴重な存在の一員だ。

 なぜ、少ないのかは未だによくわかっていないのだが。


 「誤解のないように最初に言っておくけど、この二人は兄弟じゃなくて、夫婦だからね。 僕の血の繋がった兄弟はアキ姉(ねぇ)だから」


 「いや、いきなりそんないっぺんに言われても脳の処理能力が追いつかないんだけど」


 驚いている二人に、さらに追い討ちをかけるように言葉を浴びせるコータ。

 その言葉に、頭を痛くした誠二がコータにすかさず言う。

 ワタルは完璧に脳の容量過多キャパオーバーを起こしたようで、呆然と宙を見つめている。

 

 「だから、血の繋がった姉のアキ姉がマサルと結婚して、マサルが僕の義兄になったってコトだよ」


 「あー、なるほど。 わかったけど、できればそれをちゃんとした説明と一緒にしてほしかった。 ワタルだって、あんなだし」


 「うん、そうだね~」

 

 「だから、説明したでしょ?」

 

 「コータって、たまに雑なトコロがあるよなぁ?」

 「そうだよねぇ、今だって雑だったし」

 「それがコータだ」


 「ちょっと、そこ! しっかりと僕の耳に入っているぞっ!?」


 ぞんざいな説明をするコータに、誠二が苦言を呈したが、キョトンとした顔をしながら応える。

 そのコータに、不満を表した誠二が他の二人に同意を求める。

 いつもはいがみあって協調性がないくせに、三人で同じ結論に至り、妙なところで協調性を見せる三人。

 そんな三人に非難めいた声音で、注意をするコータ。


 「でも、確かにコータは雑よね」


 「あぁ、そうだな。 器用なのにな」


 コータが注意をした横で、アキとマサルのふたりがそろって首肯する。

 仲間のみならず、姉と義兄からも、言われているトコロを見ると、普段もそうだったんだろう。

 

 「やっぱり、俺らは間違ってなかったな」


 「そうだな」


 「うむ」


 同意を求める誠二に、頷きながら返すワタルとミツル。

 全く悪びれもせずに言い切ったので、コータの顔が引きつったが、そんなコータには、触れずに誠二が二人に質問を始める。


 「そういえば、なんでマサルさんとアキさんは訓練所にいなかったんですか? 訓練生なんですよね?」


 「訓練生だけど、ちょっと探し物をしてて、訓練所に中々帰れないんだよ」


 「ほら、二十歳以上の訓練生は今はいないでしょ? それと同じような理由よ」


 「なるほど、じゃあ、またどっかに探し物に行くんですね?」


 「それが、もう行かなくていいのよ。 見つかったから」


 「この話は後で、所長にもするから。 その後に訓練生全員に連絡するから、その時に話すから今はいいだろ?」


 「まぁ、そう言うなら」


 誠二の質問に対し、歯切れの悪い答えを返すマサルとアキ。

 どこか真実を知られたくないようだと、誠二は思ったが、そんなことはおくびにも出さない。

 

 「それにしても、随分と早かったね? あと、二年くらいは帰って来ないとか言ってたのに」


 「まぁ、アレはあくまで目安だからな。 それに、今回はこっちが探し当てたんじゃなくて、向こうから来てくれたワケだし」


 「ちょっと、マサル!!」


 「あぁ、悪かった。 口がすべった」


 コータが空気を戻すように、マサルとアキに言ったが、マサルは全く考えずに言葉を発したので、アキが窘めるように鋭い声を発したが、悪びれもせずに謝るマサル。

 そんなマサルに、ワタルが聞く。


 「そーいや、マサルさんが伝説の中のヒトって、ホント? ミホに聞いたんだけど」


 ワタルが、興味深げに聞こうとするが、その時にはまだ訓練所にはいなかったハズなので、なんで知っているのかと、驚いた顔でワタルを見るコータ。

 そんなコータに気付いて、説明を求められるまえに、自ら先に断っておくワタル。


 「ああ、そうだぜ。 因みに、あん時の敵の総大将をやったのも、俺だ」


 「軽く言う割には、苦戦してた癖に」


 「ばっ、こーいう時は少しでも先輩の所業を偉大に見せるモンだろっ!?」


 「でも、戦いが終わってから3日もずっと寝込んでいたじゃない」


 「それと、これは別の話しだ!!」


 「えぇーと? どういうこと?」


 「つまり、あのときの戦いで、一番活躍したのは間違いなくマサルなんだけど、戦いが終わった瞬間にぶっ倒れて3日間ずっと目を覚まさずに、ベッドの上で生死を彷徨っていたってこと」


 「へ、へぇ~。 すごいのか、微妙なのかよくわかんねーや」


 ニヤッと不敵に笑いながら、勝利宣言をしたマサルだったが、隣にいたアキが白い目で事実を告白すると、見栄を張ったことを自ら暴露するマサル。

 ワタルがよくわからないといった風に、コータに説明を求めると、詳細を話し出すコータ。

 詳細を聞いたワタルは、なんとも言えない顔つきで、最初は頷いたが、結局よくわからないと言い出す。


 「いやいや、すごいんだぜ? 少なくない犠牲を払って勝利できたのも、俺が多大なる貢献をしたからだしな」


 「まぁ、そこは・・・認められるわね」

 

 「そこは・・・ってなに、そこはって!?」


 「だって、その通りでしょう? アンタが好き勝手暴れたおかげで、こっちがその後どれだけ苦労したか…………。 特に、渋谷で戦闘になったときなんかは、混乱が起きないようにあれだけのヒトに幻惑の魔法をかけたりしたんだからねっ!?」


 「はい、すいません。 それはホントにごめんなさい」


 ワタルに、しっかりと認識してもらうために、念を押すマサルだったが、しんねりとした声音で言うアキ。

 それに対抗するように声を上げるが、思い出したように頭を押さえながら言うアキに、やるせない気持ちになって素直に謝罪する。


 そんなマサルを見て、どこか自分と同じような匂いを感じ取ったワタルだったが、慰められるとさらに気落ちすると思ったので、温かい目でマサルをみる。

 その視線に気付いたのか、マサルが晴れやかな顔で微笑んでくれたので、ワタルとしても嬉しい気持ちになる。


 「ゴホン、そういえば、せっかく帰って来たんだから、久しぶりに僕と試合してくれよ」


 「私達二人と?」


 「それでも、いいけど…………じゃあ、こっちはチームでいい?」


 「いいわよ、別に。 マサルもいいでしょ?」


 「あぁ、俺は全然構わないぜ。 新しい世代がどれだけ育ったか見るのも大切だしな」


 「じゃあ、それで決定だね」


 咳払いをして、話題を転換したコータが、マサルとアキに試合を申し込み、二つ返事で了承してくれたので、内容についていけないチームメイトが口を挟む前に決まってしまった。


 「ええ? どういうこと?」

 「だから、僕達4人対、マサルとアキの二人だよ」


 「今から?」


 「うん、今から。 どうせ、もうすぐで夜ご飯だし、それまでにお腹を空かせると思って。 宴だからいっぱい食べ物出るし」


 当然のように疑問を呈した誠二に、もう一度説明するコータ。

 しかも、本人はただお腹を空かせるためだけに試合をしようと言っているので、その感覚がいまいち、よく理解できない3人。


 「俺もやるのか~?」

 「俺もか?」


 「当たり前じゃん! だって、僕のチームメイトじゃん!!」


 「うわぁ、理不尽だぁ」

 「仕方ない、コータだから」

 「うへぇ、あんまり汗かくことやりたくないなぁ」


 答えはわかりきっているが、聞かなくては納得ならないワタルとミツルが聞くが、当たり前のように言うコータ。

 そんなコータの反応を見て、誠二がヤル気のなさそうに言うと、感情の感じられない声でミツルが言い、それに答えるようにワタルが呑気に言う。

 試合自体は満更でもなさそうなので、すぐにでもこの部屋から出ようとする三人を驚いて見るコータ。


 「どうかしたか?」

 

 「いや、なんでもない」


 代表してミツルがコータに首を傾げて聞いたが、目をしばたいて首を振るコータ。

 その後ろではマサルとアキがひそひそと話していたが、コータの耳でも何を言っているかは聞こえなかった。


 「よし、じゃあ行こうか」


 「「「おう」」」


 この後、この4人は地獄を見るハメになるのだが、最強チームの一角を担う彼らには知る由もない。



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~次回予告~


マサル「どういう風に戦おうか?」

アキ 「やっぱり、魔法で一気にカタをつけちゃいましょうよ」

マサル「それじゃあ、面白くないだろ!」

アキ 「なら、戦略級魔法を弱めに発動して、弱ったトコを倒すっていうのは?」

マサル「いいな、それ! それで行こう!」

アキ 「フフッ、久しぶりに戦えるわね」

マサル「そうだな」

マサル&アキ「フフフフフフフフ」


ワタル「はっ! 何者かの陰謀を感じる!!

誠二 「奇遇だな、俺もだ」

コータ「なんか、寒気がする」

ミツル「確かに」

   この時、先に外に出ていたコータたちは野生の勘に身を震わせていた。

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